2022.08.04 【コンデンサー技術特集】125℃保証アルミ電解コンデンサーの小形化長寿命化技術 ルビコン

【図1】RXLシリーズ外観

はじめに

 アルミ電解コンデンサーは有限寿命部品というデメリットがあるが、小形・大容量・安価というメリットがあり、多くの電子機器に使用されている重要な電子部品である。民生機器、産業機器、車載機器、通信機器などあらゆる用途で使用され、使用環境も多岐にわたり過酷な環境で使用されることが増加している。

 通信機器では、第5世代移動通信システムの普及に伴い、リモート・仮想空間・自動運転といったあらゆる可能性が広がっている。この次世代の通信規格5Gを支える基地局は、都市部やへき地を問わずさまざまな気象条件の場所に設置され、電源基板・回路は、防塵(ぼうじん)、防虫、防水などの対策のために機器の密閉性を高めファンレス化設計され、メンテナンスが行き届きにくい地域にある基地局などの設備メンテナンス期間の延長、またはメンテナンスフリー化などにより環境条件が厳しくなる中で、長期間使用されることが多くなっている。このため、コンデンサーには高温度(125℃)保証品で長寿命品の要求が増えてきている。

 車載機器では、車載電装品のエンジンルームへの搭載や機電一体化により、コンデンサーにもさらなる高温度対応と、あらゆる環境での使用を想定し、極低温域から高温まで安定した特性が求められている。車の燃費の向上、コストダウンなどのためにセットの小型化や軽量化が進められ、その対応のためコンデンサーの小型化や員数を減らす検討も行われている。コンデンサーの小型化や員数削減は、コンデンサーへの負荷が大きくなり、高リプル電流対応が必要になってきている。また一方で、自動車の電動化の進展によって1台の車に搭載される電子制御ユニット(ECU)の数は、ますます増加しコンデンサーの需要が増大している。車載機器に使用されるコンデンサーは、高温度、小形高容量、高リプル電流品の要求が強い。

 ルビコンでは、このような車載、通信機器など多岐にわたり過酷な環境で使用されるアルミ電解コンデンサーの開発を行ってきている。本稿では125℃保証品で業界最高スペックを可能にしたリード線タイプ「RXLシリーズ」(図1)と面実装タイプの「TAVシリーズ」(図2)の高温度小形長寿命化技術について紹介する。

【図2】TAVシリーズ外観

RXLシリーズの特長

 ルビコンでは125℃保証品として、リード線タイプの電源入力用として「EXWシリーズ(125℃3,000~5,000時間保証)」、出力用として「RXFシリーズ(125℃2,000~5,000時間保証)」をラインアップしている。

 さらに、出力用として125℃保証品で業界最高レベルの高容量化と長寿命化を図った「RXLシリーズ(125℃3,000~8,000時間保証)」をラインアップし、RXFシリーズに比べて1.6~2倍の長寿命化と高容量化を実現し、機器のさらなる高品質高性能化へ貢献している。(表1 RXLシリーズとRXFシリーズの比較表参照

【表1】RXLシリーズとRXFシリーズの比較

 「RXLシリーズ」の業界最高スペックを実現したポイントは、高倍率電極箔(はく)の採用、高性能電解液の採用、高気密・高耐熱ゴムの採用によるところである。

RXLシリーズ高性能化技術

 RXLシリーズの高性能化技術は、主に以下により実現している。

 (1)高倍率電極箔の採用:高アルミ電解コンデンサーの静電容量は電極箔の表面積に比例するため、コンデンサーの高容量化は高度なエッチング処理により表面積の拡大を行った電極箔を採用する必要があった。しかし、一般的に電極箔を高倍率化するほど箔の強度は低下する傾向にあり、巻回構造をとる電解コンデンサーにおいては電極箔の強度が必要であった。ルビコンでは、使用する材料に合わせて最適な条件で製造できる自社開発の設備とそのノウハウを駆使し、製品の高容量化を実現している。

 (2)高性能電解液の採用:電解コンデンサーの電気的特性の経時変化は、電解液が封口材を介して外部へ拡散し、コンデンサー内部の電解液の量が減少することおよび電解液の特性劣化によって、容量低下と損失角の正接(抵抗)の増加となる。電解液の拡散は温度が高くなると加速し、また電解液自体の特性の経時変化も高温になるほど劣化しやすくなる。また、一般的に電解液の耐圧や耐熱性を高める配合とすると電解液の抵抗が高くなることが多く、低温域での抵抗増加および容量低下が大きくなる。ルビコンでは長年にわたって培ってきた電解液配合技術により、低温から高温まで安定した低抵抗の電解液を開発し、長期信頼性が求められる民生機器、車載機器などの市場での実績を積み重ねている。

