2019.12.23 AIで燃料油の国内海上輸送を高効率化 出光がAIベンチャーなどと協業

 石油元売り大手の出光興産は、AI(人工知能)開発ベンチャーのグリッド(東京都港区)や三井物産と協業し、ガソリンなど燃料油の国内海上輸送について、AIを活用した効率化に取り組んでいる。

 熟練した専門職の勘や経験に頼ってきた輸送船の配船業務は、後継者不足などの課題に直面しており、業務の自動化も主眼に置く。21年度中の導入を目指す。

 グリッドは、複雑な問題に絡むため難易度が高いとされる社会インフラの改善プロジェクトを得意とする。高速道路会社、NEXCO東日本と連携して渋滞予測に成功するなど、09年の創業以来、これまで社会インフラ領域などを中心に100件超のプロジェクトを手掛けている。

 出光興産は、精製拠点として国内各地にある製油所から、ガソリンや軽油といった複数の燃料油を、一時的に貯蔵する油槽所に、多くの内航船で運んでいる。

 油槽所からはローリー車などで日々、給油所に配送されるため、油槽所の在庫状況なども綿密な把握が必要。内航船の積載可能な量などにも配慮しながら、効率的な海上輸送ルート計画を策定する。内航船が停泊できる港湾の状況や気象などの影響も受けるという。

 的確な計画を策定できれば、最少の航行で燃費なども抑制できるほか、輸送船の削減などにもつながり、コスト減に役立つ。経験20-30年のベテラン専門職数人が策定業務に携わってきた。だが、入念な計画策定には時間がかかり、高い専門性がある職人的な判断に依存しているため、後継者育成にも課題があったという。

 そこで、出光興産側が、18年4月のAI展示会で、グリッドに相談を持ち込んだ。グリッドは、19年6月から検証を開始。数理最適化手法や機械学習・深層学習と呼ばれるAI技術を用いて開発を進めている。

 人の経験をきちんとシステム化する必要があり、専門職らへの聞き取りは数十時間に及んでいるという。「開発は5合目を超えた段階。だが、既に検証で人による実績と比較して、より効率的な結果が得られている」(グリッド)という。

 20年5月をメドに検証を終え、来年度中にシステム完成に向けて最終調整を行い、21年度中の導入を目指している。グリッドによると、AIによる内航船配船の最適化は初めてとみられる。グリッドの担当者は「将来的には、原油調達や給油所への陸上配送など、サプライチェーン全体の最適化も見据えて取り組んでいきたい」と話している。