2022.01.24 【デジタルで拓く NECの戦略に迫る】〈上〉森田隆之社長兼CEOに聞く

5Gに注力、M&Aも視野

環境やヘルスケアにも期待

 デジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)を成長事業の中核と位置付け、第5世代移動通信規格5Gを足掛かりに攻勢をかけるNEC。中期経営計画には、最終年度となる2025年度にDX事業の売上高を20年度比3.5倍の5700億円に拡大させる方針を盛り込んだ。社内のデジタル人材も1万人に倍増させるなど、DXと5Gへの投資に大きくかじを切った森田隆之社長兼CEOが電波新聞社のインタビューに応じ、直面する課題や今後の方向性などを語った。

 ―5Gの基地局整備は、複数メーカーの機器を組み合わせてネットワークを構築する「オープンRAN(ラン)」の導入が進んでいます。

 森田社長 コンピューターの世界で1980~90年代に経験したのと同様、2G、3G、4Gとジェネレーションが進むごとにプレーヤーの競争環境が大きく変化した。通信網のオープン化は非常に大きなチャンスだ。オープンランが進展すればするほどビジネスの領域が広がる。先行する通信大手のNTTドコモや楽天などと連携してグローバル市場を拡大したい。

 ―成長投資としてのM&A(合併・買収)はどう位置付けますか。

 森田社長 昨年4月の社長就任前に最高財務責任者(CFO)として海外のデジタルガバメント(電子政府)や、デジタルファイナンスのM&Aに5000億円を投じ成長基盤を築いた。M&Aはビジネスの選択肢の一つ。中期経営計画を進めていけば、過去3年で使った5000億円規模の投資余力は生まれる。5G分野では技術や人材といったリソースを獲得するM&Aを視野に入れている。

 ―長期的な視点で強化していく事業は。

 森田社長 量子技術は注力分野の一つだ。5Gの次のビヨンド5Gや6Gでも暗号通信が使われる。宇宙でも、複数の人工衛星を通信などに役立てる「衛星コンステレーション」が当たり前になるだろう。DXを軸とするコア戦略の中で進めていく。

 ―開拓すべき新たな領域は。

創薬やヘルスケア

 森田社長 第4の柱となるのは創薬やヘルスケアだ。創薬はこれまで知見のない領域であり、欧州で治験も含めた経験のあるノルウェーの会社を買収し、リスクを共有しながら治験に取り組んでいる。

 デジタルヘルスでは内視鏡の画像診断のソフトウエアなどにも取り組んでいる。

 グリーン(環境)も重要な領域だ。これまで以上に事業展開にエコシステムが求められる。グリーンとヘルスケアはマーケットとしてはとても大きい。

 ―昨年9月に発足したデジタル庁が、政府や自治体の共通基盤となる「ガバメントクラウド」を進めています。参入に向けた取り組みは。

第2ラウンドに公募

 森田社長 デジタル庁が昨年10月に実施したクラウドサービスの公募は、パブリッククラウドをどうするかという視点で行われた。米国のIT大手2社が選ばれたが、データセンターの数や規模など相当なスケールが要件となっていたため応募しなかった。22年度中にどのデータをどのクラウドに乗せるのかが整理され、23年度には新しい仕組みの中で調達が行われるとみている。デジタル庁の第2ラウンドの公募に参加したいと考えており、どういう形で対応できるか検討を進めている。

 政府系クラウドサービスの運用は、システム障害のリスクも含めて日本が国としてコントロールできなくてはいけない。米国の運用ルールでは時差もあり、日本の昼間にトラブルが起きることもある。海外では、政府系クラウドには自国民しか運用に携われず、外国資本の会社はサービスを提供できない国も多い。日本も運用ルールや運用責任者をしっかり検討することが経済安全保障の観点からも重要だ。

 ―22年の展望は。

 森田社長 半導体を発端とする部材の供給不足が引き続き不透明な状況にあり、注意する必要がある。22年は、5Gなど21年の定性的な成果を形づける年にしたい。5Gの市場獲得に向けスピードアップしていく。(つづく)