2023.01.13 【新春インタビュー】アルプスアルパイン・栗山年弘代表取締役社長執行役員

サプライチェーン強靱化へ現地生産化など3施策

  ―2022年はどのような年でしたか。

 栗山 これまでを振り返ると、20年に新型コロナの問題が始まり、21年は世界的な半導体不足、22年は世界的な高インフレが進みました。コロナ禍が続く中で新たな課題が毎年増えているという印象です。特に22年はウクライナの問題や上海でのロックダウンなど、いろいろ大変なことがありました。

 アプリケーション別では、自動車の世界生産台数は22年の年初段階では8千数百万台への回復が期待されていましたが、結果的には8100万台前後と、ほぼ21年並みにとどまりました。19年には9000万台を超えていたことを考えると一過性だと予想されたコロナ影響による生産減が3年続いたことになり、08年のリーマンショックや11年の東日本大震災の時とは異なる状況になっています。

 エレクトロニクス産業においても、JEITA(電子情報技術産業協会)によると、22年の電子部品の世界生産見込みは、プラス成長が予想されていましたが、結果はドルベースで前年比5%減となりました。特にデジタル家電は巣ごもり消費が一巡し需要が減少しました。

 そうした厳しい状況下でしたが、当社では今年度もそれなりに売り上げを伸ばすことができています。会社統合によるシナジーが22年から売り上げに寄与し始めてきたと思います。

 もう一つは、インフレの問題です。エネルギーコスト、人件費、原材料価格などさまざまなコストが上昇し、半導体も車載用レガシー半導体などは需給逼迫(ひっぱく)で価格が上がっています。あらゆるモノの価格が上昇し、トータルでは5%から6%程度のコスト増になったというのが22年の実感です。特にサプライチェーンが複雑な自動車関連分野では6%くらい上昇しました。

 このため、当社としても、コスト上昇分をカバーするために自社の生産改善を図りながら、一部は販売価格への転嫁という形で顧客にも協力していただく取り組みを進めました。22年は円安による売り上げへのプラス効果もありましたが、ドルベースでのコスト増も顕著だったため、相殺された感じでした。日本企業は円安の恩恵を受けていると思われがちですが、正味のビジネスでは電機や自動車産業は厳しい状況だと思います。それでも、改善活動に取り組むことで、22年度は通期でも増収増益を達成できると思います。

 ―サプライチェーンの強靭化(きょうじんか)などの進捗(しんちょく)は。

 栗山 21年には物流費が極端に上昇し、グローバルサプライチェーンがクローズアップされましたが、22年に入り、改善が進んでいます。

 サプライチェーン強化では、三つくらいの方策を進めています。一つは現地生産化です。米国、欧州、中国など各地域での現地生産化を進めることで、輸送コスト削減などで実績が出ています。一方、コンポーネント製品やセンサー、通信系デバイスなどの小型の部品は集中生産による設備効率向上に努めています。

 二つ目は安全在庫の確保です。顧客への供給責任を果たしていくため、過去1年くらいをかけて計画的に在庫水準の引き上げに取り組みました。加えて、取引条件の見直しにも着手しています。市場環境の変化は想像がつかない状況ですが、どのような取引条件が最適なのかを再度見直していきたいと思います。

 ―販売価格是正は進んでいますが。

誠実に協議で解決

 栗山 日本市場では、もともと誠実に協議で解決するという企業文化があります。大企業の値上げ要請を下請け企業が一方的に飲むような状況だと中小企業が疲弊してしまいます。こうしたことを防止することを日本政府も方針として打ち出していますし、業界側も理解していますので、日本国内では価格転嫁が随分進んできたと思います。

 一方、欧米などは契約社会ですので厳しさはあります。それでも、一定の範囲までは受け入れていただけるようになっていると思います。

営業利益率10%の目標を重視

 ―中長期目標の「ITC101」(革新的T型企業、27年度に営業利益率/ROE10%、営業利益額1000億円)への取り組み状況は。

 栗山 4年から5年先を見据えたビジネスの獲得の点では、計画プラスアルファくらいのペースで進捗できていると思いますし、将来の連結売上高1兆円に向けた素地が出来上がりつつありますが、それ以上に営業利益率を中長期目標の10%に高めていくことを重視していきたいと思います。

