2021.08.20 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<54>ドイツに見るデジタル化と5G化のヒント⑥
これまでドイツがけん引するインダストリー4.0についてみてきたが、その本質は「ITとOTの融合」とも言えるのではないだろうか。
ここでは「OT」とは何かというところから始めよう。オペレーショナル・テクノロジーの略で、製造をはじめエネルギー、発電、流通、鉄道といった公益事業など、さまざまな産業における「運用技術」のことを指す。
電気・ガス・水道などの社会インフラをはじめ、石油・天然ガスなどのプラント、製造工場、鉄道や運輸などは、安定して稼働を続ける必要がある。止めずに稼働し続けるために不可欠なのがOTで、現場の機器や資材など、刻々と変化する情報をセンサーで計測する「監視」がその一つだ。
もう一つは、水道管やガス管、パイプラインなどの流量を調節するバルブや、製造工場の工作機械や産業用ロボットを動かすモーターなどの「制御」になる。これらの運用に欠かせない監視・制御をタイムリーかつ正確に実行するハードやソフトウエアのことを総称してOTということが多い。
二つのOTネット
その代表例が、製造現場のFA(ファクトリー・オートメーション)だろう。組み立て加工の無人化など、生産システムの自動化を図るためには、産業用ロボットの導入だけでなく、既存の生産ラインや生産管理システムとの緊密な連携が不可欠で、それを支えるには「フィールドネットワーク」と「コントローラーネットワーク」の二つのOTネットワークが必要となる。
ここでいう「フィールドネットワーク」とは、現場の生産ラインを構成するフィールド機器(センサー、モーター、バルブ)とコントローラー(PLC:プログラマブル・ロジック・コントローラー)間でデータのやりとりをするもの。リアルタイムの監視と制御が求められるため、例えば産業用ロボットのモーション制御は1ミリ秒程度の超低遅延が要件となっている。
一方の「コントローラーネットワーク」は、複数のコントローラーが互いに連携し合いながら有機的かつ正確なタイミングで動作させるもの。コントローラー間で同期をとりながら通信を行う。数十ミリ秒程度の超低遅延が要求されるという。
加えてFAシステムには産業用パソコンやタブレットとともに、現場の司令塔であるMES(製造実行システム)が接続される。MESは、工場内の機器や作業員、ロボット、資材、仕掛け品などの数量や状態をリアルタイムに把握し、ERP(統合基幹業務システム)の一部でもある生産管理システムと連携した生産計画に基づいて作業スケジュールを組み立て、生産ラインへの指示・管理、データ収集、保全を行う。
少し長くなったが、OTネットワークには「超低遅延」と「生産管理システム(ERP)連携」の双方が求められるわけだ。ところが、デジタル化のベースにもなるERPが接続されているのは超低遅延とは無縁なITネットワークで、情報システム部が担当する。
対するOTネットワークは生産技術部の担当で、メーカー固有の仕様が多く、クラウドを含む外部接続は難しいなど、デジタル化にはほど遠い。
この水と油の関係にあるITとOTの融合を「参照モデル」で推進しているのが「プラットフォーム・インダストリー4.0」だ。
では、このモデルによる工場の5G化とはどのようなものなのだろうか-。さすが哲学の国だけに奥深い。(つづく)
〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