2023.07.14 【電子部品技術総合特集】ハイテクフォーカス 京セラ

図 2

図 4図 4

図3 従来の一般的なLEDの欠陥の状態(左)と本技術を用いて作製されたLED図3 従来の一般的なLEDの欠陥の状態(左)と本技術を用いて作製されたLED

微小光源のためのプラットフォーム技術 (micro-LED、短共振器レーザー)  

1 人が身に着けるウエアラブル端末需要への対応

 近年、AR/VR用のゴーグルや眼鏡、また、スマートウオッチなどのウエアラブル端末の需要が高まっている。

 人が身に着けるウエアラブル端末のひとつの課題が、バッテリーが大きくなることによる装着感の悪化である。バッテリーを含めた光源モジュールは、極端に小さいことが要求されている。この問題を解決する方法の一つが、デバイスを小型化して、低消費電力で駆動する発光素子を実現することである。そのため、これまでの発光素子(LED)は200~300マイクロメートル程度の大きさに対して、これらのウエアラブル端末に用いられる微小光源は100マイクロメートル以下であることが要求される。いわゆるmicro-LEDと呼ばれる微小光源で、作製プロセスも従来のLEDと異なる。

 そこで、京セラ研究開発本部 先進マテリアル研究所では、これら微小光源を作製するための独自のプラットフォーム技術を開発し、提案している。

2 プラットフォーム技術の特長

 本プラットフォーム技術は、独自基板(2-1)とその基板を用いたデバイス(LED、Laser)の独自プロセス、および剝離プロセス(2-2)からなる。本基板を用いることで、さまざまな微小デバイスの作製が可能となる。低コストな異種基板(サファイア基板、シリコン基板)を用いると多量の欠陥を誘発することが知られているが、本基板を用いることで、低欠陥なLED素子を作製可能にする。

 2-1 独自EGOS基板(ELO-GaN on Silicon‥図2)

 われわれは、独自に開発したEGOS基板とEGOS基板上に形成されたmicro-LEDを剝離する独自プロセス技術(図3)を開発した。このEGOS基板は、次のような特長を持っている。

 ①横方向成長(ELO=Epitaxial Lateral Overgrowth)技術により、従来に比べ2桁程度少ない欠陥密度を有するELO層(図2の模式図のWing部)を実現することで、高品質なLEDの作製を可能にする。

 ②基板に3次元的なT型構造を形成することで、基板上に発光層を成膜する際にかかる応力を効果的に緩和することができる。

 これにより、高品質なmicro-LEDを、低コスト異種基板をベースにしたEGOS基板上に形成することができる。

 図3にサファイア基板を用いて、従来の方法で作製したLEDと本EGOS基板を用いて作製したLEDの透過電子顕微鏡像(TEM)を示した。赤点線でハイライトした領域にはLEDの発光層があり、この発光層を貫通する欠陥が存在すると発光効率の低下や信頼性の低下を引き起こすと言われている。従来の方法で作製したLED素子のTEM像から108センチメートル-2台の貫通転位(白矢印でハイライト)が存在しているのが分かる。一方、本EGOS基板を用いて作製されたLEDのTEM像では貫通転位はみられない。本基板を用いることで低欠陥なLEDを作製できることが示された。

 2-2 独自剝離プロセス(図4)

 本EGOS基板は、図2の模式図に示したように、T型構造を有している。これはELO層の応力緩和と同時にELO層のWing部上に形成されたLED素子を剝離する際に利用される。図4(左側の模式図)にその剝離方法を示した。ELO層はT型構造のセンター部分でのみ基板とELO層はつながっている。このつながっているセンター部分を気相エッチングプロセスにより除去することでELO層を基板から分離することができる。それを粘着テープで取ることで、非常に容易にLED素子をEGOS基板から剝離することができる。図4の右側の写真に、剥離後の基板表面と粘着テープに張り付けられたmicro-LED素子を示した。非常に容易に、またきれいにEGOS基板から剝離されていることが分かる。

 このように本基板を用いることで、低欠陥で高品質なmicro-LEDを非常に簡便な方法で基板から剝離できる。

3 微小光源の展開性

 図1の一番右の図に示すように、これまでにないほど小さいmicro-LED(1~100マイクロメートルサイズ)はディスプレー分野に限らず、さまざまな分野への活用が期待されている。例えば、3Dプリンティング用の光源、ガスセンサーやメディカルセンサー、可視光通信、micro-LEDヘッドライト、LEDプロジェクションなどが現在報告されている。〈筆者=京セラ〉