2023.02.10 Let’s スタートアップ!Kanatta 「ジェンダー平等」の実現を目指して創業 ドローン、宇宙業界に女性が活躍できる場を!

 成長が著しいスタートアップ企業を取材し、新しいビジネスの息吹や事業のヒントを探る「Let’s スタートアップ!」。今回は、SDGsの開発目標にも選ばれている「ジェンダー平等」の実現を目指す株式会社Kanatta(カナッタ)。

 Kanattaは、ジェンダー平等の実現に貢献することを理念に掲げ、ドローン業界で活躍する女性を増やす「ドローンジョプラス」や、宇宙業界に興味のある女性のキャリア形成を応援する「コスモ女子」といったコミュニティー運営などを通して、女性が活躍できるフィールドを拡大しようとしている。ファウンダー(創業者)で代表取締役社長の井口恵さんに、同社立ち上げの狙いや経緯、中心とする事業の特徴や展望を聞いた。

プロフィール 井口恵(いぐち・めぐみ) 株式会社Kanatta 代表取締役社長
大学在学中に公認会計士の資格を取得。卒業後、監査法人に入社し、外資系企業の監査業務を担当する。その後、ルイ・ヴィトンを傘下に持つLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン・ジャパン株式会社に転職し、アナリストとして日本市場の分析業務を担当。2016年6月にKanattaを創業する。

女性が活躍できるフィールドの拡大に向けて

 2015年9月、国連サミットで「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択された。SDGsは17の目標と169のターゲットで構成されているが、この中で、目標5に掲げられたのが「ジェンダー平等の実現」だ。これを機に、世界各国でジェンダー平等の実現に向けた取り組みが進められるようになった。しかし、残念ながら日本社会においては、いまだ男性中心の職場が多く、女性が活躍できる場が限定されているのが現状だ。

 そうした中、監査法人やファッション業界でキャリアを積んだ井口恵さんが、自身が感じた女性の働きにくさを解消するため、2016年に創業したのがKanattaだ。

 Kanattaは、ジェンダー平等の実現に貢献することを理念に掲げ、女性が活躍できる「仕組み」と「コミュニティ」づくりに尽力している。その一つが、ドローン業界で活躍する女性を増やすために設立された女性限定のコミュニティー「ドローンジョプラス」の運営だ。本コミュニティーでは、毎月1回、ドローンに関する情報交換やゲストによる講演を中心としたメンバーミーティングやドローン空撮ツアーを開催。またドローン操縦体験会を全国各地で開催し、女性のドローンパイロットの育成や雇用創出に寄与している。現在、ドローンジョプラスとして活動する女性ドローンパイロットは約70人に上り、操縦会の体験者は1万人を超えている。

 またKanattaでは、「宇宙を身近な存在に」をテーマとした女性コミュニティー「コスモ女子」も運営している。コスモ女子では、宇宙に関する勉強会やイベントを定期的に開催するほか、「バーチャル宇宙旅行」を企画するチームや、宇宙に関連する仕事を紹介するWebメディア「宇宙のお仕事図鑑」を運営するチームの発足など、宇宙に関心がある女性のキャリア形成を後押しするさまざまなプロジェクトが進められている。最近では、コスモ女子から発足した「コスモ女子アマチュア無線クラブ」という団体が、人工衛星の打ち上げを目指す活動を推進し、注目を集めている。

「ドローンジョプラス」活動の様子(画像提供:Kanatta)

原動力は「“女性の働きにくさ”を解消したい」という思い

 ジェンダー平等の実現のためにさまざまな事業を展開するKanattaだが、そもそもどういった経緯で設立されたのだろう。ファウンダーの井口さんは、自分自身が感じた「女性の働きにくさ」を解消したいという思いが、創業の原動力になったと話す。

 私は、監査法人で公認会計士としてキャリアをスタートしたのですが、そこは男性が8割、9割を占める、典型的な男性主体の業界でした。

 親の仕事の関係で子ども時代をアメリカで過ごした私は、「自分で稼ぎたい」という思いが強く、公認会計士の資格を持ち、男性と対等に働ける環境は、望んだものではありました。しかし、それが想像以上というか…。入社初日から“終電帰り”になってしまっただけでなく、2年目からは終電でも帰れない生活が続きました。

