2021.10.19 【CEATEC特集】鹿野清エグゼクティブプロデューサーに聞く前回の反省生かしプラットフォームを強化

 ソサエティ5.0(超スマート社会)の実現を目指した総合展示会「CEATEC 2021」が完全オンラインで開幕する。新型コロナウイルス感染拡大により昨年初めて完全オンラインで開催し、ニューノーマル(新しい日常)社会を見据えた全く新しい展示会としてさまざまな取り組みをしてきた。全てが初めてだったこともあり多くの気づきや反省があったという。完全オンライン2回目となる今回は「ニューノーマル社会と共に歩むCEATEC」を掲げた。新たな施策を用意してイベントに臨む鹿野清CEATECエグゼクティブプロデューサーに話を聞いた。

 -昨年のCEATECは完全オンライン開催となり、さまざまなチャレンジをしてきました。振り返っていかがですか。

 鹿野 20年の歴史の中で初めての完全オンライン開催となった。実際、会場展示の中止を決定したのが5月に入ってからだったため、わずか半年足らずで開幕しなければならず非常に短い期間で準備した。

 特にこだわったのがオンラインでも来場者にCEATECならではの発見ができるようにした独自のプラットフォーム開発だった。プラットフォームの企画設計を独自に進めながらイベントの企画なども並行して行ったため苦労もしたが、関係者が一丸となって取り組んだことで10月に開幕できたことは非常に良かったと思っている。

 昨年の出展企業は356社と、2019年の幕張メッセでのリアル展示会と変わらなかった。来場登録者は9万6625人だったが、会期中は、オンラインだったこともあり連日訪問する人も多く、累計来場者数は15万人以上に上った。幕張メッセで開催したときは来場が14万人だったため、出展も来場も同じくらいあったことになる。

 コンファレンス(講演会)の聴講も累計14万~15万人あった。幕張の展示会場では最大3万人くらいだったことを考えるとオンラインの方がより多くの人に聴いてもらえたのではないかと感じている。12月までアーカイブ配信したことも良かった。

 -出展者や来場者の傾向はどうだったのでしょうか。

中部や関西からの来場が増える

 鹿野 幕張メッセのときと中身は全く違い、出展者を見ると4割が新規だった。特にスタートアップが増えた。来場者はこれまで首都圏が多かったが、オンラインになったことで北海道から沖縄まで全国から来場があり、特に中部や関西からの来場が増えた。いつでもどこからでも参加できるというオンラインの特徴が生かされた結果だとみている。

 -昨年は開幕直後に入場ができなくなるトラブルも発生しましたが、対策の方はいかがでしょうか。

 鹿野 一般的にオンラインでシステムダウンするのは容量不足だと言われることが多いが、前回は容量の問題ではなく別の原因があった。

 オンライン展示会のプラットフォームは独自に開発したが、登録の仕組みには19年に開発したオンライン登録の仕組みを活用した。この登録のシステムは11月に予定している放送機器の総合展示会「Inter BEE」と共通の仕組みになっており、前回は登録のシステムと展示会システムを組み合わせて運用していた。

 実はこれがトラブルの原因だった。IDを登録し、実際に入場する際には展示会システムと照合する。それが開幕時に来場者が集中したことで登録と照合の部分に負荷がかかってダウンしてしまった。

 今年はその反省から展示会やコンファレンスの仕組みと登録の仕組みを統合し強化した。容量に関してはクラウドを活用し、負荷に応じて柔軟に拡大できる。今年は迷惑のかからないように準備を整えているつもりだ。

 -前回の出展者や来場者からの声はいかがでしたか。

 鹿野 幕張での展示会のときとオンラインのときで、全体の満足度に差はなかったが、良しあしのポイントは大きな違いがあったと感じている。ただ出展者からも来場者からも共通で声が挙がったのは「リアルタイムコミュニケーション」がうまくいかなかったということ。出展各社のブースなどにはチャット機能を入れたが、なかなか使ってもらえなかったようだ。

 また会場でモノを触って体感するというリアル感が味わえないことや、会場の熱気や雰囲気を味わいたいという声もあった。リアルだと会場やブースの混み具合などがすぐに感じられるが、オンラインだと見えにくいという意見も出た。グローバル対応も課題になった。オンラインなので世界中どこからでも来場でき、英語のコンテンツ対応なども進めたが海外からの来場は不十分だったといえるだろう。

