2024.01.16 【半導体/エレクトロニクス商社特集】半導体関連産業、大規模投資が本格始動

TSMCを中心としたJASM

23年度補正予算、2兆円に上るサプライチェーン強靱化に力
先端ロジック・メモリー、AIを柱

 半導体関連産業の大規模な投資計画が具体化、進展している。昨年11月に成立した2023年度補正予算で半導体関係は、生産能力の増強に対する補助金など合わせて約2兆円に上る。巨額の公的支援を追い風に、24年も関連各社の設備投資に向けた動きが加速しそうだ。

 23年度補正予算の半導体関連の項目は部素材・装置から将来の量産化を目指す先端ロジック、後工程の研究開発まで多岐にわたる。

 先端半導体の製造基盤確保に向けた動きは、5G促進法やNEDO法の改正で始動した。22年6月にJASM(TSMC、ソニーセミコンダクタソリューションズ、デンソー)の熊本工場(熊本県菊陽町)に4760億円を助成することが決定。その後、3次元フラッシュメモリーを生産するキオクシアに約929億円、マイクロンメモリジャパンの次世代DRAMの生産拠点には約2135億円を拠出すると決まった。

EUV露光装置を導入して生産するマイクロンの次世代メモリー

 最先端半導体の量産化を目指すラピダスへの期待の大きさも目につく。ポスト5G基金などから総額3300億円の支援が既に決まり、23年度補正予算でも追加支援が盛り込まれた。昨年9月に開発・生産拠点の建設が開始。25年に試作ライン稼働、27年からの量産を予定する。

 近年の地政学的リスクの高まりから、政府は経済安全保障推進法に基づく半導体サプライチェーンの強靭(きょうじん)化に取り組む。「特定重要物資」として指定された半導体やその製造装置、部素材、原料の製造能力の強化を図っている。

 昨年4月以来、18件の供給確保計画を認定。このうち、ルネサスエレクトロニクスが行う自動車・産業IoT用マイコンの生産能力強化に、最大約159億円を助成する。同社は21年3月に発生した火災で、那珂工場(茨城県ひたちなか市)の生産を一時停止。完全復旧までには数カ月を要した。

 計画では主としてパワー半導体の生産を担う甲府工場(山梨県甲斐市)にマイコンも生産できる設備を導入し、那珂工場で災害が生じた時は1カ月以内にマイコンの生産を開始できるよう生産基盤を整備する。

 日本が強みを持つパワー半導体は、重点支援分野の一つだ。昨年末には、ロームと東芝デバイス&ストレージがパワー半導体の共同生産を発表。両社を中心とした4社による投資計画が半導体供給確保計画の認定を受けたもので、総事業費約3883億円のうち、約3分の1となる1294億円の助成を受ける。

 ロームは、宮崎県国富町にSiC(炭化ケイ素)パワー半導体工場(ラピスセミコンダクタ宮崎第二工場)を新設し、SiCウエハーも生産する。東芝側は、石川県能美市の工場にシリコンパワー半導体の新棟を建設中だ。

 レゾナックや住友電気工業のSiCウエハー生産拠点にも、助成金交付が予定されている。

政府の半導体戦略

 政府は、半導体などデジタル分野の戦略の改定を進めている。経済産業省が昨年発表した方向性をもとに、挙げられている課題を分析する。

 柱の一つは「先端ロジック・メモリー」の分野。先端ロジックの需給ギャップが今後も拡大する。このままでは、いわば「買い負け」する恐れを指摘した形だ。また、メモリーについても、シリコンサイクルの底を打って中期的に市場が拡大すると予想、将来を見据えた投資が必要とみる。

 さらに「先端後工程設計・製造技術開発」も柱。ラピダスに加えて、20年代後半に求められる次世代の後工程設計・製造基盤構築が必要とする。3D実装技術やチップレット実装技術など、チップレベルからパッケージレベルに至るまでSoC全体の最適化などの開発を図る。

 加えて、こうした高度な技術適用に伴い製造工程が複雑化するため、製造スループットと製造歩留まり向上のために、前工程同様に自動化技術の高度化が求められる。

 さらなる柱は「AI半導体設計」。AI活用には多量の計算が必要となり、電力消費量の低減が課題となるおそれを提起する。用途ごとに特化した半導体を使用することで、情報処理における電力効率を上げる取り組みも進んでいることから、AIなどのソフトウエアとハードの協調設計による専用半導体の活用が必須とする。

 自動車や通信といった用途に特化して、システム・ソフト要件から定義した専用半導体を開発することで、電力消費量の大幅な削減を目指す。米テスラが自動運転用の半導体を自社設計しているほか、いわゆるGAFAMなどのクラウドベンダーも、専用の半導体を使用するだけでなく、自社で設計する事例も増えてきていることを踏まえた方向性だ。

部素材も支援

 さらに、サプライチェーンの上流にある部品・素材などを含む支援を進める方向。レガシー半導体、パッケージ基板などの部素材は、(サプライチェーンの上流の部素材も含む)は、日本が一定の競争力を有するものが多く、諸外国から期待を寄せられているが、一部は海外に依存し、供給途絶リスクなども懸念される。

 装置や部素材の性能を左右する原料も重要なものがあり、もしこれらの供給が途絶すれば、装置や部素材、ひいては半導体自体の製造が困難となる懸念があるため、その生産基盤を強化することは重要な課題とする。

 政府は半導体の国内生産能力を維持・強化。30年に国内で半導体を生産する企業の合計売上高として、15兆円超を実現し、半導体の安定的な供給を確保することを目指す。