2023.10.05 【自動車用電子部品技術特集】自動車用アルミ電解コンデンサーの最新技術動向 ニチコン

【写真1】導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサー「GYFシリーズ」

はじめに

 近年、自動車・車載関連分野においては、「CASE」をキーワードとして、カーエレクトロニクス技術が大きく進化・発展してきている。具体的にはカーボンニュートラルを目指してパワートレインのxEV化や、EPS(電動パワーステアリング)、EOP(電動オイルポンプ)、EWP(電動ウオーターポンプ)といった各種電動化ユニットの搭載による省燃費化技術の普及、また、ADAS/自動運転化技術のさらなる高度化やコネクテッドといった自動車の高機能化に向けた動きも加速している。このようにxEV化、電動化、高機能化の進展によって、自動車1台当たりの電子部品搭載点数は増加傾向にあるため、今後、自動車生産台数以上の伸び率で電子部品需要の拡大が見込まれている。

 車載用途のアルミ電解コンデンサーには、小型・大容量化、高温度・長寿命化、低ESR化、高リプル電流化といった性能向上に対する強いニーズがある。

 上記のような高度な信頼性が求められるアプリケーションに対するアルミ電解コンデンサー、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーおよび導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーの最新技術動向について以下に紹介する。

導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサー

125℃4000時間 高容量品「GYFシリーズ」

 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーは、導電性高分子と電解液の2種類の電解質を採用することで、導電性高分子の特長である低ESR性能と優れた高耐熱性能に加え、電解液によるアルミ酸化皮膜修復性能を有している。

 これにより、アルミ電解コンデンサーに比べて低ESR化、高許容リプル電流化、長寿命化が可能であり、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーに比べて漏れ電流が低いことを特長としている。当社は125℃4000時間保証のGYAシリーズや135℃保証のGYCシリーズをベースシリーズとしてラインアップしている。現在、GYAシリーズと比較して1ランク高容量化を図ったGYEシリーズ、2ランク高容量化を図ったGYFシリーズ【写真1】を市場投入している。いずれも高容量化と同時に高リプル電流対応化も図っている。

 GYFシリーズでは、高容量電極箔(はく)および薄手化セパレーターを採用することにより高容量化を実現しつつ、信頼性はベースシリーズのGYA同等の125℃4000時間と85℃85%RH 2000時間を保証する。各シリーズの定格静電容量・定格リプル電流比較を【表1】に示す。同一サイズで高容量化を達成しつつ定格許容リプル電流値はGYAシリーズと比較して最大1.44倍が許容可能であることから、コンデンサー員数削減によるユニットの軽量化・小型化、回路設計のさらなる高性能化に貢献する。

【表1】現行品との定格静電容量・定格リプル電流比較

導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサーのラインアップ拡充

 近年、さらなる小型・高性能な車載対応電子部品の需要が高まり、それに伴い、コンデンサーとして大電流かつ高温度でも安定動作可能な高信頼製品の要求が高まっている。

 当社では、2.5~25Vの電圧領域において、105℃2000時間保証のPCFシリーズを標準とし、105℃2000時間保証で容量拡大したPCGシリーズ、105℃2万時間保証のPCLシリーズを市場投入している。この度、業界初となる125℃2000時間リプル重畳保証品「PCWシリーズ」【写真2】を開発、市場投入した。また、車載関連機器や5G基地局などで要求が増えている、高耐湿性能(85℃85%RH 1000時間定格電圧印加)も保証しており、さまざまな高信頼性用途に提案を進めている。

【写真2】チップ形導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサー「PCWシリーズ」

 電解質に導電性高分子を用いたアルミニウム固体電解コンデンサーの特長として、高周波数領域における優れたESR特性に加え、許容リプル電流耐性にも優れている。PCWシリーズは、高温中でもこれら安定な特性を有するために、高耐熱性のある封止材を使用するとともに、製品自己発熱低減のために部材選定を最適化したことで、導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサーでは業界初となる、リプル重畳保証かつ高リプル電流対応を実現した。ケースサイズはφ5×6L、φ6.3×6L、定格電圧は2.5~6.3V、定格静電容量は150~390μFをラインアップしており、低電圧領域での高リプル電流が必要な回路設計においてMLCC(積層セラミックコンデンサー)からの置き換え提案を進めている。