 20代の時はその働き方を続けられますが、30代、40代になってからも、そういう働き方ができる人しか残れないという風潮があり、このままでは続けられないかもしれないと思うようになりました。

 さらに200〜300人ほどいる事業部の中で、女性管理職は1人、2人ほどしかおらず、自分がここでキャリアアップするという未来が見えづらくなり、転職を決意しました。

 転職先はファッション業界でした。前職とはジェンダーバランスが逆転し、女性が8割を占める職場で、子どもを育てながら仕事をする女性も多く、非常に働きやすい環境ではありました。

 しかし、従業員の8割が女性であるにもかかわらず、役員陣は全員男性で、やはり女性が活躍する機会が限られているのだなと感じました。さらに、私自身も家庭を持ったら、自分で自由にスケジューリングできる環境で働きたいという思いもあり、「これはもう起業するしかない」と考えたのです。

 そのときに、どうせ起業するなら、自分が当時感じていた「女性の働きにくさ」の課題を解決できる会社にしたいと思い、ジェンダー平等の実現を理念に掲げ、Kanattaを立ち上げたという経緯になります。

Kanatta創業の経緯について説明する井口さん

「ドローン業界」で活躍する女性を増やしたい

 ジェンダー平等の実現に貢献するという理念は決まっていたが、「具体的に何をするかはこれから考えるという状況だった」と井口さんは設立時を振り返る。井口さんが最初に取り組んだのは、ドローン業界で女性の活躍の場を広げる事業だ。

 当時、ドローン業界はまだ“黎明(れいめい)期以前”の状態で、私自身も「ドローンって何だろう」という状態でした。創業するちょうど一年前の2015年に、首相官邸にドローンが墜落する事件がありましたが、そのニュースでドローンのことを初めて知ったという感じです。

 しかし、ドローンの海外動向を調べてみると、これから確実に成長していく産業であることが分かりました。さらに詳しく調べると、ラジコンに親しんだ世代が多いことと、ヘリコプターを操縦している人がそのまま参入していることから、男性が大多数を占める業界であることも分かってきました。

 ところが、ドローン業界で活躍していたある女性に聞くと、「(ドローンは)女性に操縦できないものではなく、特に男女差はない」と言います。だったら、これから確実な成長が期待される業界で、女性が活躍できるフィールドを作れば、女性の雇用創出や社会進出に貢献できるのではないかと考え、ドローン事業に踏み込んだという流れです。

 今運営している「ドローンジョプラス」では、参加した女性にドローン講習を受ける機会を提供するだけでなく、それぞれのスキルに応じて、私たちが受託したドローン関連の仕事(商業施設でのドローン体験会、小学生向けプログラミング教室、企業の物流実験など)を業務委託するという形をとっています。

 世の中にドローンスクールはたくさんありますが、仕事のあっせんまでしてくれるところはほとんどありません。ドローンジョプラスでは、実際のお仕事まで提供することで、女性の活躍の場が確実に広がるよう努めています。

「ドローンジョプラスでは、講習を行うだけでなく、仕事のあっせんも行っている」と井口さん

「宇宙業界」にも女性が活躍できる場をつくりたい

 Kanattaでは、2020年4月から宇宙開発に興味を持つ女性向けのコミュニティー「コスモ女子」の運営も開始した。この取り組みには、どのような狙いがあったのだろう。

 世界的に宇宙産業市場はこれから大きく伸びると言われていて、市場規模は100兆円まで成長すると言われています。

 しかし、JAXA(宇宙航空研究開発機構)で働く女性はまだ2割ほどしかいませんし、日本の現役宇宙飛行士は全員男性で、ジェンダー平等と言える状態ではありません。そんな宇宙業界にも女性が活躍できる場をつくれたらいいなと考え、「コスモ女子」の取り組みを始めました。

 コスモ女子では、月に1度、専門家の方に講師として来てもらい勉強会を開くほか、さまざまなチームをつくり、宇宙関連のプロジェクトを進めています。その中でメンバーにスキルアップしていただければと考えています。

 現在、コスモ女子では、イベントの実施や宇宙業界の会社とのコラボレーショングッズの作成などを収入源としていますが、将来的にはコスモ女子のメンバーと宇宙ベンチャーをマッチングする事業にも展開しようと考えています。

