2022.09.29 【電子部品メーカー・商社ASEAN特集】ASEANの法定最低賃金 今年は各国で引き上げ
ウィズコロナで経済活発化
ベトナム、2年ぶり賃上げ
ASEAN地域では、経済成長とインフレの進展、外資系企業の工業進出増加などを背景に、各国の法定最低賃金が右肩上がりで上昇している。2020年と21年はコロナ禍の経済への影響を踏まえ、最低賃金を据え置く国が多かったが、22年に入り、各国ともに一斉に賃金改定に動いている。
ASEANの工場ワーカーの法定最低賃金は、「チャイナプラスワン」としてASEAN再投資の機運が高まってきた10年ごろから加速した。特に10年代前半から中盤にかけては、ローコストオペレーションが特徴だったインドネシアやベトナムでの法定最低金銀が急上昇した。
10年代後半はやや上昇率が鈍化したが、それでも国によっては毎年1割近い金額の改定が実施され、コロナ禍直前の20年1月にも多くの国で賃上げが実施された。
だが、その後、新型コロナ感染症拡大が深刻化したため、20年春以降は大半の国がコロナ禍による経済への影響を考慮して最低賃金改定を見送り、21年もインドネシアなどの一部の国を除き、多くの国が法定最低賃金を据え置いた。
一方、22年に入ると、多くの国が「ウィズコロナ」にかじを切ったことで、経済活動が活発化。22年はここまで、各国が一斉に法定最低賃金の引き上げを実施または発表している。
ベトナムでは、22年7月に2年ぶりの最低賃金引き上げが実施され、最も高額な第1地域(ハノイ、ホーチミンなど)の法定最低賃金が従来比5.9%上昇した。インドネシアでは、22年1月の改定で、首都ジャカルタ市の法定最低賃金が5.1%引き上げられた。
多くの日系企業が工場を展開するタイでは、今年9月の閣議で、10月からバンコク市の法定最低賃金(日給)が従来比6.5%増の353バーツに引き上げられることが決まった。このほか、チョンブリなどでは日給354に改定される。
マレーシアでは、22年5月に2年3月ぶりとなる最低賃金改定が実施され、全国一律で月額1500リンギットが適用された。首都クアラルンプール周辺では、従来比で25%増の大幅なアップとなる。
フィリピンの法定最低賃金は、ほかのASEAN主要国と比較すると上昇幅が比較的緩やかで、ここ数年は毎年日給で10ペソから20ペソ程度の賃上げが行われてきたが、22年6月の改定では、マニラ首都圏(非農業部門)で従来比33ペソ増(6.1%増)と、やや高めの賃上げが実施されている。
最近のASEAN主要国では、法定最低賃金改定が2年おきなどで実施されるケースが多いが、実際の日系進出企業の製造法人などでは、毎年、安定的な初任給引き上げを実施している。
国によって最低賃金の定義は異なり、また、実際の給与水準と法定最低額との乖離(かいり)が激しい地域もあるため、単純比較はできない。それでも、ASEAN工場ワーカーの賃金は、シンガポールを除けば、中国沿岸部との比較では割安となっている。ただし、今後は世界的なインフレの加速がASEANでの法定最低賃金動向に影響を与える可能性も高い。
最低賃金の引き上げは、国民の消費力向上により経済発展につながるが、急激過ぎる人件費上昇は現地進出企業には負担となる。このため、現地進出の日系電子部品メーカーは、継続的な生産革新活動や生産ラインの自動化・省力化推進による生産性向上、徹底した無駄の排除、業務の高付加価値化を進めることで、収益力の向上を追求する。