 見込み客の発掘に関しては差が出た。一般的に展示会では見込み客の発掘をすることも目的になるが、非常に成果を上げた企業とうまくいかなかった企業があったと聞いている。オンラインでは事前登録して来場するので、会場の場合と違って目的意識のある見込み客を見つけやすい。来場者の個別情報を自社ブース来訪時にリアルタイムで収集できる仕組みを用意したため、この仕組みを活用した企業とそうでない企業の差が出たようだ。ビジネスにつながったかどうかについては今後継続して見ていきたいと考えている。

 -現在は実際の展示会場で展示会を開催する主催者も出てきています。オンラインに決めた理由は。

来場/出展者の安全確保最優先

 鹿野 もとはオンラインと展示会場のハイブリッド開催を予定していたが、コロナの収束見通しが立ちにくい中でギリギリまで議論と検討を重ねオンラインに決めた。背景には展示会の規模がある。CEATECは展示会場での開催時でも1日に3万~4万人が来場する。政府や自治体が定めていたイベントの最大収容人数などを考えると安全に対応できるかどうか不安もあった。結果として来場者と出展者の安全確保を最優先とし、会場展示を断念した。

 半面で、展示会などへの外出を禁止している企業が多かったこともあり、前回の経験を生かし、より満足できるオンライン開催を目指すこととした。実は最先端の技術を使ったハイブリッド型イベントを直前まで検討していたので、来年以降はこの仕組みなどを使えるかもしれないと期待している。

 一方、11月に予定しているInter BEEは展示会場での開催になる。こちらは3日間の開催で来場者は約3万人を想定しており規模が小さい。来場者の多くが映像制作に携わっており実機に触らないと分からないことも多いため、展示会場で開催することにした。

 -今年のCEATECのポイントについて教えてください。

脱炭素、スーパーシティが最重要課題

 鹿野 今年は9月から11月まで3カ月のロングランイベントにしている。新しい展示会の先駆けにしたいという思いで始めた。これまでは個別テーマで展開してきたが今年は「カーボンニュートラル」「スーパーシティ&スマートシティ」「モビリティ」「5G」の四つの重点テーマを設定した。ソサエティ5・0を目指す中ではゼロエミッション、脱炭素が前提条件になり、ソサエティ5.0の内容を突き詰めていくとスーパーシティになる。この二つのテーマを最重要課題とし、これらを支えるインフラやデバイス、技術として5Gとモビリティを重点的に掲げている。

 出展者数は314社/団体で3割が新規出展になる。

 9月から毎週、テーマ別のコンファレンスを行ったが、現在までに2万人の事前登録がある。4回のコンファレンスの累計聴講も3万回あり、多くの方から関心を寄せてもらっていると感じている。10月19~22日の会期中は四つのテーマ(19日カーボンニュートラル/20日5G/21日モビリティ/22日スーパーシティ&スマートシティ)を振り分けて開催する。興味があるテーマの日に集中して見てもらえるようにした。特にカーボンニュートラルは欧米、アジアの企業にも登壇してもらい、グローバル展示会として取り組んでいる。

 さらに閉幕後の11月には、展示ブースなどのほか、「CEATEC AWARD」受賞企業に受賞製品やサービスを紹介してもらうセッションも用意している。コンファレンスも終了当日からアーカイブ視聴ができるので、より多くの人に視聴してもらいたい。

 -CEATEC来場者に向けてメッセージをお願いします。

 鹿野 コンファレンスはプレイベントから含めると130以上になる。コンファレンスは今回、榎戸教子氏にナビゲーターをお願いした。今年のCEATECの特徴の説明から、各日の見どころなどをナビゲーションしてもらっている。テーマが決まっていない人はぜひナビゲーションを視聴してほしい。今回は全国から出展と登壇がある。24都道府県から各地のスーパーシティの活動の説明もあり、まさしく来場者も、出展者も、登壇者も全国になる。また、8年ぶりに家電8社が全て出展する。各社の展示ブースにはチャットだけでなくビデオ通話も用意したので、ぜひリアルタイムコミュニケーションをしてほしい。

 グローバルの視点では、今回、オープニングデーに世界最大規模のエレクトロニクス見本市である「CES」と「IFA」の主催者トップからもメッセージをいただいた。この3展示会が一体になっていることを多くの人に知ってもらいたい。

 今回は南場智子経団連副会長(DeNA会長)に登壇いただくほか、初出展のポーラ及川美紀社長にも講演いただくなど、ダイバーシティーという観点からも注目してほしいと思っている。