 宇宙業界は、これまで国が主体だったところに、民間企業がどんどん参入しています。すると、例えば広報や営業など、これまで国が主体だったときにはなかった仕事が次々と生まれてきます。そうしたときに、私たちのように違う畑から宇宙業界に参入することが、むしろ強みになる。そうした意味でも、コスモ女子の活動には大きな可能性を感じています。

「コスモ女子」の活動の様子(画像提供:Kanatta)

コミュニティーメンバー9割が一度にやめてしまったことも

 設立から7年となるKanattaだが、これまでの歩みは決して平坦なものではなかったという。

 最初に苦労したのは、ドローン業界に参入するときです。世の中にドローンのことが知れわたる前にスタートしたので、「そもそもドローンとはこういうもので…」というところから説明を始めなければなりませんでした。これはチャンスでもあり、苦労したところでもありますね。

 また、当時はジェンダー平等という考え方が一般的ではありませんでした。応援してくれる人はもちろんいましたが、どちらかというと「強い女性が自分の権利ばかり主張している」といった捉え方をされることも多く、なかなか理解してもらえませんでした。

 今では、ドローンのことは広く知られるようになりましたし、ジェンダー平等の考え方も認知度が上がり、非常に事業が進めやすくなったと感じています。

 最も苦労した出来事は3年前に起こりました。その頃、ドローンジョプラスのメンバーは100人近くまで増えていました。しかし、当時リーダー格だった女性がコミュニティーを卒業されたときに、一緒に約90人ものメンバーがやめてしまったのです。

 その方は非常に影響力が強く、「この人みたいになりたい」というメンバーが集まっている状況で、「この人がやめるのなら自分もやめます」という人が大勢出てしまったというわけです。

 このときはもう生きた心地がせず、ドローン事業のみならず、Kanatta自体もやめてしまおうかと思い悩みました。しかし、残ってくれた10人が「ゼロから立ち上げるつもりで一緒に頑張ります」と言ってくれたため、何とか踏みとどまることができました。

 この出来事は、私が「なぜこの取り組みをやっていきたいのか」という思いをきちんと伝えていなかったことが原因で起こったものだと思います。この経験を生かし、今は私の背景や思いもどんどん発信し、それを理解してもらった上で、コミュニティーに参加いただくよう心がけています。

 また、誰かに仕事が集中するといった状況をあまりつくらないよう、いろいろな人が活躍できるコミュニティーづくりにも努めています。

「現在のコミュニティーメンバーには、自身の思いをきちんと伝えるよう心掛けている」と井口さん

「男女比率半々が当たり前」の社会を目指す

 井口さんはKanattaの今後について、どのような展望を抱いているのだろう。

 一つ掲げているのは、「海外進出」です。

 ジェンダー平等の課題は、海外にもあると思います。また私自身がもともとグローバルな環境で働きたいという思いを抱いています。

 また、ドローン業界も宇宙業界も海外の方が発展しているので、女性が活躍する場の拡大を考えたときに、やはり海外にも目を向けないといけません。

 そういう理由から、海外進出を一つの目標に掲げています。

 また少し違う観点になりますが、まずは自分が関わっているドローン業界、宇宙業界で、実際に携わる人の男女比率を半々にしたいという思いも持っています。

 将来的には「男女半々が当たり前だよね」と言える社会にしていきたいですね。

 最後に、「Kanattaが今必要としているものは何か」を聞いた。

 今、私たちが必要としているのは、「ドローン×◯◯、宇宙×○◯を一緒に盛り上げるパートナー」です。

 例えば「ドローン×教育」や「宇宙×美容」など、いろんな業界とドローン、宇宙業界を掛け合わせて、私たちの活動をよりビジネスとして広げていきたいと考えていて、この「○○」に当てはまる人たちを求めています。

 ぜひ私たちと一緒に新しいビジネスをつくっていただければと思います。

(取材・写真:庄司健一)
社名
株式会社Kanatta
URL
https://kanatta.co.jp
代表取締役社長
井口恵
所在地
東京都目黒区中目黒 3丁目6-2 中目黒FSビル5階
設立
2016年 6月
資本金
500万円(2023年1月時点)
従業員数
12名(業務委託含む)
事業内容
コミュニティー運営事業(ドローンジョプラス・コスモ女子)、宇宙サービス事業