2022.01.07 【新春インタビュー】シャープ・野村勝明社長兼COO

付加価値技術でニーズに対応

 ―新年おめでとうございます。昨年も引き続きコロナ禍で大変だったと思いますが、振り返っていかがでしょうか?

 野村 振り返ると、昨年は半導体不足、部材価格の高騰、物流の混乱など、サプライチェーンへの影響が大きくなりました。また、ベトナムを中心としたASEANでのロックダウンなど、新型コロナ再拡大の懸念もまだ払拭(ふっしょく)できない状況です。22年も新型コロナの再拡大懸念、サプライチェーン影響は続くでしょうから、平穏な時はないと覚悟して対処していきます。ただ21年度上期の業績を振り返りますと、こういった変化の激しい状況の中でも、計画に対してある程度順調な経営のかじ取りができたと思います。

 ―半導体不足にはどう対応されましたか?

 野村 当社にとって半導体は将来も含め重要な部品ですので、リレーションを築いている供給先を中心に先手先手で粘り強い交渉を行い、調達に力を入れております。また、コロナの影響で戴正呉会長が台湾にほぼ常駐しておりましたので、台湾の半導体メーカーに直接交渉するなど、さまざまな対応を図りました。

 ―21年度上期が計画通りに進捗(しんちょく)できたのはよかったですね。

堅調な業績を残す

 野村 当社には五つのセグメントがございましてICTとエレクトロニックデバイス二つの部門は、半導体不足やコロナの影響もあって前年同期の業績から下振れたものの、黒字は確保しました。8Kエコシステム、ディスプレイデバイスは大きく伸び、白物家電を含むスマートライフも2桁の利益率を確保でき、堅調な業績を残せました。

 ―白物家電事業で営業利益率が10%以上というのは健闘しましたね。

 野村 プラズマクラスターなどの付加価値技術を多くの商材に取り入れていますし、奥行き630ミリメートルのインテリアと調和する冷蔵庫など、最新のニーズに合わせた開発も奏功いたしました。白物家電、調理家電の商品企画部門には女性のメンバーも多く、普段づかいの目線からのモノづくりに力を入れております。

 ―プラズマクラスターの世界累計出荷台数が1億台を突破しました。

 野村 ありがとうございます。今月には当社史上最高イオン濃度「プラズマクラスターNEXT」搭載機種を増やし、引き続き、空気清浄機を中心に家庭の空気をケアする商品を展開してまいります。また、鉄道などの移動空間やオフィスなどの公共施設、個人ケア商品など、お客さまのニーズに応える商品開発や異業種コラボレーションを拡大し、プラズマクラスターを世界中に広げる取り組みを加速したいと思います。

 ―テレビも強力な新商品が登場しました。

 野村 次世代テレビの「AQUOS XLED」(エックスレッド)です。miniLEDをバックライトに採用し、輝度やコントラスト、色の再現性を飛躍的に向上させるとともに、音質、狭額縁のデザイン、最新のスマート機能に対応したAndroidTVの搭載など、最新技術を盛り込み、8K/4Kの85V型から55V型まで一気に5機種を投入しました。

 今後、幅広いお客さまのニーズに応えられるよう、「AQUOS XLED」、有機ELテレビ「AQUOS OLED」、液晶テレビAQUOS 8K/4Kの3本柱をしっかりそろえてテレビ事業に取り組んでいきます。

環境への貢献で業界をけん引

 ―カーボンニュートラルについて、貴社の取り組みをお教えください。

 野村 家電製品は電気を使うものなので、当社創業者の早川徳次は電気を作ることも考えていました。そのため、当社は60年以上前から太陽電池の開発に乗り出し、太陽光発電システムの普及に全力を挙げ、いち早く環境に貢献してきました。

 カーボンニュートラルへの取り組みはグローバルな課題であり、その中で目指すエネルギーポートフォリオにもよりますが、太陽光発電システムの普及がさらに進む可能性はあると思います。また、EV(電気自動車)にソーラーを搭載するといったことも考えられます。高効率の太陽電池技術など、当社が強みを持つ技術で応えてまいります。自社の各工場には太陽光発電システムを導入し、再生可能エネルギーの自家消費拡大にも努めていきます。部品においては、再生エネルギーを使って生産したものをお客さまから求められる機会が増えています。

 当社は19年に長期環境ビジョン「SHARP EcoVision 2050」を策定し、気候変動、資源循環、安全・安心の三つの分野で2050年に向けた目標を設定しました。

