2023.01.16 【新春インタビュー】TDK・齋藤昇社長

多様性を生かし新たな成長へ

 ―2022年4月1日付で社長に就任されて9カ月ほどが経過しました。振り返るといかがでしたか。

 齋藤 社長就任前まではセンサー事業を手掛けてきましたが、その間は常に前を向き、180度の視野で前を見ながら事業を展開してきました。一方、社長就任後、前だけでなく背後も含めて360度の視野で見ていかないといけないということです。さらに直近では360度でも不十分で、グロスで540度ぐらいの視野でモノを見ていかなければいけない、そういう立場だと感じています。

 最近の市場では、想定を逸脱するようなことが起こる時代になっています。平面の一周だけでなく、一周半、あるいは3次元の視点で見ていかないといけない時代になっている。社会や経済を含め、そうした時代になってきたと感じます。

 ―長年、センサー事業を率いてきた後に帰国されました。海外と日本のギャップなどは感じますか。

 齋藤 いろんな意味でスピード感の違いのようなことは海外にいると少し感じることもありますし、シリコンバレーでは多様性の尊重といったことを感じていました。ただ、前任の石黒成直会長がガバナンス改革を積極的に進めてきたため、私自身もそうした「本社も含めてTDKが変わろうとしてきている」という波に乗って経営を進めることができていると感じています。

 多様性に関しては、当社は海外売り上げが90%以上、生産も85%以上が海外です。役員の50%以上が海外人材で、従業員も日本人はむしろマイノリティーです。こうした多様性は当社の強みだと思います。

 その個性派集団をうまくつなげていく、そして権限移譲も進めていく、ただし、透明性を重視する、というバランスをしっかりと石黒前社長が植え付けてきたことが、日本と海外とのギャップを相当縮めてくれたと思いますし、しっかりと前を向くための土台ができていると実感しています。

 それを踏まえた上で、TDKを新たな成長ステージに導いていくことが私のミッションであると考え、経営を進めています。

 ―22年の事業全体を振り返るといかがですか。

事業のバランスを取る

 齋藤 上期は前期に引き続き、バッテリー事業が好調に推移し、全社の成長をけん引してきました。今後もバッテリー事業は当社の柱として成長を継続させていきますが、加えて、他の事業とのポートフォリオのバランスをしっかり取っていくことを重視しています。その芽が受動部品とセンサーになります。受動部品やセンサーといった別の柱が成長し、バランスの取れた事業ポートフォリオにステップアップしていく年になったと思います。

 ―22年は、ロシアのウクライナ侵攻などさまざまなことが起き、外部環境変化も激しい年でした。

 齋藤 地政学的な問題に関しては、足下および今後の見立てに注視しながら、いかに会社をドライブさせていくかということになります。地政学的な問題を考慮すると、重要なのはBCP対応です。現在、当社は中国での売上比率は約5割、生産比率は約6割に達しています。

 これを米中関係も含め、どうマネージしていくかと指摘されることも多いですが、まず申し上げたいのは、当社は決して「脱中国」ということは志向しません。中国は市場として世界最大規模ですし、今後も継続していくと思います。地産地消で需要のあるところで生産する、ということを見据えて今後も中国で事業を展開していきたいと思います。同時に、それ以外の地域では「中国プラスアルファ」の形で生産拠点も見据えて展開していきたいと思います。

 例えば現在バッテリー事業は中国がメインですが、加えてインドでも後工程のパッケージ生産を数年前から一部立ち上げていますし、電池セルも25年からの本格立ち上げに向けて進めています。インド市場の将来性と中国プラスアルファの両観点から、インドを第2の拠点として手を打ち始めています。それ以外の事業でも、受動部品ではフィリピンや欧州のTEG(前EPCOS)の拠点などで、同様の観点から生産拠点を適切なタイミングで展開したいと考えています。

EXとDXで着実な成長期待

 ―今後の電子部品市場をどう展望されますか。

 齋藤 中長期でみると「EX(エネルギートランスフォーメーション)」の市場は必ず伸びていきます。xEVを中心としたEV関係や、再生可能エネルギーなどをはじめとしたEXへの潮流は変わりません。

 当社の成長をドライブするもう一つは「DX(デジタルトランスフォーメーション)」市場です。データ需要に関わる分野ですので直近は少し厳しさはありますが、中長期では必ず伸びていきます。ここに対して貢献する当社の事業には、センサーや磁気ヘッドなどがあり、中長期では確実な伸びが期待できます。

