2023.04.06 【自動車用電子部品技術特集】自動車用アルミ電解コンデンサーの最新技術動向 ニチコン
【写真1】チップ形アルミ電解コンデンサー「UBHシリーズ」
はじめに
自動車は「CASE」をキーワードに、カーエレクトロニクス技術が大きく進化・発展している。中でも電動化は、将来的なカーボンニュートラル化に向けて、xEV化の動きが加速している。また、ADAS/自動運転技術の高度化や5Gの車載適用など、コネクテッド・自動運転についても高機能化の動きが加速している。
車のxEV化や高機能化の進展によって、1台当たりの電子部品搭載点数が右肩上がりとなることから、車の生産台数以上の成長が見込まれている。車載用アルミ電解コンデンサーにおいては、小形・高容量、高温度・長寿命、低ESR・高許容リプル電流などの性能の追求が強く求められており、これらの高い技術要求を満たすべく技術開発を進めている。
アルミ電解コンデンサー
150℃高温度長寿命低温ESR規定品「UBHシリーズ」
自動車の電動化・高機能化に伴い、車載ECU数の増加が加速している。限られた空間に多くの部品を搭載するために、電子部品の小形・軽量化はもちろん、高パワー密度化への対応のために、高耐熱化の要求が高まっている。
当社では、150℃1500~2000時間対応の「UBHシリーズ」【写真1】をラインアップしている。
本製品は、これまで当社が培ってきた高容量化、低抵抗化、高信頼性化技術を駆使し、150℃環境下に対応する低比抵抗・低蒸散性電解液の採用や封止設計の最適化、電極箔(はく)の高倍率化および収容面積拡大により、従来品の150℃1000時間品「UBCシリーズ」から約2倍の高容量化を達成するとともに、高い信頼性特性を実現している。【表1】に示す通り、現行品に対して小形・高容量化と高温度・長寿命化を両立させることで、エンジンルームだけでなく、高密度実装される各車載ECUの小形化、軽量化、員数削減、高性能化に貢献する。
導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーのラインアップ拡充
導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーは、導電性高分子と電解液の2種類の電解質を採用することで、導電性高分子の特長である低ESR性能と優れた高耐熱性能に加え、電解液によるアルミ酸化皮膜修復性能を有している。これにより、アルミ電解コンデンサーに比べて低ESR化、高許容リプル電流化、長寿命化が可能であり、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーに比べて漏れ電流が低いことを特長としている。当社は125℃4000時間保証のGYAシリーズを標準に、105℃1万時間のGYBシリーズ、135℃4000時間保証のGYCシリーズ、150℃1000時間保証のGYDシリーズ、GYAを高容量化したGYEシリーズを市場投入している。幅広いラインアップを実現するために、GYBおよびGYCシリーズに対し、16V品を追加した。また、車載用途などで耐振動性の要求も増加していることから、新たにφ10×12.5Lの耐振動構造品を追加した。幅広いラインアップをそろえることで、アプリケーションに応じた最適な選択が可能となる。
【表2】に各シリーズのラインアップを紹介する。
125℃4000時間 高容量品「GYFシリーズ」
125℃4000時間保証のGYAシリーズから1ランク高容量化を実現したGYEシリーズを2021年に市場投入しているが、さらに高容量化を図ったGYFシリーズ【写真2】を市場投入した。
GYFシリーズは、高容量電極箔および薄手化セパレーターを採用することにより高容量化を実現しており、信頼性はGYAシリーズと同等性能である125℃4000時間と85℃85%RH.2000時間の耐湿性能を保証する。125℃4000時間品3シリーズの定格静電容量・定格リプル電流の比較を【表3】に示す。同一サイズで高容量化を達成しつつ定格許容リプル電流値はGYAシリーズと比較して最大1.44倍が許容可能であることから、コンデンサー員数削減によるユニットの軽量化・小形化、回路設計のさらなる高性能化に貢献する。
新規開発品「PCWシリーズ」「PCAシリーズ」
近年、さらなる小形・高性能な車載対応電子部品の需要が高まり、それに伴い、コンデンサーとして大電流かつ高温度でも安定動作可能な高信頼製品の要求が高まっている。これらのニーズに対して、低電圧、高電圧領域でそれぞれ新シリーズを開発した。概要を【表4】に示す。
