2022.05.16 Let’s スタートアップ!AGE technologies「不動産相続の手続き」をオンラインで負担減 “相続のレガシー領域”のDX化に挑戦!
成長が著しいスタートアップ企業を取材し、新しいビジネスの息吹や事業のヒントを探る「Let’s スタートアップ!」。今回は、高齢化で起こる課題をテクノロジーで解決する「Age Tech(エイジテック)」に挑戦する「AGE technologies」。
同社は2020年に、不動産の相続手続き(名義変更)に特化したオンラインサービス「そうぞくドットコム不動産」の提供を開始し、大きな反響を呼んでいる。設立の経緯やサービス開始時の苦労、今後の展望を、事業開発を担当する伊藤さんに聞いた。
「不動産相続の手続き」の負担を減らすサービス
人が亡くなったときの相続手続きは、数十種類以上あると言われている。各種手続きでは、書類の取得や申請書の作成など煩雑な作業が必要な上、役所や銀行など対応機関の窓口で手続きを行わなければならない。
特に、不動産の相続手続きでは、相続人が実家から遠く離れていることも多く、戸籍集めや申請書作成などの負担などから、相続放棄してしまうケースも多い。これが、所有者不明の土地(いわゆる空き家問題)が多発する原因の一つとなり、社会問題にもなっている。
こうした相続にまつわる課題をデジタルの力で解決しているのが、AGE technologiesだ。同社は2020年に、相続によって発生した不動産(住宅、土地)の名義変更手続きをオンライン上で行えるサービス「そうぞくドットコム不動産」をリリースした。
「そうぞくドットコム不動産」の主要なサービスは二つ。その一つが、戸籍や住民票など相続手続きに必要な書類を取得してくれるサービスだ。不動産の相続手続きでは、亡くなった人が生まれてから死ぬまでの戸籍や住民票などの証明書類を入手する必要がある。役所から郵送してもらうこともできるが、請求書類を書いたり、定額小為替を用意したりと、さまざまな手間がかかる。これら必要書類の取得をオンライン上で依頼するだけで完結できるのが、「そうぞくドットコム不動産」の一つ目のサービスだ。
二つ目が、不動産相続のための申請書類をWeb上で作成できるサービスだ。不動産の相続手続きでは、相続関係説明図や遺産分割協議書など、相続人側が作成しないといけない申請書類がある。これら書類は、法務局のWebサイトからフォーマットをダウンロードすることもできるが、非常に複雑なルールがあり、作成するのが難しい。
「そうぞくドットコム不動産」では、利用者がフォーマットに沿って必要な情報を打ち込めば、法務局のルールにのっとった書類を自動作成してくれるサービスも提供。これにより、相続人は申請書作成の手間を大幅に省けるというわけだ。
もう一点、「そうぞくドットコム不動産」の大きな特徴が、定額制であることだ。一般的に、不動産相続の手続きを専門家に依頼すると、不動産の数などによって、支払う金額が変動する。しかし、AGE technologiesでは定額制を導入し、利用者が安心してサービスを利用できるようにしている。
こうした仕組みが評判を呼び、「そうぞくドットコム不動産」の利用者は急増中。2022年3月時点で、登記不動産数は1万1000件を超えている。
起業のきっかけは創業者の「前職での経験」
「そうぞくドットコム不動産」のサービスで急成長するAGE technologiesだが、もともとどういった経緯で設立されたのだろう。創業のきっかけは代表取締役CEO 塩原優太氏の「前職での経験にある」と、伊藤さんは話す。
当社は2018年3月に設立したスタートアップです。創業のきっかけは、代表の塩原優太が「前職で、ある経験をしたこと」にあります。
塩原は、経営者の事業承継に関するコンサルティング会社に勤めていましたが、そこで「人が亡くなり、相続していくときには、こんなにも考えないといけないことがあるんだ」と驚いたそうです。それが全ての始まりでした。
彼はそのコンサルティング会社で働くうちに気になることが出てきたそうです。経営者の事業承継の場合は、ある程度資産がありますから、会計士や税理士などの専門家にお金を払って対応してもらえます。
しかし一般の人の相続の場合は、多くの方が専門家に高額な相談料を払うことができず、自分で手続き方法を調べたり、役所に行ってやり方を聞いたりと、大変な思いをしていました。
だったら、サービスを提供する側のコストを、インターネットを使うことで下げられれば、一般の方々に広く使ってもらえる相続手続きサービスができるのではないかと。そう塩原が考えたことが、当社を設立するきっかけになりました。
サービス開始当初にぶつかった“年齢の壁”
塩原氏は2018年3月に会社を興し、2020年に「そうぞくドットコム不動産」を正式リリースする。サービス開始直後には、さまざまな苦労があったようだ。
「相続」という分野の特性上、実際にサービスを使っていただくユーザーの方々の年齢と、サービスを提供する私たちの年齢にかなりのギャップがありました。これが一つの壁になりました。
サービス開始当初は、自分たちの感覚で、とにかく作業をインターネット化しようと、チャットを導入したり、申し込み手続きからできるだけ紙の書類をなくしたりと、デジタル化を進めていきました。
しかしフタを開けてみると、チャットのやりとりが続かなかったり、申し込みの途中で離脱が起こったりしました。
