2021.09.02 【コネクター技術特集】日本航空電子工業の「MA01シリーズ」125℃対応高速伝送(8Gbps+)と2点接点を両立

 現在、自動車ではADAS(Advanced Driver Assistance System:先進運転支援システム)や自動運転技術の開発に力を注いでおり、自動車の安全性能を確保するために高性能な車載ECU(Electric Control Unit)の搭載が必要とされている。

 この高機能化を支えるECU内部ではより多くの情報処理が必要となり複数枚の基板を使用することから、基板間を接続するコネクターには、信号を遅延なく伝送するために高速伝送に対応するとともに、自動車特有の過酷な使用環境に対応する耐熱性や接触信頼性が求められている。

 このような背景の中、当社は、高速伝送(8ギガbps+)と2点接点を両立し、自動組み立てにも対応した車載用フローティングタイプ基板対基板コネクター「MA01シリーズ」を開発した。本稿では、MA01の仕様と特長について紹介する。

◆フローティングコネクターとは

 フローティングコネクターとは、コネクター同士の嵌合(かんごう)位置が合わない場合に、そのずれを吸収するように移動する(フローティングする)機能を持たせたコネクターのことである。

◆フローティングの原理

 嵌合部(接点部)周辺が、基板側の構造から孤立させ浮かせた構造(ハウジング-1)、つまり可動する構造を基本としている。振動/衝撃の際に加わる力を嵌合部以外の他の部分(可動部)で吸収し、接点部を極力動かさないコンセプトで設計されている。

 上記の構造により、同一基板内に2セット以上実装したい場合に、はんだ部分にかかる実装ずれによるストレスを緩和する。

◆当社MA01シリーズ フローティングコネクターの主な特長

 本製品の特長となるポイントを下記に示す。

(1)フローティング可動量X方向:±0.5mm、Y方向:±0.5mm、Z軸方向:±0.5mm(基板間公差)

(2)大きなガイド形状により優れた嵌合作業性を実現、自動組み立て嵌合に対応

 (嵌合誘い込み量:±1.0mm)

(3)2点接点構造により高接触信頼性を確保

(4)接触部はロール面接続により、低挿抜力を実現

(5)高速伝送対応8ギガbps+(10GBASE-KR、PCIe Gen3相当)

(6)使用温度範囲:-40℃~+125℃

(7)豊富なコネクターバリエーション

 その他のコネクターの基本仕様を表1に示す。

(1)フローティング可動量X方向:±0.5mm、Y方向:±0.5mm、Z軸方向:±0.5mm(基板間公差)

 フローティング構造により、実装や組み立てでの位置ずれを吸収することで、はんだ接合部へのストレスを軽減し、はんだクラックを抑制する。従来のリジッドタイプコネクターでは、難しいとされていた同一基板上でのコネクター複数個使いも可能である。

(2)大きなガイド形状により優れた嵌合作業性を実現、自動組み立て嵌合に対応(嵌合誘い込み量:±1.0mm)

 嵌合位置ずれXY±1.0mmまでの誘い込みを可能にすることで、ブラインド嵌合やロボットによる自動組み立ても可能である。またガイド部は嵌合キーになっており誤嵌合を防止する。

(3)2点接点構造により高接触信頼性を確保

 独立した二つの接触ばねで成立する2点接点構造を採用。万一、片方の接点に異物が付着しても、もう一方の接点は接触しているので、1点接点構造よりも高い接触信頼性を保つことができる。

(4)接触部はロール面接続により、低挿抜力を実現

 端子の接点は、プレスの抜き面を用いた破断面ではなくロール面を使用することで、めっきの摩耗を防ぎ、長期的な接触信頼性を確保することが可能。また、低挿抜力により多芯数でも嵌合操作性に優れている。

 さらにコンタクトの接点位置がお互いに離れているため、異物付着の影響を受けにくくなっている。下図が嵌合時の接触部の断面写真であり、接触点は2点とも均等に接触しており、良好な接触状態となっていることが確認できる。

(5)高速伝送対応 8ギガbps+(10GBASE-KR、PCIe Gen3相当)

 2点接点構造は、接触信頼性が向上する一方、電気の流れが分断されるため、高速伝送との両立が難しいとされていた。当社はその課題を解決するため、伝送シミュレーション技術と伝送評価体制を駆使して、基板間接続コネクターで独自の接点構造を確立、2点接点構造と高速伝送対応(8ギガbps+)の両立を実現した。

(6)使用温度範囲:-40℃~+125℃

 自動車用途に適合し最大使用可能温度を125℃まで対応している。またディレーティングカーブ(下図)で示す通り、使用環境に応じて定格電流以上の対応も可能である。(電源用途向けに分流での使用も可能)

(7)豊富なコネクターバリエーション

 コネクターバリエーションは、お客さまのご要望にお応えできるよう豊富に取りそろえている。

 平行接続は高さ8~30mmの9種類、垂直接続は低・高の2種類、芯数は30~140芯の8種類あり、組み合わせは88種類にもなる。

◆おわりに

 今後、自動車業界では自動運転の普及により、高性能化と安全性が求められることから、高速伝送と接続信頼性(2点接点構造)を両立したMA01の需要が期待される。また多機能となる統合ECUでは、さらなる高速伝送化と同時に省スペース化も求められており、MA01をベースとした狭ピッチ製品も開発中である。高速伝送と接続信頼性(2点接点構造)は、当社の強みであり、今後もその強みを生かした製品シリーズを開発していく。

〈日本航空電子工業(株)〉