2.5~6.3Vの低電圧領域において、封止性の向上(高耐熱性)、各部材の最適化を実施することにより、業界初となる125℃2000時間リプル重畳保証品「PCWシリーズ」【写真3】を開発した。
電解質に導電性高分子を用いたアルミニウム固体電解コンデンサーの特長として、高周波数領域における優れたESR特性に加え、許容リプル電流耐性にも優れている。「PCWシリーズ」は、高温中でもこれら安定な特性を有するために、高耐熱性のある封止材を使用するとともに、製品自己発熱低減のために部材選定を最適化したことで、導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサーでは業界初となる、リプル重畳保証かつ高リプル電流対応を実現した。ケースサイズはφ5×6L、φ6.3×6L、定格電圧は2.5~6.3V、定格静電容量は150~390μFをラインアップしており、低電圧領域での高リプル電流が必要な回路におけるMLCC(積層セラミックコンデンサー)からの置き換え対応に貢献できる。
さらに、25~63Vの電圧領域においても高温度下での高信頼性を確保し、高許容リプル電流に対応した125℃4000時間リプル重畳保証「PCAシリーズ」【写真4】を開発した。
当社が従来、取り組んできた導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサーの高耐熱化・リプル電流耐性向上技術をベースに、導電性高分子形成方法、部材構成および材料設計をさらに最適化することで、業界最高の125℃高許容リプル電流保証を実現した。これにより、現行品「PCRシリーズ」と比較して、同一サイズで最大1.5倍の高リプル化を達成しており、搭載員数削減によるユニットの軽量化、小形化、高性能化に貢献する。ケースサイズはφ8×10L~φ10×12.7L、定格電圧は25~63V、定格静電容量は47~470μFをラインアップしている。現行品との定格静電容量・定格リプル電流比較を【表5】に示す。
これら新規開発品のラインアップにより、高温環境下で高信頼性や高許容リプル電流を必要とする用途に対応することが可能となった。このように導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーは低ESR、高リプル電流、耐久性後の安定性、高温下での長寿命が強みである。
新規開発品「RDSシリーズ」「RKSシリーズ」
マザーボード、グラフィックボード、ゲーム機、充電器向けを中心に導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサーを生産しているニチコン宿遷(江蘇省)のラインアップに、近年、需要が増大している情報通信機器、産業機器、車載機器などの高信頼ニーズに対応した新シリーズをラインアップした。概要を【表6】に示す。
2.5~16Vの電圧領域において、導電性高分子形成プロセスを最適化し、高温度長寿命化した125℃3000時間保証「RDSシリーズ」【写真5】を開発した。導電性高分子形成方法、重合などのプロセスを最適化し、現行の105℃2000時間保証「RSSシリーズ」と同等のESRなどの諸特性を維持しながら、業界最高レベル125℃3000時間保証の高温度長寿命化をRDSシリーズで実現した。
さらに、20~63Vの電圧領域において、封止性の向上、導電性高分子形成プロセスの最適化を実施することにより、高温長寿命化、高耐湿化をした125℃3000時間・85℃85%RH(1000時間定格電圧印加)「RKSシリーズ」【写真6】を開発した。高機能封止ゴムを採用、材料設計および導電性高分子形成方法を最適化することで、現行の「RPSシリーズ」「RSSシリーズ」と同等のESRなどの諸特性を維持しながら、業界最高レベル125℃3000時間保証、85℃85%RH(1000時間定格電圧印加)保証をRKSシリーズで実現した。高耐湿性能保証を追加したことで車載向けにも提案が可能になる。
今後の展望
車載電装システム関連のデバイス・コンポーネンツの世界市場は、2035年には59兆円規模(富士キメラ総研)に達するとの予測もなされているように、今後も拡大傾向にある。「ADAS/自動運転システム」や「ドライバーモニタリングシステム」は今後も伸長する予測であり、「ドライブレコーダー」も注目市場に挙げられている。
電動化・高機能化に伴い、コンデンサーへの小形・高容量化、高温度・長寿命化、低ESR・高許容リプル電流化などの性能追求の要求は高まっていくと予想されるため、当社は今後もお客さまの要求に対して迅速かつ最適なコンデンサーを提供できるよう、開発を進めていく。〈ニチコン(株)〉