2021.08.31 【ソリューションプロバイダー特集】市場動向 AI

AIによる映像解析技術と生体認証技術を組み合わせ、マスクを着けたまま人物を判別できるNECのシステム

ニューノーマル対応の新技術が様々な分野に進出

 新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに幅広い業種でデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)が加速する中、人工知能(AI)を活用して新市場を開拓する動きが熱を帯びている。マスクを着用したまま顔認証が行えるシステムなど感染抑制に向けた「ニューノーマル(新しい日常)」に対応した技術も次々と具体化。医療現場をはじめ、流通や小売りの現場でも業務の高度化や効率化を後押しする。

 東京都港区のNEC本社。会議室に向かう扉の前で、マスクをしたまま認証カメラに顔を向けると、ほぼ一瞬で扉が開いた。わずか数分前にタブレットでマスクなしの顔写真を撮影され、登録手続きを終えたばかりのことだ。

 同社は、強みを持つAIによる映像解析技術と、顔認証技術をはじめとする生体認証を組み合わせ、コロナ禍で着用が日常になったマスク姿のままでも判別できる顔認証システムを開発した。検出した顔画像からマスク着用の有無を判定して顔認証アルゴリズムを切り替え、特徴点の抽出と照合を行う。マスク着用者と非着用者が混在しても高精度な認証を可能にした技術だ。

 米国国立標準技術研究所の技術テストでは、データベース上の複数人の顔情報を照合しユーザーを本人認証する方式で、1200万人分の静止画の認証エラー率が0.22%と性能評価され、世界1位を獲得した。

 今後は本人認証の信頼性を武器に、キャッシュレス決済や公共サービス・公共交通機関のほか、空港、ホテル、大規模施設、イベントなどへと利用の幅を拡大させる考えだ。

 IT専門調査会社のIDCによると、昨年のAIシステムの国内市場規模は前期比47.9%増の1579億円に急拡大。コロナ禍でもAIへの投資熱が旺盛だったことを裏付けた。今年も同34.1%増の2119億円と堅調な伸びが予測されており、25年の市場規模は4909億円に上ると見込まれる。

 特に伸びているのがAI関連のアプリケーションだ。昨年、市場の3分の1以上を占めるソフトウエアが同45.2%増と大幅に増え、市場の急成長をけん引した。

 医療現場にもAIが浸透し始めた。NECグループでヘルスケア事業を手掛けるフォーネスライフ(東京都中央区)は7月から、血中のタンパク質を測定してAIが4年以内の疾病リスクを予測するサービスの提供を、一般の医療機関でスタート。未来の病気や生活習慣病のリスクを可視化し、「人生100年時代」に対応する取り組みだ。

 採取した少量の血液から一度のタンパク質測定を行い、「健康状態の推計」「疾病のリスク予測」から「健康改善に向けた個別提案」までを一貫して提供する。AIがリスクを判定し、予測に基づいて食生活の改善などに取り組んだ場合のシミュレーションも行う。

 検査では、被検者と類似した血中タンパク質のパターンを持つグループが、実際に4年後に疾病を発症した確率を解析することで、4年以内の発病リスクを予測する。

 日立製作所は、栃木県と同県国民健康保険団体連合会に、AIを用いた保健事業支援サービスの提供を始めた。糖尿病の重症化を防ぎたい県民の要望に応えるだけでなく、そこで培った知見をほかの自治体に横展開することも目指す。

 日立が蓄積する医療ビッグデータ分析の技術を活用。糖尿病の重症化予測に特化した県独自の予測モデルを構築した。

 予測モデルを生かすことにより、血液検査の数値や病歴といった健康状態に関わる項目と糖尿病の重症化リスクを結び付け、5年以内に糖尿病が重症化して受診や入院が必要になる確率を算出する。将来の発症リスクを3段階で判定し、合併症の発症率や人工透析が必要となる確率を予測して可視化することもできる。

 小売りの現場でもAIが活躍する。富士通は、来店した客の行動をAIが分析・学習し店舗運営や接客対応の向上を図る映像解析システムを市場投入。採用したイオンリテール(千葉市美浜区)は今年度中に国内76店舗で展開する予定だ。

 同システムは、店内のカメラ映像をAIが解析。来店客の混雑状況をリアルタイムで検知し、新型コロナウイルス感染拡大防止に向け、3密を避けた店舗運営を支援する。

 レジ前のカメラでは年代情報を分析し、酒類を購入しようとする客が未成年と推定される場合、従業員に連絡して未然に販売を防止する。体格や服装などから性別、年代を推定するため、マスクを着用していても解析できるという。

 物流現場でもAIを通じた協業が進む。富士通とサントリーロジスティクス(大阪市北区)は、フォークリフト操作をAIで判定するシステムを共同で開発した。ドライブレコーダーの映像から、走行状態や貨物を乗せる爪部分の動きをAIが検知し、危険が疑われるシーンを動画上で可視化して運転者に知らせる仕組みだ。

 従来は安全推進部の従業員が年2回、計500時間を費やして数百人分のドライブレコーダー映像を点検してきた。AIシステムの導入で安全運転評価の時間を半減できるほか、人的評価によるばらつきも均一化され、運転者に正確な指示が出せるようになった。

 企業や自治体の困り事の解決にAIが登場するケースはコロナ禍で飛躍的に拡大し、分野の垣根を越えて活用の幅は広がり続けている。AIビジネス市場を巡るIT各社の争奪戦は、今後さらに過熱しそうだ。