2024.03.07 【コネクター技術特集】日本航空電子工業のFO-BD7シリーズ(SFPトランシーバー熱対策)コネクター

図1 FO-BD7シリーズコネクターの製品構成

開発背景

 本格的に、5Gの導入も進みIoT機器とサービスは、生活を豊かにしている。その半面、データトラフィックの増加は依然として大きな課題であり、その解決策の一つとして移動体通信基地局の高速化が進んでいる。しかしながら、機器の高速化による筐体(きょうたい)内の温度上昇は避けられず、空冷ファンやヒートシンクによって温度を下げている。電気信号と光信号を変換する、SFP(Small Form-factor Pluggable)トランシーバーの使用温度は+85℃までに制限されており、熱対策は重要な要素となっている。機器筐体をヒートシンク構造にして大きくしたいが、基地局の設置費用を考えると小型化が求められ両立が難しくなる。

 この熱問題を効果的に改善し、SFPトランシーバーの温度を10℃低下できるFO-BD7シリーズコネクターについて紹介する。

製品の特徴

 図1に、当社が開発したFO-BD7シリーズコネクターの製品構成を示す。

 SFPトランシーバー内蔵による電気接続防水コネクター

 FO-BD7シリーズの防水コネクタープラグは、SFPトランシーバーをプラグコネクターに内蔵しており、AOC(Active Optical Cable)を構成している。

 防水コネクタープラグ内に光電変換機能があることから、接続工事は電気コネクターの接続となるため、作業者は光コネクターの清掃スキルを必要とせず、光ファイバー端面の汚れに起因する通信エラーのリスクを減らすことができる。

SFPトランシーバーの熱対策(10℃低下)ができる

 無線通信機器の基板の温度は、+100℃を超えることもあり、基板に直接固定するSFPケージは高温になる。SFPトランシーバーは、+85℃以下で使用することが必要であり、温度が高いと寿命も短くなる。この熱問題を解決するためにケージを分割し、SFPへの熱伝導経路を遮断する構造を採用している。

 図2に、熱伝導経路を示す。基板上の専用ケージは、後方(奥)に板ばねを多く設けて、金属製レセプタクルに効果的に熱を伝達し、レセプタクルフランジを経由して筐体パネルに熱を逃がしている。

図2 熱伝導経路

 また、バレル突き当て位置を、レセプタクルフランジよりも外側に設けることで、レセプタクルからの熱は、先に筐体に伝わるようにしている。

 SFPの光源周辺から発せられる熱は、SFP筐体外周部のシールドばね部からバレルASSYに伝達し、バレル突き当て位置を経由して、筐体パネルへと放熱する。

 図3に、実際の基地局を想定した熱解析比較モデルを示す。

 図4に、熱解析比較結果を示す。FO-BD7シリーズコネクターは、標準SFPケージ採用の基地局に対し、SFPトランシーバーの温度を、約10℃下げることが可能である。

図3 熱解析比較モデル
図4 熱解析比較結果

製品仕様

 図5図6に、FO-BD7シリーズの製品構成詳細図を示す。

図5 プラグ構成詳細図(FO-BD7DプラグおよびLC-D u p l e xハーネス)
図6 レセプタクル構成詳細図(FO-BD7レセプタクルおよび専用ケージ)

 SFPトランシーバーは、自由に交換できるため、SFP交換修理や将来のアップグレードも可能である。汎用(はんよう)LC光ハーネスは、SFPトランシーバーの伝送仕様に合わせて、1心/2心、マルチモードファイバー、シングルモードファイバーを選択できる。

 表1に、FO-BD7D-PLUG(プラグコネクター)およびFO-BD7-R(レセプタクル)の仕様を示す。

表1 FO-BD7D-PLUG(プラグコネクター)およびFO-BD7-R(レセプタクル)の仕様

 弊社が標準採用した光ケーブルの使用温度範囲は、-40~+80℃である。お客さまが用意した光ケーブルを使用する場合は、そのケーブルの仕様性能が反映されるため、個別評価が必要である。

