2024.01.17 【新春インタビュー】TDK 齋藤昇社長

自力を高め外部環境変化に対処

 ―2023年はどんな年でしたか。

 齋藤 一言で言うと「激動の年」でした。世界を見渡しても、当社を取り巻く事業環境も、複雑なことが入り交じり、その中で過ごした一年でした。

 われわれの事業は、ある程度外部環境の影響を受けますが、23年は全体の景気動向、地政学の動向を含め、マクロな事業環境が悪化し、分野別でも、スマートフォン、xEVを除いた自動車、産業機器など、当社にとっての主要市場が、それぞれポジティブな流れにはなりませんでした。22年末の段階で「23年のマクロ環境はあまり期待できない」という感触を持っていましたが、その通りの結果になってしまったという印象です。

 ―23年度の電子部品需要はどのように推移していますか。

 齋藤 上期(23年4~9月)は、想定以上の厳しい調整局面となりました。特に車載用部品は、市場の在庫調整が想定より長引き、上期末まで続きました。また、生成AI(人工知能)への投資シフトが急激に進んだことで、その反動でデータセンターへの投資が抑制された結果、HDDヘッドの需要が大きく落ち込みました。スマホ向けの低迷は想定通りでしたが、車載での在庫調整とHDD市場低迷の影響が大きく、今年度は1Q(4~6月)決算発表の段階で通期の業績予想を下方修正しました。

 ただし、下方修正したといっても、当社の主要事業の市場でのポジショニングが下がったということではありません。

 ―外部環境の変化に対処するため、どのような戦略をとられているのですか。

 齋藤 こうした時期だからこそ、「自力をつける」ことが重要だと考えています。先を読みながら、先手先手で手を打っていきます。市場が回復するタイミングに向けた準備をしっかりと行いつつ、当社の自力を高めることに今期は取り組んでいます。

 市場環境は悪くても、自分たちでできることはたくさんあります。重視するのは「クオリティ」。単に製品の品質向上を図るだけでなく、生産性の質、働き方の質、コミュニケーションの質、社員やチームの健康の質など広い意味での「クオリティ」を考慮し、「クオリティファースト」に注力しています。この取り組みは、24年以降も継続強化していきます。

 24年も当面は不透明な市場環境が続くと予想されますが、市場回復時期への準備を図りつつ、当社自身のクオリティーを高めていくことで、いずれ市場が復調した時に、機会をしっかり捉えたいと思います。

 ―電子部品市場の回復時期は、いつ頃を見込んでいますか。

車載用部品は回復傾向

 齋藤 車載用部品に関しては、23年度上期末までに、市場の在庫水準がほぼ適正化したとみています。23年度上期をボトムに、今後は徐々に回復に向かうと予想しています。それをけん引するは、やはりxEVです。

 データセンター向けのHDDヘッドも、当社のビジネスとしては23年度上期を底に徐々に上向くと思いますが、市場全体としての本格的な回復は24年度下期になると考えています。

 世界全体のデータ通信量は増え続けているため、いずれはデータセンター投資も回復します。当社は、HDDヘッドの唯一の独立系外販メーカーであるため、今後も次世代技術に磨きをかけるための開発投資を継続します。「MAMR(マイクロ波アシスト磁気記録)」方式を22年度に立ち上げたほか、「HAMR(熱アシスト磁気記録)」方式の開発も進めており、今後もデータセンター市場の進化に貢献していきます。

 23年度上期には、磁気応用製品事業の収益性改善のための構造改革も実行したため、同事業は23年度が底であると明言できると思います。

センサ事業でEX、DXに貢献

 ―センサ事業の動向はいかがですか。

営業利益率2桁目指す

 齋藤 今年度上期のセンサ応用製品事業は増収減益という結果でした。TMR磁気センサーは堅調でしたが、MEMSモーションセンサーが中国スマホ市場の鈍化で足踏みしました。ただ、スマホ向けモーションセンサーについても23年度上期が底で、徐々に回復軌道に乗るとみています。24年には市場成長が見込めると思いますので、それにしっかりと乗っていきたいと思います。そして、24年度からの次期中期経営計画の期間中には、センサ事業の営業利益率を2桁に上昇させたいと考えています。

