2023.01.18 【情報通信総合特集】市場/技術トレンド オフィス改革

アイティフォーは昨年末、本社オフィスを1フロア増床しリニューアルした=東京都千代田区

リニューアルや移転が相次ぐ 進むフリーアドレス化

 新型コロナウイルスの感染拡大から3年。在宅勤務の定着が進むIT企業を中心に、オフィスの在り方を見直す動きが相次いでいる。本社のフロアを改築して、個人の座席を固定しない「フリーアドレス制」を取り入れる企業が拡大。一方で、空室の増加や賃料の下落を背景に、東京都心の一等地に本社を移転する企業も目立つ。コロナ禍で多様化する働き方に対応したオフィス改革は、今後も進みそうだ。

 「リモートワークが進む今だからこそ、対面での社員間コミュニケーションの充実化が必要。オフィスの改修はコストではなく、社員への投資だ」。システム開発のアイティフォーの佐藤恒徳社長は、昨年末にリニューアルオープンしたばかりのオフィスでこう強調した。

 同社は創業50周年の記念日となる2022年12月2日、東京都千代田区の本社オフィスをリニューアルした。

 在宅勤務の普及でオフィス規模を縮小する企業も多い中、同社は、2フロアだった本社オフィスを1フロア増床。今後の事業拡大を見据え、中部事業所や西日本事業所なども改修に踏み切った。

 本社の3フロアのリニューアルコンセプトは「個を磨く」「内とつながる」「外につなげる」がキーワード。自由に空間と時間が共有できる場づくりとして、従来の考えや価値観にとらわれないオフィス環境を目指した。

 自由な働き方を実現するために柔軟なレイアウトを取り入れ、ガラス張りの会議室を含め全体をオープンにした。カフェスペースにはフリー飲料やダーツなど遊び空間を設け、社員間のコミュニケーションが促がされるよう工夫。コピー機を設置せずにペーパーレス化を進め、ごみ箱も排除した。床材やタイルカーペットは環境配慮材を使用したほか、壁面には環境負荷を軽減する持続可能素材リサイクル内装ボードなどを採用。天然素材から製造されたテーブルなどにそろえた。

 佐藤社長は「コストはかかるが、社内にSDGs(持続可能な開発目標)を浸透させるためにも環境にやさしいオフィスは重要な取り組み」と説明した。

 東京都心の一等地にオフィスを移転したのは、ERP(統合基幹業務システム)大手のSAPジャパンだ。東京都中央区の麹町半蔵門エリアにあった本社を、昨年9月、皇居を臨む千代田区大手町の三井物産ビルに移して新たな拠点を構えた。

 移転に伴い総床面積を55%削減した一方、1フロアの面積を約2.4倍に広げ、エレベーターなどでフロアを移動する手間を減らした。

 同社では社員の9割以上がリモートワークを実施。鈴木洋史社長は「リモートワークと出社勤務を自由に組み合わせてベストな選択ができる環境づくりを推進した」と話す。

 オフィス内は従来の固定席から完全フリーアドレス化しただけでなく、役員室も廃止。壁を可動式にして、大規模会議から少人数の打ち合わせまで多様な用途でスペースを活用できるようにした。鈴木社長は「デザインやレイアウトを固定化せず、利用者のニーズに対応する設計で、働く人の好奇心を刺激するオフィスにした」と胸を張る。

 社員の動線にも気を配った。デスクなどが整然と並ぶレイアウトではなく、斜めに配置するレイアウトを採用。総務部オフィスプロジェクトマネージャーの瓜田良介氏は「好奇心を刺激して人々の動きを促し、偶発的なコミュニケーションが生まれる」と効果に期待する。

SAPジャパンは東京都心の一等地に本社オフィスを移転

 一方、フリーアドレスで課題になるのが、社員同士がどこにいるか分からず、コミュニケーションが不足するという懸念だ。

 オフィス家具の製造販売や企業向けのシステム開発を手掛ける内田洋行は、社員の位置情報と社員情報をひも付け、相手の状況を可視化しながらコンタクトの方法やタイミングを効率よく提供する基盤サービス「スマートオフィスナビゲーター」を、三菱自動車と協創し導入した。昨年4月から本格導入を進め、コミュニケーションの課題に対応している。

 コロナ禍を背景にハイブリッドワークを取り入れる企業が増え、内田洋行のオフィス関連事業は好調だ。特に製造業の研究施設への投資拡大が目立っている。同社知的生産性研究所の矢野直哉部長は「研究などクリエーティブな仕事については、家にこもって一人で在宅勤務することの弊害や限界が見えてきた」と指摘。「数千~数万人が集まる大規模な研究所では、出社した際の人と人が会うための仕掛けづくりが求められてきた」と分析する。

 一方で、大手町など都心の高級エリアでは「賃貸料の低下により、移転が狙いやすくなっている」(矢野部長)という。首都圏エリアでは1970年代のビルの建設ラッシュから50年が経過してビルの建て替えが相次ぎ、オフィスの増床は23年の58万坪が25年には78万坪に膨らむと予測している。

 優秀な人材確保に向けた事業戦略としてオフィス改革を進める企業も多く、新設ビルへの移転やリニューアルの需要は今後も拡大を続けそうだ。