2024.01.04 【家電流通総合特集】家電流通の存在価値 地域電器店 ナルデン 成瀨裕之社長

成瀨 社長

地域に根差した活動を深化
コミュニティーをつくる

 当店は2017年に、現在の3階建ての建物へ移転してきた。1階を店舗売り場に、2、3階を地域コミュニティーにするのが目的だ。移転後間もなくしてコロナ禍に突入し、2、3階を活用したイベントが困難になったが、23年はようやく本格的に取り組むことができ、地域に根差した活動を深化させることができた。

 2階では、高齢者向けの健康体操教室を開催。約40人が集まる人気の教室だ。昨年新たに、スマートフォン相談室を設置した。「社会のデジタル化から誰ひとり取り残さない」「デジタル難民を出さない地域づくり」がコンセプトだ。

 高齢者のスマホ操作や悩み事をサポートするだけでなく、端末やゲーム機本体の即日修理にも対応しているので、若年世代の来店も促進している。店に足を踏み入れる機会を作れば、その後も店の中に入りやすくなる。これらの取り組みから生まれた交流が、これまでの家電販売にもつながっている。

イベントを展開

 3階は建物の構造上、エレベーターの設置が困難なため、小・中学生向けのフロアに。4月から、午後8時まで解放する民間学童保育を開く予定だ。公共の学童保育は夕方までの開放で、共働きの世帯には少々不便だ。私自身も子育てする身であり、PTA活動を通じて保護者の悩みを痛感している。単に子どもたちを預かるだけでなく、地域や高齢者とつながるイベントなども行いたい。

 昨年7月には3年ぶりに、地域の花火大会に合わせて当店の屋上を地域住民に開放した。花火がよく見えるとあって約150人が集まり、出店なども楽しんでもらった。

 これらの取り組みについて話すと、「それはナルデンさんだからできるんだよ」「ビルがあるからできるんでしょう」と言われることがある。しかし、どのような店でも、方法次第で取り組めるのではないだろうか。例えば、ある店は顧客に不用品を提供してもらい、店内でバザーを開いて地域と交流しているそうだ。地域密着は地域電器店の最大の武器。アピールしない手はないだろう。

 私の幼少期にあった旧店舗では、店内のカウンターにいつも地域の人が座っていて、昼間はおしゃべりの場となり、夜はカラオケで盛り上がりと、地域のコミュニティーとなっていた。現代の地域電器店のイメージは、どちらかというと「入りにくい店」。さまざまなイベントを通じて、地域住民が集まりやすい場にしたい。

 私は家電販売そのものというより、お客さまの暮らしをより良くしてくれる商品を提供すること、それによってより良い地域をつくることが自分の仕事だと考えている。それは当店に地域のコミュニティーをつくることにつながっており、当店が地域に無くてはならない存在となれればと願っている。

高齢化を強みに

 地域電器店業界全体で、店主の高齢化や廃業が大きな課題となっている。課題解消には、高齢化という弱みを強みに変える必要がある。当店は創業52周年を迎え、創業当時と比べて店側も顧客側も高齢化が進んでいる。当店は00年に介護事業を開始した。家電の購買意欲が高い顧客数が減っても、同事業のターゲットとなる顧客はたくさんいるのだ。

 同事業では、福祉用具専門相談員の資格を持つ社員が福祉用具・介護用品の選定から納品、設置、アフターフォローまで対応している。同事業は、18年度に経済産業省の製品安全対策優良企業表彰を受賞した。

 また、高齢の店主の方が高齢の顧客の悩みに寄り添えるという一面もある。例えば、顧客から「ベッドから起き上がるのがつらい」と相談された時、若い従業員だとその悩みに本当に共感することは困難だ。しかし、高齢の店主なら電動ベッドの便利さを、自らの感動をもって伝えることができる。高齢の顧客と同じ視点で話せるのは強みになり得る。

 介護的視点を取り入れることは、われわれの業界の新たな引き出しとなる。若年世代からするとドラム式洗濯機は高級品というイメージがあるが、高齢者にとっては介助用品として機能する。特に高齢の店にとっては取り入れやすい視点だ。

 当店では近く、「介護予防(フレイル予防)」の観点からアプローチする取り組みをスタートする計画だ。介護予防は、元気な高齢者が要介護状態になるのを予防したり、介護を受ける高齢者の状態を軽減・悪化防止したりするのが目的だ。

 全国の後期高齢者のうち要介護認定者の割合は約2割といわれる。逆にいえば、残りの8割は元気な状態、予備軍ということだ。

 2割の要介護認定者が対象の、介護保険を使う介護用品関連事業者は数多く、競争が激しい市場で新規参入のハードルは高い。しかし、8割の元気な高齢者を対象とする市場は「ブルーオーシャン」だ。

 介護保険を使わないため、書類申請やケアマネジャーとのやりとりなど煩雑な手続きは不要だ。賛同して介護的視点を取り入れる店が増えるとうれしい。親身な立場から介助用品を提案できるのは、地域電器店にとって最大の武器となる。