 センサービジネスの拡大に向けては、現状の製品ポートフォリオに加えて、ハードウエアドリブンから、システムへの広がりの可能性も視野に、ソフトウエア技術を活用したバリューアップも検討していきます。その一環として、23年の初めに、オートマシンラーニングを手掛ける米Qeexo(カリフォルニア州)を買収しました。ソフトウエア技術を付与することで、センサーのバリエーションを拡充し、中期でのビジネスを広げていきたいと思います。市場でのデータ通信量が増えるとエネルギー消費も増大するため、環境にはマイナスですが、これをエッジ処理にすることで省エネ化できるようになります。当社はセンサ事業では、DX(デジタルトランスフォーメーション)への貢献だけでなく、そうしたエネルギー課題にも対応することで、EX(エネルギートランスフォーメーション)にも貢献したいと思います。

 ―受動部品事業の展望は。

コスト対応力を強化

 齋藤 受動部品事業は、当社の祖業中の祖業です。MLCC(積層セラミックコンデンサー)は、短期的な需要の変動はあっても、xEV向けを中心に伸長しています。30年に向けて、xEVシフトがさらに加速する流れは変わらないと思います。23年度もxEVは20%くらい増加していますし、24年度も増加が期待できます。フィルムコンデンサーやノイズ対策用部品も豊富なラインアップをそろえているため、供給体制の整備を含め、しっかりと対応していきます。

 23年度の初めには、北上工場(岩手県北上市)での車載用MLCC増産計画の前倒しも発表しました。予定通り24年4月から生産を開始する計画です。生産スケールアップにより、コスト対応力も強化します。

 ―エナジー応用製品の展望は。

 齋藤 小型電池は、現在の業界ナンバーワンのポジションを今後もキープしていきます。コスト競争力強化にも継続して取り組みます。加えて、小型電池ではシリコン負極を使用してエネルギー密度を高めた新製品が今期初めて顧客に採用されました。これまでコモディティー製品と思われてきた小型電池でもまだまだ技術進化があることを証明できたと考えています。

 中型電池事業は、中国CATL社とのJV(ジョイントベンチャー)の工場(中国アモイ市)での生産が23年4月に予定通り立ち上がりました。中型電池事業は、ESS(エネルギーストレージシステム)や家庭用蓄電池向けのほか、Eバイク、産業用蓄電池など幅広いアプリケーションに広げていくことで、成長させていきます。中型電池は27年頃から売り上げ拡大が加速する見通しで、30年には年間4000億円から5000億円規模への拡大を目指しています。

二次電池・受動部品・センサ3本柱

 ―24年度からの次期中期経営計画の方向性は。

 齋藤 現在、策定作業を進めており、24年5月に公表する予定ですが、「二次電池」「受動部品」「センサ」を当社の3本柱にしていくという戦略に変更はありません。加えて、磁気ヘッドの次世代技術開発も一層強化します。課題を抱えているマグネット事業にもしっかり対処します。戦略成長事業でのさらなる成長と課題事業への対処により、業績の底上げを目指していきます。

 財務面では、フリーキャッシュフロー(FCF)創出にも重点を置き、次期中計でも投資をコントロールしながら、FCF拡大を図っていきます。次期中計ではROICの方針も打ち出す方針です。

 非財務(ノンファイナンシャル)での価値創造は、今年度から呼び名を変更し、「未財務(プリファイナンシャル)」としました。非財務といっても、いずれは財務価値となっていくからです。中身としては、人的資本、脱炭素への貢献としてのRE(再生可能エネルギー)導入やLE(省エネ)などがあります。

 当社グループでは、事業活動で使用する電力のRE比率を25年に50%まで高める目標を立てていましたが、国内では23年7月までにRE100%を達成でき、グループ全体でのRE50%達成時期も24年に前倒しできる見通しです。同時にLEへの取り組みも進め、DXの活用や生産性改善を通じて使用する電力自体を減らしていきたいと考えています。

 人的資本に関しては、私自身、「人がすべて」「人のやる気がすべて」と思っているため、エンゲージメント向上のための施策にしっかりと取り組みます。22年度に、グローバルベースで初めて「エンゲージメントサーベイ」を実施しました。サーベイの結果に対し、対策を講じることで社員のやる気を高め、会社全体の活力をアップさせることで、業績を底上げしていきたいと思います。

 ―24年度に向けた投資戦略の考え方は。

 齋藤 「成長投資」「バランスシート改善」「株主還元」の三つを基本に考えています。

 ―改めて24年に向けた抱負をお願いします。

 齋藤 24年も市場の不透明感は続くと思いますが、中長期でみれば必ず明るい時代が到来します。先々を見ながら、今やるべきことにしっかりと取り組んでいきたいと思います。

(聞き手は電波新聞社 代表取締役社長 平山勉)