 また、16~80Vの電圧領域においては、125℃4000時間保証のPCRシリーズを標準に、125℃8000時間保証のPCMシリーズ、135℃4000時間保証のPCHシリーズ、150℃2000時間保証のPCZシリーズを市場投入しており、製品サイズに応じて耐振動構造品もラインアップしている。【表2】に各シリーズの性能比較を紹介する。

【表2】導電性高分子アルミ二ウム固体電解コンデンサーの製品概要

 これら新規開発品のラインアップにより、高温環境下で高信頼性や高許容リプル電流を必要とする用途に対して提案が可能となった。

「RDSシリーズ」「RKSシリーズ」

 マザーボード、グラフィックボード、ゲーム機、充電器向けを中心に導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサーを生産しているニチコン宿遷(江蘇省)の製品ラインアップに、近年需要が増大している情報通信機器、産業機器、車載機器などの高信頼ニーズに対応したシリーズを投入している。

 まず、2.5~16Vの電圧領域において、導電性高分子形成プロセスを最適化し、高温度長寿命化した125℃3000時間保証「RDSシリーズ」【写真3】は、導電性高分子形成方法、重合などのプロセスを最適化し、現行の105℃2000時間保証RSSシリーズと同等のESR等の諸特性を維持しながら、業界最高レベル125℃3000時間保証の高温度長寿命化を実現している。

【写真3】チップ形導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサー「RDSシリーズ」

 さらに、20~63Vの電圧領域において、封止性の向上、導電性高分子形成プロセスの最適化を実施することにより、高温長寿命化、 高耐湿化をした125℃3000時間・85℃85%RH(1000時間定格電圧印加)「RKSシリーズ」も市場投入している。高機能封止ゴムを採用、材料設計および導電性高分子形成方法を最適化することで、現行のRPSシリーズ、RSSシリーズと同等のESRなどの諸特性を維持しながら、業界最高レベル125℃3000時間保証、85℃85%RH(1000時間定格電圧印加)保証をRKSシリーズで実現した。高耐湿性能保証を追加したことで車載向けにも提案が可能になる。RDS、RKSシリーズの概要を【表3】に示す。

【表3】チップ形導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサーRDS、RKSシリーズの概要

アルミ電解コンデンサー

150℃高温度長寿命低温ESR規定品「UBHシリーズ」

 電子回路を高温環境のエンジンルーム内に設置するために、搭載部品の高温度化ニーズが高まっている。当社では定格温度105℃・125℃をメインとしてさまざまなシリーズをラインアップしてきたが、エンジンおよびエンジン駆動周辺ECUへ対応するに当たり、より過酷な高温度環境への対応が求められる。そこで、当社は超高温度対応に向けた開発を進め、150℃1500~2000時間対応の「UBHシリーズ」【写真4】をラインアップした。

【写真4】チップ形アルミ電解コンデンサー「UBHシリーズ」

 本製品は、これまで当社が培ってきた高容量化、低抵抗化、高信頼性化技術を駆使し、150℃環境下に対応する低比抵抗・低蒸散性電解液の採用や封止設計の最適化、電極箔の高倍率化および収容面積拡大により、現行の150℃1000時間品UBCシリーズから約2倍の高容量化を達成するとともに、高い信頼性特性を実現している。この150℃1500~2000時間対応品は、当社独自のラインアップであり、ケースサイズはφ8×10L、φ10×10Lの2サイズ、定格電圧および定格静電容量は25V・35V、100~270μFである。現行品に対して1.2~2.1倍の静電容量を収容できることから、エンジンルーム内へ搭載される機器の小型化、軽量化、員数削減、高性能化に貢献できる。

今後の展望

 車載電装システム関連のデバイス・コンポーネンツの世界市場は、2035年には59兆円規模(出典:富士キメラ総研)に達するとの予測もなされているように、今後も拡大傾向にある。注目市場としては「ADAS」や「自動運転システム」「ドライバーモニタリングシステム」などの安全関連技術や自動運転機能の分野が挙げられており、より小型・高性能な車載対応電子部品の需要が高まることが予想される。それに伴い、コンデンサーのさらなる高性能化が必要となり、小型・高容量化はもちろん、長寿命化、高温度化、大電流対応化などの実現が急務となる。当社は今後もお客さまの要求に対して最適なコンデンサーをご提案できるよう開発を進めていく。〈ニチコン(株)〉