 図7に、ケージ詳細図を示す。

図7 ケージ詳細図

 ケージは、ベースとカバーの2部品からなり、カバーはベースと密着している。ベースは、プレスフィット端子と内側にキックばねがあり、ケージとしての基本機能を担う。カバーは、後方上部と両サイドに板ばねを持ちレセプタクルへの熱伝導を担う。また、レセプタクル取り付け時のガイド機能を持つ。

 表2に、FO-BD7-C(ケージ)の製品仕様を示す。参考として、MSA標準仕様を併記する。

表2 FO-BD7-c(ケージ)仕様

 SFP電気コネクターおよび電気回路は、お客さまの実績をそのまま使用する条件としている。専用SFPケージ(FO-BD7-C)の基板取り付け位置は、SFP電気コネクター周辺のMSA(Multi-source Agreement)位置とすることで、基板回路に影響しない設計としている。取り付けは、プレスフィットおよびはんだ付けに対応し、板厚とプレスフィット形状を見直し、基板穴径を小さくして、標準SFPケージと同等以上の保持力を確保している。

 図8に、筐体パネルカット寸法と電気コネクターの位置関係を示す。

図8 筐体パネルカット寸法と電気コネクターの位置関係

レセプタクルコネクターのパネル取り付け方法

 図9に、レセプタクルコネクターの取り付け方法を示す。

図9 レセプタクルコネクターの組み付け方法

 筐体パネルカット寸法と電気コネクター位置関係(図8)を満足している場合は、特別な位置決め治具は必要ない。レセプタクルが、正しい固定位置の範囲のみ可動するように制限壁を設けている。

 ケージ(カバー)に対してレセプタクルを挿入し、レセプタクルフランジを筐体パネルに真っすぐ押し付けて4点ねじ固定すれば、正しい位置に取り付けできる。基準高さは、レセプタクル内側両サイドの〇凸部で決まり、カバー上部および左右の板ばねによって、上下左右位置が決まる。

 図10に、FO-BD7Dプラグコネクターに適合する光ケーブルについて示す。

図10 FO-BD7Dプラグ適合光ケーブル

 SFPトランシーバーは、IEC 61754-20(LC)コネクターのSimplex(1心)またはDuplex(2心)コネクターに対応したものを想定している。使用環境に適したケーブルを選定する必要がある。また、ケーブル保持と防水性を確保するためには、LCコネクター先端からケーブル分岐部までの寸法は50mm以下が望ましい。なお、防水性能とケーブル保持力は、ケーブル構造によって異なるため個別評価が必要である。

 図11に、プラグコネクターへのSFP装着手順を示す。

図11 プラグコネクターへのSFP装着手

 ①プラグコネクターのバレルAssyに、ダストキャップを取り付け、ご用意いただいたSFPトランシーバーを挿入する。SFPトランシーバーの取り外しは、トランシーバーのレバー操作で行う。

 ②LCハーネスにグランドナットを通す。

 ③ブッシング、Cリングをスリットからケーブルに取り付ける。

 ④エンドベルAssyを通す。

 ⑤LCコネクター端面清掃後、SFPトランシーバーに接続する。

 ⑥エンドベルAssyをロックする。

 ⑦ブッシングをエンドベル後方に挿入する。

 ⑧Cリングを挿入する。

 ⑨グランドナットを締め込む。

 分解は、逆の手順で行う。なお、グランドナットを回す際は必ずエンドベルを持って行う。

 図12に、プラグコネクターの接続手順を示す。

図12 プラグコネクターの接続手順

 プラグ嵌合(かんごう)キーとレセプタクル嵌合▽マークを合わせて、真っすぐ押し込み、フリクションロック固定させる。次に、スライドリングを時計回りに20度回転させて、レセプタクル嵌合▽マークとスライドリングの△位置を一致させて、ロックが完了となる。離脱は、逆の手順で行う。

おわりに

 今回ご紹介したFO-BD7シリーズコネクターは、全国の5G基地局で使用されており、通信サービスに貢献している。今回開発したFO-BD7が、SFPトランシーバーの熱問題解決の一助になれば幸いである。今後、移動体通信は、Beyond 5G(6G)に向けて、さらなる速度向上と発展が期待されるため、次世代のトランシーバーにも注力して開発を進めていく。
〈日本航空電子工業(株)〉