 電子部品市場は、中長期では明るいと考えています。そうしたことを見据えて、新年に何をやるべきかということについて社内でメッセージを発しています。

 そして、成長を図っていく上で最も重要なのは「人」です。私は社長就任の初日に社員にメッセージを発信しましたが、最初に発信したのは「すべては人」というメッセージです。当社はテクノロジーの会社ですが、技術を開発するのも製品を作るのも、マーケティングや販売をするのも全て人です。ですから「私は人の成長を後押しします」ということを伝えました。

 加えて重要なのは「チームワーク」です。個人の成長とともに、それをつなげるチームワークをしっかりと育む、その後押しをしていかないといけないと思います。

 また、今のような短期の先行きが厳しい時期だからこそ、あまりマクロの景気に右往左往することなく、自分たちでできることに取り組みたいと思います。品質向上や生産性向上などできることはたくさんあります。これらによって自力を上げることに努めたいと思います。

 「品質」というと、製品だけの印象を抱く人もいるかもしれませんが「クオリティー」の向上は何も製品だけにとどまりません。あらゆるクオリティーを改善すれば、会社のパフォーマンスも人のモチベーションも向上します。こういう時期こそ、自力をしっかり付けるための活動に一層注力するべきと考えています。

 ―23年の電子部品市況はどのように予想されますか。

少し停滞する局面か

 齋藤 全体としては少し停滞局面になると感じています。市場別でも22年に低迷したスマートフォン市場は23年も大きな伸びは難しいと考えています。自動車についても、22年で底を打ったとみていますが、急回復は予想しにくいと思います。

 そうした中でも、xEVを中心としたEVの需要は伸びるとみています。22年もxEVは21年比で5割から6割ぐらい成長したとみられています。23年もさらに3割ぐらいの伸びを見込んでいますし、今後も伸び続けると思います。

 これらを踏まえ、22年に積層セラミックコンデンサー(MLCC)に関する約500億円の設備投資計画を発表しました。単一の受動部品に対する設備投資額では当社として過去最大規模です。今後も伸びゆくアプリケーションに積極的な投資を実施し、伸びゆく市場に対してタイムリーな製品供給に努めていきます。

中型バッテリーで№1目指す

 ―中期経営計画も順調に進捗しています。

 齋藤 23年度は、現中期経営計画「Value Creation 2023」(3カ年)の最終年度に当たります。中計のスタート時に、3カ年累計で約7500億円の設備投資計画を策定しました。当初は約6割をバッテリー事業に投資する計画でしたが、これを見直し、バッテリー事業への投資比率を約4割とすることにしました。

 その背景は、一つは、CATLと中型バッテリー事業のジョイントベンチャー(JV)を設立したことです。当社は小型バッテリーではナンバーワンのポジションを維持できています。そして、中型バッテリー事業は、CATLとのJVをうまく活用して積極的な拡大を図り、長期的にナンバーワンのポジションを獲得したいと考えています。

 そして、バッテリー事業で見直す設備投資資金を、MLCCなどの受動部品やセンサーへの投資強化に充てていく計画です。

 中型バッテリー事業の拡大とMLCCやセンサー事業への投資を加速することで、バランスのよい事業ポートフォリオを構築し、成長につなげていきたいと思います。

 ―CATLとのJVの進捗はいかがですか。

予想以上に需要広がる

 齋藤 23年前半にJVの生産が立ち上がる予定です。中型バッテリー事業は、ESS(エネルギーストレージシステム)や家庭用蓄電池向けなどに展開していますが、最近は欧州でのエネルギー不足問題もあり、予想以上に需要が広がりを見せています。今後もESSのほか、Eバイク、ドローン、電動工具など幅広いアプリケーションに展開していきたいと考えています。

 ―センサー事業の黒字化も達成しました。

 齋藤 22年度はセンサー事業の黒字化定着が進捗しています。今後も、顧客基盤の拡大、アプリケーション基盤の拡大、新製品投入の3本柱で展開し、23年度はさらに上乗せを目指していきます。

 ―改めて23年の抱負をお願いします。

 齋藤 先ほど申しましたように、23年は厳しい年になると思いますが、これは通過点でしかありません。その間にわれわれができることに取り組み、自力をしっかりと付けていきたいと思います。
(聞き手は電波新聞社 代表取締役社長・平山勉)