2022.01.14 【この一本】「テレビで会えない芸人」(配給:東風)

「テレビで会えない芸人」から(©2021 鹿児島テレビ放送) 

「テレビで会えない芸人」から(©2021 鹿児島テレビ放送)「テレビで会えない芸人」から(©2021 鹿児島テレビ放送)

「テレビで会えない芸人」から(©2021 鹿児島テレビ放送)「テレビで会えない芸人」から(©2021 鹿児島テレビ放送)

 「ザ・ニュースペーパー」から独立、今はいわゆるピン芸人として活躍する松元ヒロ。多くの番組にも出演していた彼がテレビという場を捨て、主戦場を舞台に移したのは1990年代末。年間ステージ100以上、ライブは満席で、チケットも入手困難なほど。彼がテレビを去った理由は、また、制作側が彼を手放した理由は何か。その答えを探るドキュメンタリーでもある。知遇を得て、折々に舞台を見ている評者にも、新発見が多々あった。

 政治の風刺で知られる彼。憲法を擬人化した「憲法くん」は絵本や、劇団の演劇にもなり、永六輔には「9条をよろしく」と言わしめた。一般的には「革新」「リベラル」とも目されるだろう。しかし、彼の本領は、人物観察と優しい目線、力のある者を風刺し弱者に寄り添う姿勢だと改めて感じる。

 それが発揮されるのは、映画中でも披露される「こんな夜更けにバナナかよ」の話芸。筋ジストロフィーと闘いながら、自分の思いを素直にぶつける男性と、それを支えるボランティアらを活写した実話をもとにした映画として知られる作品だが、登場人物を語る芸(パントマイムも)は、それ自体が一幅の絵か短編映画のようだ。

 辛口の立川談志に「他の人が言えないことを代わりに言ってやるのが芸人だ。お前を芸人と呼ぶ」と言われた彼。1対1で芸のさわりを披露してもらう体験もある評者には、舌鋒鋭い芸風と違い、芸人さんには多いが、素顔は意外にシャイに映る。そんな素顔も垣間見える。

 監督を鹿児島テレビの、プロデュースを東海テレビの、それぞれ腕利きのテレビマンが手掛ける。松元ヒロという芸人の記録であると同時に、テレビという媒体への自問の作品でもある。

 もとになった番組は、2020年日本民間放送連盟賞最優秀賞、第58回ギャラクシー賞優秀賞、第47回放送文化基金賞優秀賞、第29回FNSドキュメンタリー大賞グランプリなどを受賞した。

 14日から鹿児島ミッテ10、ガーデンズシネマで先行、29日からポレポレ東中野、第七藝術劇場、京都シネマで。ほか、全国順次公開決定。