2022.03.25 【この一冊】「ミチクサ先生」(上・下巻) 伊集院静

 「吾輩は猫である」「坊っちゃん」など、没後100年余りを経ても人気作家として不動の地位を保っている夏目漱石(1867~1916)。その漱石の幼少、青春期から国民作家になるまでの生涯を丹念に描いた作品だ。

 肖像写真や伝聞から、漱石は気難しくて神経衰弱の人との印象が強いが、生涯の友であった正岡子規や教え子の寺田寅彦との会話は、実に闊達(かったつ)で爽快。江戸っ子の語り口に乗せたかのような著者の筆致がそう思わせるのかもしれない。<...  (つづく)