2022.02.08 飛躍のきっかけと商品ラインナップSUNVALLEY AUDIO大橋店主に聞く〈2〉

《写真1》大型直熱送信管「845」を搭載したSV-2

 ―社内ベンチャーから始まったキット屋さん(現サンバレーオーディオ)ですが、第2作のSV-2(写真1)が高い評価を受け一気に知名度が上がりました。

 大橋店主 真空管オーディオフェアの来場者投票で1位(クラフトオーディオ賞金賞)を頂きました。当社量産初のキットが金賞をいただけて非常に感銘の深いモデルです。

 ―大型直熱送信管の845をEL34(6CA7)でドライブという特徴のあるアンプですが、なぜキット製品としてこの構成を選んだのですか。またSV-2は当時の愛好家から高く評価されたわけですが、なぜだとお考えですか。

 大橋店主 90年代には845や211を使ったキットがいくつか他メーカーからも出ていました。大型送信管を用いフィラメントも明るく、音色的にも直熱管特有の高域の伸びと輝かしさを兼ね備えていて魅力的でした。しかし、いずれも大変高価で多くのファンには手が届くものではありませんでした。じゃあ当社で品質はもちろん価格的にも満足いくコンパクトな845アンプを作り上げてやろうと思ったのがきっかけです。音質はもちろんですがコストパフォーマンスの高さが当社最大の強みだと思っています。

 ―SV-2は非常に人気がありましたが、サンバレーオーディオでは創業当初から300Bアンプもラインナップしています。SV-3はE88CC(6DJ8)使用のプリアンプでトーンコントロールがついていました。最初の多極管パワーアンプはSV-4(KT66プッシュプル)(写真2)が最初ですね。SV-4はどのようなコンセプトで作り上げたのでしょうか。

《写真2》最初の多極管アンプ「SV-4」

 大橋店主 SV-4は英国を代表するアンプであるQUADII(クオードII)をオマージュしながら当社独自の多極管パワーアンプとして作り上げたものです。KT66をプッシュプルで用い弦の表現の美しさが際立つしなやかさが最大の特徴で刺激的な感じがなく、長く聴き続けられる落ち着いた英国風の音です。300Bのアンプと比較すると、全体として端正な音造りで音の輪郭が明確です。多極管アンプはジャズ向きと言われますが、SV-4はクラシックが良かったですね。

ボイシングチャートで顧客のニーズをつかむ

 ―その後、SV-6(フォノイコライザー)を出していますね。この時期はアンプにとどまらずFMチューナー(SV-11FM)とか、チャンネルデバイダー(SV-12D)などさまざまな管球機器をリリースされましたね。

 大橋店主 当社は創業以来「モノづくりの楽しさを一人でも多くの人に」をモットーにしています。お客さまにまず作ってみたいと思っていただけることが大切だと考えました。そのためには、アンプに限らず選択肢は多い方がよいと思い、創業当初からアンプ以外のオーディオ機器のラインナップに加えてきました。今でも特選中古品で当時の製品が出るとあっという間に売り切れてしまいます。

 ―お客さまのニーズに合わせてということですね。アンプについても、ボイシングチャート(写真3)をカタログに掲載するなどして、ユーザーのニーズに合ったアンプを選びやすい環境にを作っていらっしゃいますね。

《写真3》アンプやスピーカの音質傾向をチャート化した「ボイシングチャート」

 大橋店主 お客さまの環境とニーズは千差万別です。お客さまの趣向に合わせたシステムを構築することをお手伝いするために音質傾向を可視化したいとずっと思ってきました。そのための工夫の一つがボイシングチャートです。

 ―ボイシングチャートを使って何か変わったことはありますか。

 大橋店主 お客さまへの説明がしやすくなったのはもちろんですが、自社製品の音質傾向も整理でき、ラインナップのバランスが取れるようになりました。もちろんチャートで表現される音質傾向は主観的な要素も多く補助的なものですが、自分の印象にとどまらず多くのお客さまの感想などを参考にさせていただきグラフに示しましたので、かなりは有効性は高いと自負しています。音を聴かなくても大体の音質傾向が分かるというのは画期的なことだったかもしれません。

