2022.05.31 「東欧のシリコンバレー」、ウクライナをIT業界が支援できれば

ウクライナ政府のサイト

 ロシアによるウクライナ侵攻開始から3カ月余。むろん、平和の到来が何より望まれるが、様々な直接・間接の影響の中で、注視されている一つが世界のIT産業への影響だ。

 ウクライナは、知る人ぞ知るIT大国で、「東欧のシリコンバレー」とも。JETROによれば、旧ソ連時代以来、原子力や航空宇宙の研究が進み、理系教育が盛んな背景があり、国内のIT人材は約18万人。約4000万人の人口の0.5%ほどで、定義にもよるが、日本が1%に満たないとされるのを思えば、かなりの集積がある。産業クラスターは首都キーウや、最近有名になってしまった南部オデーサ、西部リビウなどにも展開する。

 ゼレンスキー大統領もそうした路線を発展させている。30代でIT起業家のフェドロフ氏を副首相・デジタル担当に抜てきしており、氏はイーロン・マスク氏をはじめ各国のIT大手や経営者に協力を求めたり、IT軍をまとめたりと活躍。若手でITに詳しい閣僚といえば、台湾のオードリー・タン氏が有名だが、それをほうふつとさせる手腕を発揮している。

 ウクライナは、そうした集積がありながらも、人件費は欧州の半分ほど。そこに着目して、欧米などの企業には、同国内に研究開発拠点を設けたり、システムを外注したりする例も多い。日本の大手電機も拠点を構える。

 さらに、国外への人材輩出源でもある。そんな国柄だけに、スタートアップの盛んなイスラエルのメディアなどは、今回の事態が世界のIT業界へ与える悪影響の懸念を報じている。同国への仕事の発注がしづらくなれば、世界の様々な企業の仕事にも支障が出かねない。

 欧州のある国の駐日大使館幹部は「ウクライナから逃れてくるエンジニアやサイエンティストを雇用したり、オンラインで仕事を頼んだりしたい国や企業も多いはず。企業側は人手不足をカバーでき、ウクライナの人も仕事ができれば、ウィンウィンになる」と話す。

 和平を見据え、技術者を招いたり投資したりといった貢献も考えられそうだ。

(6月1日の電波新聞・電波新聞デジタルに関連記事を掲載予定です)