2021.08.26 【化学材料特集】独自性ある先端材料開発で差別化

熱硬化性の低誘電樹脂熱硬化性の低誘電樹脂

 化学材料の技術革新が進んでいる。IT・エレクトロニクス技術が進化し、電子部品・デバイスへの技術要求が高度化する中で、化学産業には既存技術のブレークスルーに向けた新しい素材開発が求められている。化学メーカー各社は、第5世代移動通信規格5GやCASE、次世代半導体プロセスなどに照準を合わせたR&Dを強化し、独自性のある先端材料開発による差別化を促進する。カーボンニュートラルに向けた技術開発にも力が注がれる。

エレクトロニクスの技術進化を支える

 化学材料は、各種電子・電機機器や電子部品・半導体・ディスプレー、自動車・輸送機器、製造装置、通信・社会インフラなどの技術進化を支えるコアとして、重要な役割を担っている。

 日本の化学材料業界は、わが国の産業界を代表する基幹産業の一つ。世界の化学産業全体に占める日本の化学産業の企業規模は、欧米系の巨大化学メーカーなどに比較すると劣っているものの、最先端のIT・エレクトロニクス産業や先進的な自動車、最先端半導体プロセスなどの分野では高い存在感を示している。

 日本の化学材料メーカーは、高度な技術力と継続的なイノベーションを通じたソリューション提案によって、ワールドワイドで実績を拡大している。

 アプリケーション別では、本格的な普及が進む5G通信関連(端末/基地局)や、CASEをキーワードとした次世代自動車、半導体の微細化、人工知能(AI)・IoT、自動化・ロボット化などの新潮流に照準を合わせ、次世代や次々世代に向けた中長期での技術戦略の強化に努めている。

 自動車分野では、ADAS/自動運転技術の高度化や、コネクテッドカーへの進化、電動化などに照準を合わせ、高速大容量通信を実現するための素材開発や、車載インバーター/コンバーター/リチウムイオン電池(LIB)向け材料、車載軽量化素材などの開発に力を注いでいる。

 半導体関連分野では、次世代半導体プロセス材料開発が活発。半導体露光分野では、先進露光技術のArF(フッ化アルゴン)、さらにEUV(極端紫外線)リソグラフィー向けのプロセス材料開発や供給体制拡充の動きが活発化している。

 次世代パワー半導体向けの素材開発も活発で、SiC(炭化ケイ素)材料の開発や生産能力増強への取り組みが進展している。

 スマートフォン、タブレット端末、ウエアラブル端末などのIT機器向けでは、5Gでの高速大容量通信を支える新規材料開発や、スマホの薄型・高機能化に向けた機能性材料、最先端のフォルダブル端末などで不可欠となるフレキシブル素材開発などに力が注がれている。

 環境/エネルギー関連では、LIB、全固体電池、太陽電池、燃料電池、蓄電システムなどのイノベーションのための新材料の開発が進展し、バッテリーの大容量・高効率化に向けた取り組みが進められている。

脱炭素化に向けて新素材

 最近の電子材料市場は、米中貿易摩擦激化の影響に加え、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済活動停滞により、2020年前半は停滞したが、20年夏以降は、世界的な自動車やICT機器需要回復に伴い、好調に需要が拡大している。

 電子材料需要回復の動きは21年の年明け以降も継続している。さらに、21年2月には米国での大寒波によって、化学メーカーの工場が集積するテキサス州で長期間の停電が発生したこともあり、現在はナイロン系樹脂をはじめ、さまざまな素材の需給が逼迫(ひっぱく)している。このため樹脂加工メーカーなどでは、原材料調達体制を強化するとともに代替材料の提案などにより、サプライチェーンの安定化に努めている。

 最近は、日本の化学メーカーによるM&A(企業の買収・合併)や他社とのアライアンスの動きも一段と活発化している。近年は、イノベーションの推進のため、オープンイノベーション戦略を強化する素材メーカーも増加しており、ICT関連、モビリティー関連、環境・エネルギー、医療機器/ライフサイエンスなど、さまざまな分野でオープンイノベーションが志向されている。

 生産プロセス改善では、デジタル技術を活用した開発効率向上や生産性向上への取り組みが進められており、大手化学メーカーを中心に、AIやIoTを活用した生産プロセスの最適化や、試作から量産までの期間短縮などの取り組みが図られている。

 20年代に入り、大手化学メーカー各社による、30年あるいは50年などを見据えた長期ビジョン策定の動きも活発化している。同時に、主要各国政府のカーボンニュートラル目標設定の動きに呼応し、化学メーカー各社によるカーボンニュートラルの達成時期目標の設定や、その実現に向けた具体的なロードマップ策定などの動きも加速している。脱炭素化に貢献する新素材開発なども一段と重要視されている。

 各社は、今後も高度なイノベーション能力を武器に、さまざまなアプリケーションへの最適なソリューションを提供することで、中長期での事業拡大を目指す。