現在のラインナップ

 ―ボイシングチャートを話題にしたので、現在の管球アンプのラインナップを教えていただけますか。

 大橋店主 管球アンプに興味をお持ちの方ならご存じだと思いますが、アンプの種類は使う球の種類や回路方式で大きく四つに分類されます。(1)三極管シングル、(2)多極管シングル、(3)三極管プッシュプル、(4)多極管プッシュプルですね。それらを均等にラインナップしてどのようなシーンにもマッチした品ぞろえを心がけています。そのほか、プリアンプやイコライザーアンプなども複数用意し、機器の組み合わせの楽しさも味わっていただけるようにしています。

パワーアンプのラインナップ

 ―パワーアンプからお願いしたいですが、直熱管が中心ですね。

 大橋店主 直熱管はいま話題の300Bが中心で、大型管では211や845のものがあります。SV-S1616D[300B仕様](写真4)は300Bシングル専用モデルです。出力は8Wありますので一般家庭での使用ではスピーカーを選ぶこともありません。本家WE300Bの復刻版が久しぶりに生産されたこともあり、SV-S1616の300Bへのニーズはさらに高まっているといえます。

《写真4》SV-S1616D[300B仕様]

 ―300Bといえば、よく比較される2A3についてはどうですか。

 大橋店主 創業当初から2A3アンプはラインナップに加えています。現在はプリメインアンプ(完成品専売)の「JB-320LMII」(写真5)が300Bと2A3との差し替え可能なものになっています。NFB量も切り替えられ音色の変化を楽しめる機種です。2A3と300Bは姉妹管のように扱われますが、音質の傾向もヒーター電圧など電気的仕様にもかなり違いがありますので、多くの方が出音の違いを楽しんでおられますね。

《写真5》JB-320LMII

 ―直熱大型送信管アンプはサンバレーの目玉のひとつですね。

 大橋店主 211と845が差し替えられるSV-S1628D(写真6)が海外のお客さまにも人気です。最初にお話ししたように当社の原点は送信管アンプであり、1628Dはその系譜をくむ製品ですので欠かすことができません。845と211のコンパチ(差し替え可能)モデルで日本では845が多く、海外では211で聴かれる方が多いようです。845は解像度が高くブリリアントな高音が特徴で、現代的なスピーカーシステムに向き、211は中音が豊かで温かい音がします。

《写真6》211と845が差し替えられるSV-S1628D

1616のバリエーション

 ―いろいろといえば、SV-1616型番のネーミングはこの「いろいろ(1616)」から来ていますが、1616にはプッシュプル型もありますね。

 大橋店主 直熱管のプッシュプル版としては、SV-P1616D[300B仕様](写真7)があります。ムラード型位相反転式のプッシュプルで、純A動作で自己バイアス方式を採用し約18Wの出力を得ています。ペアチューブであれば無調整で出力管の差し替えもできます。300Bのアンプは倍音感が豊かなのが特徴ですが、本機は特に響きが豊かで女性ボーカルファンやクラシックファンの方に好評です。

《写真7》SV-P1616D[300B仕様]

 ―多極管は、やはり、KT系を中心に提供されているのでしょうか。

 大橋店主 いろいろ球を差し替えて楽しむには、やはりKT系ですね。現在、当社の多極管アンプは、基本的にシングルもプッシュプルも出力管の差し替えができるもの(イロイロつまり1616)でないとお客さまの支持が得られません。いわゆる「タマ転がし」ですね。このようなお客さまの中には既に何種類かの出力管をお持ちの方も多くなっていますので、出力管を選択できるものと真空管なしのバージョンをご用意しています。設計的には出力よりも音質優先という考え方です。

 ―あまり多極管くさくない(?)音になっていますね。

 大橋店主 多極管アンプにありがちなパワーで押すような粗い音ではないですね。力強くかつしなやかであることが重要だと思っています。

 ―シングルバージョン(SV-S1616D [多極管仕様])(写真8)はいかがですか。

 大橋店主 多極管のシングルアンプは基本的にエッジ(音の輪郭)が明確でコントラストが強い傾向と言われますが、使用する出力管でかなりキャラクターが変化し、例えば6L6GCは聴きやすい音ですし、KT150では三極管のような充実した中音域が楽しめたりします。人間と同じでそれぞれの出力管に個性があるのが真空管アンプの大きな魅力です。(その3に続く)

《写真8》SV-S1616D [多極管仕様