2021.09.07 【スイッチ特集】需要の好調が継続自動車や産業機器の生産回復

携帯機器向けの超小型タクティルスイッチ携帯機器向けの超小型タクティルスイッチ

 スイッチメーカー各社は、市場ニーズに対応するスイッチの新製品開発や製品バリエーション拡充に力を入れている。各社は自動車/車載電装や情報通信機器、産業機器/インフラ関連などの成長分野をターゲットに、小型・高性能で操作性や信頼性に優れた製品開発を推進する。スイッチのグローバル需要は、自動車や産業機器の生産回復により2021年に入り好調さが継続しており、各社は今年後半から22年に向け、供給責任を果たすための社内体制整備も一段と重視する。

 スイッチは、ヒューマン・マシン・インターフェースおよびマシン・マシン・インターフェースをつかさどる電子部品として重要とされる。スイッチの用途は広く、スマートフォン/ウエアラブル端末などの携帯端末や白物家電/AV機器、パソコン/コンピューター、事務機器、四輪車/二輪車、産業機器/製造装置、計測器、放送機器、医療/ヘルスケア機器、電力機器、通信インフラや社会インフラなどあらゆる工業製品で使用される。

 スイッチのグローバル需要は、世界的な機器需要増大などを背景に、13年から17年にかけて順調に推移した。特に17年のスイッチ市場は、車載関連需要の拡大や、世界的な設備投資増大に伴うFA機器/工作機械/半導体製造装置の需要増大などがけん引し、年間を通じて堅調に推移した。

 一方、18年後半以降は、米中貿易摩擦激化や中国経済減速の影響などにより、ほかの電子部品同様、スイッチの需要も低調に推移。19年も米中貿易摩擦長期化や中国自動車市場低迷などの影響を受け、一進一退の状況が継続した。

 20年のスイッチ市場は、調整の一段落から緩やかな回復が見込まれていたが、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大に伴う設備投資需要低迷や自動車需要減退などの影響で年前半は需要が激減した。それでも20年4~6月に需要が底を打ち、7月以降は徐々に出荷が回復傾向となり、20年10月以降は、月次の出荷が前年同月を上回るようになった。

 JEITA(電子情報技術産業協会)グローバル出荷統計では、20年(1~12月)のスイッチのグローバル出荷額は前年比18%減の3584億円となり、3年連続のマイナスとなったが、秋以降は顕著な回復を見せた。

 21年の年明け以降もスイッチ市場の回復は継続している。世界的な自動車市場拡大や、20年の年末以降のFA機器/設備投資関連需要の回復、リモート/巣ごもり関連市場の拡大などがスイッチ需要を押し上げ、特に21年3月以降は、JEITAの月次グローバル出荷額が前年同月を大幅に上回る推移となっている。

 最近のエレクトロニクス市場では、半導体や材料不足の深刻化が機器生産に影響を与えることが懸念されているが、電子部品需要の高止まり傾向は今後もしばらくは続く見通し。スイッチメーカー各社は、受注拡大に対応するため、自動機の増設や生産ラインの増強などを進めることで、製品の供給確保に全力を挙げる。

 JEITAグローバル出荷統計では、スイッチの出荷額が18年から20年まで3年連続で前年比マイナスとなったが、21年はコロナ禍からの回復により、プラス成長への回帰が見込まれる。今年後半から22年に向け、世界的な自動車生産回復や、コロナ禍を契機とした自動化ニーズの高まりなどが、付加価値の高い車載用スイッチや産業用スイッチ需要を押し上げていくことが期待されている。

 スイッチの用途別では、自動車/車載電装機器関連を最大のけん引役に、FA/産業機器、情報通信機器などでの需要増が期待される。情報通信系では日系スイッチメーカーがグローバルで高シェアを持つ携帯端末用などでの成長が見込まれる。このほか、医療機器/ヘルスケア関連や、ロボット、第5世代移動通信規格5G基地局、ウエアラブル機器、VR端末、セキュリティー関連などでの需要増、さらにIoT関連の新市場の広がりなどが、新たなスイッチ需要を生み出すものとみられている。

 最近の電子機器・製造装置などの分野では、メカニカルスイッチからタッチパネルへの移行の流れがあり、メカ式スイッチ市場には逆風となっているが、確実な操作確認が可能なメカ式スイッチには根強い需要がある。同時に、スイッチで培ってきた技術を活用し、タッチパネル市場への参入を進めるスイッチメーカーも増加している。

製品別動向

車載用スイッチ

 自動車には多くの操作/検出系スイッチが使用される。コックピットのフロントパネル回りのほか、ハンドル回りやドアモジュール部にも多くのスイッチが搭載される。ボンネットやトランクの開閉検知などで検出系スイッチも多用。特に車載用検出スイッチは車1台当たりの搭載数量が年々増加傾向で、今後も新車販売台数の伸びを上回るペースでの需要拡大が見込まれる。

 車載用スイッチへの技術要求は、小型軽量かつ高信頼性に加え、防水防じん、耐振動/衝撃性、長寿命、操作感触の向上、静音化など多彩。車室内の操作系スイッチでは、日米欧のプレミアムカーメーカーは独自性のある操作感触や高級感のある操作音を求めている。各社は長年培ってきた操作フィーリングのノウハウや高度なシミュレーション技術を活用し、顧客要求に応じたカスタムスイッチ開発に力を注いでいる。

 運転者の安全性を考慮し、運転者が前方から目を離さず操作できるスイッチやフィードバック機能付きデバイスの開発も進展している。車の電動化に伴い、冗長性を高める2回路/3回路の検出スイッチ開発も進む。

携帯端末用スイッチ

 携帯端末用スイッチは、小型・薄型化と高強度・高信頼性・長寿命などの技術要件を同時に満足させることが必要。加えて、最近のスマホは防水性もトレンド。各社はこうした要求に応えるため、シミュレーション技術などを駆使した高度なR&Dを展開する。

 最近は、タッチパネル操作へのシフトで端末1台でのスイッチ使用数は減少傾向だが、高級スマホでは小型スライドスイッチへの根強い需要がある。

産業機器用スイッチ

 産業用スイッチ各社は、産業機器・装置の高機能・高性能化や作業性・安全性向上などに向けた新製品開発に力を入れている。

 産業用スイッチの用途は、FA機器/製造装置やロボット、工作機械をはじめ通信・放送用設備、電力設備、建設機械、航空宇宙関連など多彩。産業機器/システムは誤作動のない極めて正確な動作が求められるため、良好で確実な操作感触や長期信頼性、耐環境性能、優れた防じん防水性などを備えた産業用スイッチが追求される。