2023.12.08 【育成のとびら】〈16〉部下へのフィードバック 6割が「ためらった経験」あり 背景にはスキルへの不安

 「主体性を持って業務に取り組んでほしいのに、若手社員は会議でほとんど発言しない」「部下の報告書の要点が分かりにくい」「納期が常に遅れがちなメンバーがいる」-。

 こんな部下や同僚の課題に気付きつつも、相手に指摘しないまま過ごしてしまった経験に心当たりはないだろうか。

 今年6~8月に484人の管理職を対象に実施した、当社ラーニングエージェンシーとラーニングイノベーション総合研究所の「管理職意識調査」で、部下へのフィードバックをためらった経験があると答えた管理職の割合が57.0%と半数を超えていたことが明らかになった(図1)。

 ためらった理由は「部下の反応に対して不安があるから」が39.9%で最も高く、「適切な伝え方が分からなかった」(37.0%)と続いた。「自分が本当に正しいかに自信がなかった」(29.0%)、「自分の伝えるスキルに不安があるから」(27.5%)といった回答も多く、管理職自身の判断・伝えるスキルに対する不安が目立つ(図2)。

幅広いスキル必要

 フィードバックは部下の問題点や課題を指摘し、改善に向かって行動変容を促すという、極めて難易度の高いコミュニケーションだ。場合によっては反発を招き、それまで良好だった相手との関係が悪化するリスクもあり、慎重になってしまうのも無理はない。

 しかし、関係悪化を恐れるあまりフィードバックを避け続けてしまうと、現在の部下の問題解決だけでなく、管理職のフィードバックスキルの向上も遠のく。そのままにすれば、より重大な問題点が浮かび上がってきた場合に、一層対応が難しくなってしまうだろう。

 フィードバックはなぜ難しいのか。それは、フィードバックがさまざまなビジネススキルの総合的な結晶といえるものだからだ。

 問題点を指摘し、行動改善を支援するためには、相手に分かりやすく伝える力だけでなく、適切な情報を収集するための傾聴力や、内容を誤解なく理解するための読解力、部下に気づきを促す質問力や原因・要因を分析する論理的思考力など、多岐にわたるスキルが必要になる。

 当社では、こうした業種・職位に関係なく必要なベーシックスキル(基本となる能力)を「バイタルスキル」と呼んでいるが、フィードバックにおいてはさまざまなバイタルスキルを身に付け、複合的に実践する必要がある。

 しかし、フィードバックに対する認識が抽象的だったり、概念的だったりすると、表面的なフィードバックのテクニックの習得にとどまってしまうことが多い。

 効果的なフィードバックを実践するには、さまざまなバイタルスキルを体得し、積み重ねていくことが必要になる。決して平たんな道のりでないが、管理職がまず取り組むべきことは「自身のバイタルスキルを正しく自己認識すること」だ。

 多数の必要なスキルのうち、どのスキルがどれほど不足しているかは人によって異なる。何をどう改善すれば効果的なフィードバックにつながるのか優先順位をつけていく。

 必要なスキルが多岐にわたるからこそ、こうした冷静な分析や振り返りが、着実なフィードバックの改善につながっていくといえるだろう。(つづく)

 〈執筆構成=ラーニングエージェンシー〉

 【次回は12月第4週に掲載予定】