2021.09.29 【ASEAN特集】ASEANの法定最低賃金動向工場ワーカー、大きく上昇
ASEAN地域では、経済成長とインフレの進展、外資系企業の工場進出増加などを背景に、各国の法定最低賃金が大きく上昇している。ただし、2021年に関しては、新型コロナ感染症拡大などによる経済情勢を配慮して、大半の国が法定最低賃金を据え置く意向だ。改定を行うのはインドネシアなど一部に限られる。
ASEANの工場ワーカーの法定最低賃金上昇は、「チャイナ+1」としてASEAN再投資の機運が高まってきた10年ころから加速した。
特に10年代前半から中盤にかけては、それまでローコストオペレーションが特徴だったインドネシアやベトナムでの法定最低賃金が急上昇した。10年代後半以降はやや上昇率が鈍化したが、それでも国によっては毎年1割近い金額の改定が実施され、コロナ禍直前の20年1月にも多くの国で賃上げが実施された。
ベトナムでは、20年1月の改定で、最も高額な第1地域(ハノイ、ホーチミンなど)の法定最低賃金が従来比5.7%上昇した。インドネシアでは、20年1月の改定で、首都ジャカルタの法定最低賃金が8.5%引き上げられ、427万6349ルピアとなった。
多くの日系企業が工場を展開するタイでは、20年1月改定の法定最低賃金(日給)は、バンコクが従来比1バーツ増の331バーツ、チョンブリが同6バーツ増の336バーツと、小幅な増加にとどまった。
マレーシアでは、13年1月に初めて製造業の法定最低賃金制度が導入され、その後、ほぼ2年に1回ペースで最低賃金が改訂されている。
20年2月には、国内56都市で最低賃金が引き上げられ、首都クアラルンプール周辺は従来比9.1%増の月額1200リンギットに改定された。
フィリピンの法定最低賃金は、ほかのASEAN主要国と比較すると上昇幅が緩やかで、ここ数年は毎年日給で10ペソから20ペソ程度の賃上げが行われてきたが、18年11月の改定では、従来比25ペソ増(4.9%増)と、やや幅のある改定が実施された。19年の改定が見送られたが、20年1月には中部ピサヤ地方など一部地域で改定された。
一方、21年に関しては、20年からの新型コロナ感染症拡大が経済情勢に大きな影響を与えていることなどを踏まえ、多くの国で法定最低賃金の改定が見送られた。それでも、インドネシアでは、例年通り、1月に賃金改定が実施され、ジャカルタ首都特別州では、月額最低賃金が従来比3.27%増の441万6186ルピアとなった。インドネシア国内で最高額の西ジャワ州カラワン県(ジャカルタ近郊)では、月額479万8312ルピアとなっている。
それ以外のタイやマレーシア、ベトナムなどでは、21年の法定最低賃金改定が見送られ、フィリピンでも21年前半の改定は見送りとなった。
タイは、以前から年によって法定最低賃金改定が見送られるケースがあるが、タイ進出の日系製造業などでは、一般的に毎年5%程度の初任給の引き上げを実施している。マレーシアでは、現政権が将来的に法定最低賃金を月額1500リンギットまで引き上げる方針を表明している。
国によって最低賃金の定義が異なり、また、実際の給与水準と法定最低額との乖離(かいり)が激しい地域もあるため、単純比較はできない。それでも、ASEANの工場ワーカーの賃金は、シンガポールを除けば、中国沿岸部との比較では割安となっている。
最低賃金の引き上げは、国民の消費力向上により経済発展につながるが、急激過ぎる人件費上昇は現地進出企業には負担となる。
このため、現地進出の日系電子部品メーカーは、継続的な生産革新活動や生産ラインの自動化・省力化推進による生産性向上、徹底した無駄の排除、業務の高付加価値化を進めることで、収益力の向上に努めている。