2022.02.03 【コンデンサー技術特集】日本ケミコン小形リード端子形電気二重層キャパシタ2.7V品「DKGシリーズ」の開発

 電気二重層キャパシターは、低抵抗であること、高効率充放電が可能であること、さらに長寿命であるという利点から車載、建機、産機などの多くの用途で実用化されている。

 日本ケミコン(以下、当社)では電気二重層キャパシタの大容量ネジ端子形品を2003年から量産化している。近年、自動車の電動化が進む中、事故や故障でバッテリーからの電源供給が失陥した際のバックアップ機能が求められており、車載用バックアップ電源として信頼性の高い小形の電気二重層キャパシターが採用され始めている。このようなニーズの高まりから、当社では大容量ネジ端子形品に加え、小形リード端子形品の開発を数年前から行っており、2018年から「DKAシリーズ」として量産を開始した。

 さらなる用途拡大に向け、ユーザーの設計自由度の向上や安心して使用可能な信頼性の高い製品を開発テーマとして、製品の小形化、高電圧化、長寿命化、高信頼性化に取り組んでいる。本稿では高電圧かつ長寿命を可能とした小形リード端子形品「DKGシリーズ」について説明する。

電気二重層キャパシターの動作原理

 電気二重層キャパシターは主に正極と負極の2枚の電極と電解液、セパレーターからなっており、電極表面と電解液との界面にて生じる電気二重層を利用して電気を貯蔵するデバイスである(図1)。二次電池のような化学反応ではなく、イオンの物理的吸脱着をエネルギー貯蔵の原理としているため、出力密度に優れており大電流で瞬時の充放電が可能である。また低抵抗であるという利点から充放電に伴う反応熱が少なく、充放電を数十万回行っても劣化が少ないことが特徴として挙げられる。さらに、構成される材料は重金属などを使用しておらず環境負荷が小さく、原材料の枯渇リスクも低いため価格の変動が起きにくい。

電気二重層キャパシターの構成材料

 ◆電極材料

 電極表面と電解液の界面で生じる電気二重層が蓄電原理であることから、容量を大きくするにはできるだけ比表面積の大きな電極材料が求められる。一般的に電気二重層キャパシターには活性炭と呼ばれる比表面積が2000m²/g程度の材料が使われている。活性炭の原料は天然植物系、ピッチ系、樹脂系などがあり、これを炭化し賦活と呼ばれるナノオーダーの穴を開ける作業を行う。原料や賦活方法がキャパシターの電気特性や寿命特性に影響を与えることが分かっており、用途により最適な活性炭を電極材料として使用する。

 ◆電解液

 電気二重層キャパシターの電解液の溶媒は主に水溶液系と有機系がある。水溶液系は水の電気分解反応で耐電圧が制限されてしまうことから、使用する際の電圧が低くなってしまう欠点があり、現在では有機系が主流となっている。

 有機系電解液の溶媒には、プロピレンカーボネートやアセトニトリルなどが使用されている。アセトニトリルは低抵抗で出力密度が高いキャパシターを作製するのに優れた溶媒であるが、低引火点であること、ガス発生量が多いこと、電解液の漏れリスクが高いことなど、製品の安全性を担保する設計的ハードルが高い。また、燃焼・熱分解時に人体に対して毒性が高いシアン化合物が放出されることも課題である。電解液の電解質は第四級アンモニウム塩やアミジン系を用いたものが多いのが現状である。優れた電気特性が得られるよう、溶媒と電解質の品種や割合を最適化している。

 ◆セパレーター

 セパレーターは正極と負極が物理的に接触してショートするのを防止する役目と電解液を保持する役目を果たしている。材料としてはセルロース系、樹脂系などが挙げられる。セパレーターは厚みや密度などがキャパシター特性に影響することがわかっており、これらの値の最適化を行っている。

