2024.01.10 【電子部品総合特集】ローム初のシリコンキャパシタ 小型化と高性能化を両立

 近年スマートフォンなどの高機能化を背景に、小型で低背かつ高密度な実装が可能なコンデンサのニーズが増加している。

 とりわけ、薄膜半導体技術を用いたシリコンキャパシタは、積層セラミックコンデンサ(MLCC)と比べて薄型で高い静電容量を持つ。温度特性に優れ、高温環境下でも静電容量が変化しにくいなどの優位性もあり、今後も旺盛な需要が見込まれる。こうした背景からロームは、これまで培ったシリコン半導体の加工技術を生かし、小型かつ高性能なシリコンキャパシタ「BTD1RVFL」を開発した(写真1)。

写真1 シリコンキャパシタ「BTD1RVFL」の製品写真(0.5ミリメートルのシャープペン芯との比較)

 ●シリコンキャパシタとは

 蓄電デバイスであるキャパシタは、電極と電極の間に挟んだ「誘電体」と呼ばれる蓄電可能な絶縁体に電荷を蓄積する。この誘電体にシリコンの酸化物や窒化物を使用するのがシリコンキャパシタである。

 キャパシタの静電容量は電極・誘電体の表面積に比例する。加工が容易で厚みを形成しやすいシリコンの誘電体は、トレンチ(深溝)構造をデバイス内部につくり込むことで基板単位面積当たりの誘電体の表面積を増やせるため、小型化と大容量化を両立しやすい。このほか、優れた高周波特性や温度特性に優れるなどの特長も、MLCCに対する優位性として挙げられる。

●ローム初のシリコンキャパシタ「BTD1RVFL」の特長

 今回紹介するロームの新製品「BTD1RVFL」は、面実装タイプの量産品として業界最小(2024年1月10日ローム調べ)の0402サイズ(0.4×0.2ミリメートル)を実現した。一般品の0603サイズ(0.6×0.3ミリメートル)と比べて実装面積を約55%削減できる(図1)。

 外観形成には1マイクロメートル単位での加工を可能にする独自の微細化技術「RASMID(ラスミッド)※工法」を用いる。パッケージ外周部の欠けをなくすことで、寸法公差を一般品比50%減の±10マイクロメートル以内に高精度化。製品サイズのばらつきを抑えたことで、部品同士の隣接距離を狭めて基板に実装できる。

図1

 パッケージの寸法精度向上により、基板との接合面である裏面電極の縁をデバイス外周部に近づけて設計することにも成功した。これにより裏面電極の合計面積は、デバイス底面積のおよそ40%を占める約0.032平方ミリメートルとなり、実装強度は0603サイズの一般品を約8%上回る約2.6Nを確保している。

 加えて本製品は、TVSダイオードの内蔵により高いESD耐性を備える。サージ対策など回路設計の工数削減に貢献するほか、外付けのTVSダイオードも不要になる。

 デバイスの小型化と寸法の高精度化による高密度実装、TVSダイオード内蔵の相乗効果により、通信回路など基板面積の削減に貢献できる。

 本製品は、1000pFの静電容量を持つ「BTD1RVFL102」と、470pFの静電容量を備える「BTD1RVFL471」の2機種を、2023年8月から月産50万個の体制で量産を開始した。さらに今後は、静電容量の異なる5機種を開発し、ラインアップを7機種まで拡大する予定である。

●今度の開発展望について

 本製品は小型かつ低背なパッケージを持つことから、筐体(きょうたい)や内部で使用されるデバイスの小型化・薄型化が進むスマートフォンやウエアラブル端末での使用に適している。また、小型IoT機器や光トランシーバなどのデカップリングコンデンサとしてアプリケーションの小型化にも貢献できる。

 またロームでは、今後の通信規格の高度化・高機能化に伴い、スマートフォンやウエアラブル端末の高周波用途での小型低背ニーズがますます増加すると見込んでおり、今年9月のサンプル出荷を目標に高周波対応モデルの開発を進めている。

 スマートカードやRFIDタグなどの超薄型デバイスや光トランシーバなどの超高速・大容量伝送機器にも対応できる仕様を目指しており、デカップリングコンデンサとしてだけでなく、高周波回路部での使用など用途が拡大されると期待を寄せている。

 さらに、自動車の電装化や海・空への無線通信エリアの拡大、データセンターの増加などの市場動向を背景に、車載機器や産業機器向けのニーズも高まりを見せることから、シリコンキャパシタの特徴である高信頼性を生かした製品の開発を計画している。車載機器・産業機器向けは高信頼性だけでなく、耐圧や静電容量、さらにはサイズや構造などの要求が民生機器向けとは大きく異なるため、それらのニーズに応えるべく適切な製品ラインアップをそろえていく。(図2)

図2

●おわりに

 サステナブルな社会の形成と人々の豊かな暮らしの両立には、通信の高度化を背景とした従来機器の高性能化と、新しいサービスやアプリケーションの登場が求められている。そして、これを下支えする高性能デバイスの一つが、小型・低背で高い静電容量を持ち、かつ温度特性に優れたシリコンキャパシタであると期待している。ロームでは、高性能なデバイスの開発によるアプリケーションの進化に加えて、シリコンキャパシタ市場の発展にも貢献できるよう、今後もさらなる開発に努めていく。

 ※RASMIDは、ロームの商標または登録商標です。

〈筆者=ローム〉