つまり、サービスをデジタル化し過ぎたことで、使ってもらえないということが頻繁に起こったわけです。
そこで初期メンバーは、徹底的にユーザー目線に立ったサービスの希求を始めました。
例えば、50代、60代のユーザーの方々がなじんでいると思われる、自治体や銀行の手続き体験などを参考に、私たちが提供するサービスの内容を変更していきました。いわば、デジタル化し過ぎたものを、アナログ側に戻していったわけです。
すると、どんどんサービスを使ってもらえるようになり、事業が軌道に乗っていきました。
とはいえ、そのままではいつまでたっても私たちが目指す「Age Tech(エイジテック)」になりません。
そこで、これまで蓄積してきたユーザーに関する知見をもとに、「これくらいなら使ってもらえるだろう」というラインを見極めながら、申し込み動線の一部をデジタル化したり、スマートフォンから簡単に利用できるようにしたりと、デジタル側に寄せた内容に再挑戦しています。
日本最大級のインターネット会社から転職したワケは
ここで伊藤さん自身のことも聞いた。伊藤さんは、Yahoo! JAPANに新卒入社し、インターネット広告の法人営業や事業開発に携わってきた。大手企業で順調にキャリアを積んでいた彼女がなぜ、創業間もないスタートアップに参画することになったのか。その経緯と思いを聞いた。
Yahoo! JAPANでは最初、インターネット広告の代理店向けの法人営業を担当した後、マーケティング本部で広告企画に携わりました。
さまざまな商品の販促や企画に携わらせてもらううちに、より上流の部分から新しい事業を開発していきたいと考えるようになり、入社から4年半ほどたったときに、事業開発の部署に異動しました。
事業開発の業務では、外部のスタートアップと話をさせていただく機会が増えました。いろいろなスタートアップと話をする中で、「この分野の課題を解決したい」という思いの強さや、おのおのが広い裁量を持ち、すごい熱量で事業に取り組む姿を目の当たりにして、こういう働き方も楽しそうだなと感じるようになりました。
当時は副業ブームが起こっていたころで、私も「副業」という形でスタートアップと関わることで、キャリアの幅を広げられないかと考えるようになり、キャリアSNS「YOUTRUST」を通じて塩原と知り合いました。彼の話を聞くうちに、「相続」という領域の課題に挑戦する価値を強く感じ、手伝うようになったのです。
その後3、4カ月たったころに、塩原から「転職しませんか?」と声をかけられました。そこから本格的に転職を考えるようになったのです。
初期フェーズのスタートアップに転職することについては、すごく悩みました。しかし、当時実施されていた資金調達での資料を見せてもらい、「もし自分が投資家ならばこの会社に出資するだろうか」という客観的な視点で会社を評価するなどし、不安要素を解消することができました。そうして2カ月間熟慮した末、AGE technologiesに転職することを決めたのです。
実際に入社して感じることは、やはり一人一人の裁量の幅がものすごく広く、業務の幅が一気に広がったということです。そのことを望んで転職したので、大きなやりがいを感じています。
また「この会社を上場させたい」という思いも抱いて入社してきているので、上場できるよう頑張りたいですね。
人生のタイムラインに沿って利用されるサービスに
AGE technologiesは、どのような未来予想図を描いているのだろう。
現在は、相続の不動産という部分にフォーカスしてサービスを提供していますが、そこに限定するつもりはありません。まずは「そうぞくドットコム」というブランドで、ほかにニーズのある相続の手続きについても横展開していく予定です。
また、相続に関するサービスを提供することで得た資産をもとに、今度は企業に向けて新たな価値提供ができればとも考えています。
さらにその先には、ユーザーの人生のタイムラインに沿って、相続手続きのサービスを提供していけるような展開ができればとも考えています。
例えば、一つの相続手続きが終わったとしても、その先に、次の相続が発生することもあります。あるいは、数十年後には、次の世代への相続が発生することもある。そうした各家庭、各ユーザーの人生のタイムラインに寄り添えるようなサービスにしていければと考えています。
最後に今AGE technologiesが一番必要としているものは何かと聞くと、「レガシーをDXする挑戦心」という答えが伊藤さんから返ってきた。
ほかの領域は徐々にDX化が進んでいると思いますが、相続の分野は全く追いついていない状況で、レガシー領域はまだまだあると考えています。
そのレガシー領域について、私たちはどんどん新しいユーザー体験をつくっていこうとしています。
そんな思いに共感してくれるメンバーや協業企業など、一緒にビジネスを創ってくれる仲間を、私たちは強く求めています。
- 社名
- 株式会社AGE technologies
- URL
- https://age-technologies.co.jp
- 代表者
- 代表取締役CEO 塩原 優太
- 本社所在地
- 東京都千代田区九段南3-8-11飛栄九段ビルB02号室
- 設立
- 2018年3月20日
- 資本金
- 1.2億円
- 従業員数
- 31人(アルバイト・業務委託含む)
- 事業内容
- 高齢社会の課題をデジタルで解決する「Age Tech(エイジテック)」関連事業