2022.11.02 【この一本】「ヒューマン・ボイス」(配給:キノフィルムズ)

© El Deseo D.A.

 1930年に発表したジャン・コクトーの戯曲「人間の声」。監督と脚本を担当したペドロ・アルモドバル(スペイン)が自身初の英語劇に挑戦し、自由に翻案して作り上げた同作。ティルダ・スウィントンが独り芝居で演じ切る30分間の作品だ。

 ひとりの女が元恋人のスーツケースの横で、ただ時が過ぎるのを待っている。スーツケースを取りに来るはずが、結局姿を現さない元恋人。その傍らには、主人に捨てられたことをまだ理解していない落ち着きのない犬がいる。女は待ち続けた3日間のうち、たった1度しか外出をしていない。その外出先で、おのと缶入りガソリンを購入する。無力感に苛まれ、絶望を味わい、理性を失った女。さまざまな感情を体験したところで、やっと元恋人からの電話がかかってくるが――。

 スウィントンの洗練された美しさと、特徴ある色味が印象的な衣装、セットが相まって心地よい没入感が味わえる作品。あっという間に30分が経過してしまう。

 11月3日からヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテほかで公開。