 気候変動においては、「自社活動のCO2排出量をネットゼロへ」「サプライチェーン全体で消費するエネルギーを上回るクリーンエネルギーを創出」の2点を掲げています。

 これはずっとたすきをつないでいく、長丁場の取り組みとなります。ソーラーに先進的に取り組んできた当社としては、業界をけん引するような形で取り組んでいきたいですね。

リアルも大事に

―働き方改革が叫ばれる中、社員が働きやすい環境づくりが大切ですね。

 野村 そうですね。緊急事態宣言が出て以降、在宅勤務を含むフレキシブルな働き方を事業所単位で取り入れました。一方で、新人の方は同期の顔も知らずに孤立してしまい、職場になじむのに時間がかかる、あるいはベテラン社員でもリモートでは意思疎通が難しい場面もあります。今後の変異株などの状況にもよりますが、リアルでのコミュニケーションも大事にしたいと考えています。

 ―22年はどういう年にしていきたいですか?

 野村 財務面では、昨年は自己資本比率が20%まで戻りましたので、今年も着実に業績を上げることで財務体質の強化を進め、将来的に社債市場への復帰を見据えられる格付けを一つの目標と考えています。

 ―商品事業の見通しをお聞かせください。

 野村 既に600機種を超え、400万台以上の出荷実績のあるAIoT対応機器を拡大しながら、白物家電事業では営業利益率2桁を維持したいですね。ソーラーは今後、カーボンニュートラル向けの需要も大きいと思います。

 8Kエコシステムでは、欧米での企業活動の再開により、スマートビジネスソリューションはコロナ前の水準に戻せると期待しています。黒物家電は国内で「AQUOS XLED」などの3本柱で頑張ります。海外は、白物も黒物もまだまだ伸ばす余地はありますね。

 ICTはスマートフォンに加え、ローカル5G、ホーム5Gの領域にも取り組んでいます。また、ワイヤレスイヤホンスタイルの耳あな型補聴器「メディカルリスニングプラグ」で医療系の分野にも本格参入いたしましたので、潜在的な需要が大きい市場でしっかり伸ばしていきたいですね。

 ディスプレイデバイスは、車載、パソコン、タブレット用といった中型が伸びていくでしょう。車載分野は半導体不足のため昨年は伸びがいまひとつでしたが、今後は順調に拡大していくと思います。ヘッドマウントディスプレイなども成長が期待できます。

 22年はこうして見ますと、当社としては事業を拡大できる領域が多く、設備投資もこういう分野を中心に進めてまいります。

 ―海外戦略についてはいかがですか?

 野村 海外の大手とどう戦っていくか、インドネシアなど当社が強い市場もございますが、今後欧米市場の拡大がカギを握っていると思います。特に北米は、これからSHARPのブランド商品を伸ばしていこうとしている市場です。

いち早く商品を出すことが重要

 ―経営のスピード化について、多様化するニーズに応えるモノづくりの工夫をお聞かせください。

 野村 バリューチェーンの中で、それぞれの段階でスピード化を図ること、また全体のリードタイム短縮が基本だと考えています。流通のお客さまとの会話の中からヒントを得て、ある程度、環境を先読みしたモノづくりも重要だと思います。当社には、昔から先駆的な商品開発のDNAがございました。

 コロナ禍において、経済産業省からの要請を受けて、すぐにマスク生産に着手したのも、昔からのDNAが生きているからだと思います。後に、出張で乗った飛行機のキャビンアテンダントの方から、マスク生産へのお礼の言葉をいただいたこともございました。皆さんが必要なところにいち早く商品を出すことが重要だと改めて感じました。

 家電では、例えば「ヘルシオ ホットクック」などは、共働き家庭で求められる家事の省力化や時短ニーズに対応した商品ですが、コロナ禍での手間を掛けずに家でおいしい料理を食べたいというニーズにも合致しました。こんなものがあれば便利というものに、いち早く取り組んだ結果だと思っています。全てのニーズを満たす商品はできませんが、皆さんのお役に立つ商品開発をいかにスピーディーに実現させるかということが本質でしょう。

 今年は寅年です。相場格言では「寅千里を走る」といい、大きな動きがあると言われていますが、こういう時こそ「最も速く変化に対応できる者が生き残る」精神で臨んでまいります。

 ―ありがとうございました。

(聞き手は電波新聞社代表取締役社長・平山勉)