電気二重層キャパシターの応用事例

 自動車はさまざまな機器の電動化が進んでおり、重要機器に対しては鉛電池などからの電源供給が途絶えた場合に電気で作動させることが安全面から求められている。さらに、規則化(例:UN Regulation No.94)も進んでいることから、バックアップ電源が必須となっている。そのようなバックアップ電源に対して小形リード端子形品が活躍しており、自動車のドアロック、シフトバイワイヤーなどのアプリケーションで採用されている(図2)。

高電圧印加時における電気二重層キャパシターの挙動

 電気二重層キャパシターは充放電過程において電圧が電極と電解液に印加される。高電圧を印加した際に電極と電解液の電気化学安定性が乏しい場合、特に電極近傍において電気化学的な反応が活性化し、ガスが発生する。ガス発生が多いと製品の開弁や漏液のリスクが高まる。このような挙動から電気二重層キャパシターの耐電圧性を向上し、長寿命化するために、電極と電解液の高電圧に対する反応、特にガス発生を抑制する必要がある。

課題に対する解決方法

 高電圧印可時における電極と電解液の反応を低減し、劣化やガス発生が小さい材料構成とした。

小形リード端子形電気二重層キャパシタ「DKGシリーズ」の特徴

①耐電圧性の向上(2.5V→2.7V)

②長寿命(1,000hrs→2,000hrs)

③小形化(20%ダウン)

〈主な仕様〉

・カテゴリ温度範囲:-40~+65℃

・定格電圧:2.7V

・定格静電容量:50F

・製品サイズ:φ18×40L、φ18×50L(mm)

・耐久性:2.7V 65℃ 2,000hrs / 2.5V 70℃ 2,000hrs

 当社において開発中の小形リード端子形品「DKGシリーズ」の製品特性について紹介する(図3)。

 表1にDKGシリーズの定格容量とDCIR値を、量産中のDKAシリーズと比較して示す。DKAシリーズでは定格電圧2.5Vにおいて70℃で1,000hrs保証としていたが、DKGシリーズでは2.5V、70℃または2.7V、65℃で2,000hrs保証と定格電圧の上昇と長寿命化を達成した。

 図4にDKGシリーズとDKAシリーズの2.7V、65℃(DKAは定格外)における静電容量の変化とDCIRの変化を示す。電圧印可時における電極と電解液の反応性を低減することによって、DCIRの変化は同等のままDKAシリーズよりも静電容量の減少を抑制した。

 図5にDKGシリーズとDKAシリーズの2.7V、65℃における製品膨れの変化を示す。DKGシリーズではガス発生を抑制し製品膨れを大幅に改善した。

 以上より、DKGシリーズはDKAシリーズと比べ、劣化の抑制とガス発生の抑制によって、耐電圧の向上と長寿命化を達成した。

 現在、DKGシリーズのサイズ展開はΦ18×40、Φ18×50Lを予定しているが、その他のサイズについてもラインアップを順次拡大していく予定である。当社ではセル単体だけでなく、顧客の要求によりセルを数本使用したキャパシターモジュールの開発も行っており、あらゆるアプリケーションへ適応可能な形で提案することができる。

今後の展望

 電気二重層キャパシターの特徴と小形リード端子形品「DKGシリーズ」の製品特性について紹介した。当社の今後の展望として、小形リード端子形品では「DKGシリーズ」よりさらなる高容量化、低抵抗化、高電圧化、高温度化した製品の開発も進めている。大形ネジ端子形品では、低抵抗タイプの「DXEシリーズ」、高電圧タイプの「DXFシリーズ」、広温度適応タイプの「DXGシリーズ」などの現行品からさらなる高電圧化、高温度化の開発を行うなど、用途拡大のため高性能な大形ネジ端子形品の量産化を検討中である。顧客のニーズに応えるべく、小形品、大形品ともに開発に力を入れている。

 〈日本ケミコン(株)技術本部第三製品開発部 川崎裕介〉