2023.08.08 東レ、世界最高レベルの薄膜・軽量ミリ波吸収フィルムを開発 5G関連機器のノイズ低減と軽量化に貢献

東レが開発したミリ波吸収フィルム開発品㊧

 東レは、ナノ積層技術の応用により、世界最高レベルの薄膜・軽量を実現した「ミリ波吸収フィルム」を開発した。20デシベル(90%)以上の高いミリ波吸収性能を有しつつ、従来品比で厚さ5分の1、重さ10分の1を達成。ミリ波モジュール搭載5G関連機器の電磁波障害を解消し、機器の軽量化や設計自由度向上に貢献する。

 近年、ミリ波(周波数帯域30ギガヘルツ~300ギガヘルツ)を利用したローカル5Gを用いたスマート工場や、ミリ波レーダー通信を用いた自動運転など、スマート社会を目指した技術開発が活発に行われている。

 ミリ波は、4G通信の100倍の高速大容量、20分の1の超低遅延、多点同時接続等のメリットがあるが、強い直進性を持つため、それに由来した反射や干渉によって生じる電磁波障害の対策が必要となる。電磁波ノイズが引き起こす機器の誤動作を防ぐ必要があるからだ。

 その解消手段として、ミリ波を吸収する電磁波吸収シートが用いられるが、従来品は電磁波を吸収する金属粒子をシート中に多量に添加するため、高重量だった。また、高吸収とするため、数ミリメートルの厚さにする必要もあった。この重く厚いミリ波吸収シートを5G関連機器に適用すると、機器設計の自由度や取り扱い性が低下する。

 同社が開発したのは、こうした課題を解決する薄膜・軽量のミリ波吸収フィルム。独自のナノ積層技術を応用し、低誘電体層と高誘電体層を交互に積層した多層構造とした。この多層構造により高効率なミリ波吸収を実現し、20デシベル以上の高吸収性能を有しながら、大幅な薄膜化と飛躍的な軽量化を達成した。「開発品は、従来技術での77ギガヘルツ電磁波吸収シートと比較し、シート厚み5分の1、シート比重は2分の1を達成し、従来品の肉厚・重量感の課題を解決できる」(同社の長田俊一フィルム研究所長BSF技術部主幹)。また、厚みを変更することで、周波数20ギガヘルツから100ギガヘルツ範囲の任意の周波数の吸収に対応可能。

 開発したミリ波吸収フィルムは薄く軽いため、ミリ波モジュールの設計自由度を阻害せずに電磁波障害を解消できる。スマート工場などにも容易に設置でき、機器間の誤作動防止に貢献。このほか、軽量を活かした次世代型ドローンへの適用や、ミリ波レーダー搭載自動車への適用を想定する。

 すでにサンプル提供を開始済みで、量産開始時期は25年から26年を予定。2030年度には年間30億円規模の売上を目指す。

 ミリ波対応の電磁波吸収シートのグローバル市場は、2030年には年間200億円規模への拡大が予想されている(記事詳細は、電波新聞/電波新聞デジタル8月9日付で掲載)。