 RXLシリーズには、この技術を応用して低抵抗かつ低温から高温まで安定した性能、高温で長期間安定した性能を有する電解液を採用している。

 図3に静電容量の温度特性を示す。φ10、φ18品どちらのサイズも極低温下での容量変化は-10%以内のレベルと安定している。

【図3】RXLシリーズ 静電容量の温度特性

 (3)高気密・高耐熱ゴムの採用:過酷な温度環境下においても安定した物性が必要となる封口ゴムは、電解液の透過に対する気密性と高温度化での使用にも耐え得る耐熱性に優れた配合の中から選定する。前述の高性能電解液とのマッチングを考慮して、高気密・高耐熱となるものを選定することで、長寿命化を実現した。

 図4はRXLシリーズの125℃中における高温負荷試験のデータである。125℃8,000時間経過後も静電容量および損失角の正接は安定した特性を維持している。高温で長期間安定した特性を維持する電解液と気密性に優れた封口ゴムにより、長寿命化を可能としている。

【図4】RXLシリーズ 125℃高温負荷試験データ

TAVシリーズの特徴

 ルビコンでは面実装タイプで125℃保証品としてTGVシリーズをラインアップしている。このTGVシリーズは、コンデンサーサイズφ8およびφ10品で125℃3,000時間の寿命を保証している。今回開発したTAVシリーズは、125℃4,000時間の寿命を保証し、TGVシリーズに対して1.35倍の長寿命化を可能としたシリーズである。

 さらにTAVシリーズでは、従来のTGVシリーズに比べて高容量化および小形化も同時に実現した。表2に示す通り、TAVシリーズは同サイズで比較すると1.5~2.2倍の高容量化を実現している。従来品のTGVシリーズは220μFの静電容量をφ10×10.5Lで対応してきたところをTAVシリーズではφ8×10.5Lで対応でき、1サイズ小形化が可能となる。TAVシリーズは、高温長寿命低ESR対応の電解コンデンサーでは業界トップクラスの高容量化を実現している。

【表2】TAVシリーズと従来品(TGVシリーズ)比較

TAVシリーズの開発ポイント

 TAVシリーズの高性能化を実現したポイントは前記のRXLシリーズ同様に、高性能電解液、気密性に優れた封口ゴム、高倍率箔の採用にある。ただし、TAVシリーズはRXLシリーズより製品長さ(L寸法)が短く電極箔の幅が狭い。このためTAVシリーズのサイズでは、高倍率箔は強度が低くコンデンサーを安定して製造するうえで大きな障害であった。さらにTAVシリーズは面実装タイプであるため、鉛フリーリフロー(高温リフロー)を行っても高信頼性を維持できるように電解液と封口ゴムの性能に耐熱性向上を付加して検討を進める必要があった。また、製造ばらつきがコンデンサーのリフロー耐熱性に影響を与えるため、リード線タイプのコンデンサーより更に製造ばらつきに配慮した製造技術を採用した。

 TAVシリーズ開発に当たっては、製造設備を自社開発してきたノウハウを結集し、製造条件を最適化することで従来使用できなかった低強度材料を使いこなし、製造ばらつきを抑えた工法を確立した。この工法によって高性能、高信頼製品の製造を可能としている。

 図5は鉛フリー条件でのリフローを実施後、高温負荷試験を行ったときの特性変化である。125℃4,000時間後も静電容量および損失角の正接(tanδ)は安定した特性を維持している。

【図5】TAVシリーズ125℃高温負荷試験データ

おわりに

 近年、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーでハイブリッドタイプ(ハイブリッドコンデンサー)が低ESR、高リプル電流、長寿命、低温から高温まで安定した特性性能から車載機器や通信機器などで検討される案件が増加している。このハイブリッドコンデンサーは、非固体アルミ電解コンデンサー(アルミ電解コンデンサー)に比べて大幅な低ESR化と高リプル化を実現し、低温特性が安定しているという優れた性能を有している半面、製造工程の増加や高価な材料を使用するためアルミ電解コンデンサーに比べ大幅なコストアップとなってしまっている。

 このため、従来の電解コンデンサーでさらなる高性能化の市場要求は引き続き高い。ルビコンでは、ハイブリッドコンデンサーの高性能化を進める一方で、独自の電解液配合技術、高性能新規材料の採用、社内開発のユニークな生産設備などにより、アルミ電解コンデンサーをさらにグレードアップし、特徴ある製品および高品質な製品の提供を引き続き行っていく。
 〈ルビコン(株) 技術本部 設計部〉