 ―23年に向けたビジネス戦略や展望は。

他社とのシナジー発揮

 栗山 車載ビジネスでは、今後も他社とのシナジーを発揮しながらビジネス拡大を目指していきます。「デジタルキャビン」の取り組みもその一つです。

 スマートフォン向けは、22年は世界全体での需要が2割程度落ちているイメージです。このほか、パソコン(PC)やテレビなども含め、デジタルコンシューマー製品は全般的に厳しい状況が続きました。

 23年も、デジタルコンシューマー製品に関しては、年前半は不透明な状況が続くのではないかと思います。スマホも買い替えサイクルが伸びています。

 期待しているのはゲーム機を含むアミューズメント関連市場の成長です。家庭用ゲーム機市場で当社は高いグローバルシェアを持ち、ハプティックデバイスなどで実績を拡大しています。加えて、今後のゲーム市場はメタバース分野にも広がり、メタバース用コントローラーなどでハプティックデバイスやセンサーなどの需要増が期待できると思います。

 ゲーム機の延長がメタバースにつながっていくのとともに、オンライン会議などのビジネスユースの分野でもメタバースへの広がりが期待でき、既存のPCなどとは異なる新たな端末需要が創出されることなどを期待しています。

 ―23年後半の市況はどのようにみていますか。

 栗山 中国がこのままウィズコロナ、アフターコロナに変化していけば、サプライチェーンの問題も解消されていきますし、そうすると全体の市場も回復に向かっていくことが期待できると思います。

 ―経営統合後のシナジーはどのような形で発揮されていますか。

付加価値を高める

 栗山 当社の三つの事業の中で、コンポーネント事業はメカトロ部品の事業ですのでシナジーの要素は少ないですが、センサ・コミュニケーション事業とモジュール・システム事業では、シナジーが発揮できています。例えば、半導体メーカーから購入したセンサーチップに旧アルパインの技術の融合により開発したアルゴリズムを付与して提供したり、デジタルキャビンなどに旧アルパインのソフトウエア技術が生かされています。

 これからの自動車は、EV化、自動運転化、コネクテッド化などが進化する中で、統合ECUによるシステム制御を行うようになっていきます。われわれのソフトウエア技術などを活用し、車の制御システムの付加価値を高められるよう取り組みたいと思います。

拠点拡充と優れた人材の確保

 ―拠点体制拡充の進捗はいかがですか。

 栗山 重視しているのは開発体制を充実させるための投資です。国内では「古川開発センター」(宮城県大崎市)のR&D新棟が23年4月に竣工(しゅんこう)予定で、「仙台開発センター(古川)」の名称で展開します。JR仙台駅ビルに立地する既存の「仙台開発センター(仙台)」と合わせ、古川・仙台地区で約2000人規模の技術者の体制となる見込みです。

 海外では特にソフトウエア開発力を強化したいと思います。現在、中国では上海と大連のソフトウエア開発センターに合計約500人のソフトウエア技術者が在籍しますが、今後、インドでも開発拠点を整備したいと考えています。

 22年4月から社員制度を見直し、社員を行動と成果で評価する役割型の評価制度を導入しました。達成率による業務評価から、高い目標に対する改善率、成長率で評価するという、改善と進歩を評価する制度に見直しています。これにより新しいこと、高い目標にチャレンジする社風に変えていきたいと思います。今後も社内のカルチャー改革に継続して取り組みます。

 ―ESGへの取り組みはいかがですか。

30年までに「RE100」

 栗山 22年にアルプス物流を非連結化して親子上場を解消しました。グループとしてのガバナンスは良い方向に向かっていると思います。

 環境に関しては、30年までに「RE100」を達成することを宣言しました。目標達成に向け、太陽光発電設備導入やRE電力購入などをロードマップに沿って推進します。カーボンニュートラル対応では、Scope3までを含めた取り組みを進める方針です。このため、サプライヤーも含めたGHG排出などの見える化を図っていきます。

 ソーシャルでは、ダイバーシティーインクルージョンに力を入れています。採用者に占める女性比率や外国人比率などはグループの海外法人より日本の方が遅れている状況ですので、しっかり取り組む方針です。
(聞き手は電波新聞社代表取締役社長・平山勉)