2024.05.31 【やさしい業界知識】エッジコンピューティング
生成AI本格化で需要拡大
クラウドと連携しネット負荷低減
クラウドの普及が加速する一方で、ユーザーやデバイスなど現場に近いところでデータを処理するエッジコンピューティングが注目されている。クラウドが、データを一元化して中央で処理するのに対して、エッジコンピューティングは、データを分散処理する。データ量は、日々増加し続け、今後、生成AI(人工知能)の本格化で、ネットワークにかかる負荷などが増大する。このため、ネットワークの負荷を軽減、データ処理による遅延の軽減、また、セキュリティーの面からも、エッジコンピューティングの需要が拡大するものとみられている。
IT専門の調査会社IDC Japanがまとめた国内のエッジインフラ市場予測では、2024年の国内エッジインフラ市場規模は、前年比12.3%増の1兆6000億円になる見通しだ。また、22~27年の5年間の年間平均成長率(CAGR)は、12.4%で、27年は2兆3000億円になると予測している。
IDCでは、エッジコンピューティングを「集中型データセンター(DC)の外部で実行されるICTによる処理」と定義している。同処理を行うエッジインフラは、接続されたエンドポイント(セキュリティーやリモートデバイスなど)と、ソフトウエアが定義され、柔軟性を有していることを特徴としている。
「集中」と「分散」
コンピューターの歴史は、「集中」と「分散」の繰り返しともいわれている。ここ数年は、クラウド化が進み、データの一元化が行われ、中央でデータ処理を行う形に移行してきた。しかし、昨今、注目を集めているのが、クラウドにデータを送らず、エッジ側で処理するエッジコンピューティングだ。DC、クラウドを基盤とするコンピューティングを「集中型アーキテクチャー」、エッジコンピューティングを「分散型アーキテクチャー」といっている。
低いレイテンシー
なぜ、エッジコンピューティングが注目されているのか。ここ数年、データ量の増加は急激だ。昨今、データをどう利活用するか、ビジネス自体を大きく左右する。IoTの本格化やAIの登場で、今後、データ量の増加が加速するのは、間違いない。データをクラウドやDCへ送り、データを処理する方法では、ネットワークに大きな負荷がかかる。また、ユーザーやデバイスから離れた場所からのデータ処理のため、通信の遅延「レイテンシーの問題」が生じる。「集中型IT」であるクラウド処理の場合、DCからの遅延は、50~300ミリ秒のタイムラグが生じる。これに対し、エッジでの処理では25ミリ秒以下でほぼリアルタイム処理できる。低いレイテンシーがエッジコンピューターの最大の特徴だ。
さらに、エッジコンピューティングは、ネットワークが介在しないため、データ漏えい対策などセキュリティー面でも強みとなっている。
エッジコンピューティングは、リアルタイム処理ができ、セキュリティー面の安全性などから、活用分野は製造業、エネルギー、小売業、さらにスマートシティーなど幅広い。特に製造業では、リアルタイム処理が重要視されており、エッジコンピューティングの担う役割も大きい。また、自動運転などが本格化するが、低遅延は、安全面からも絶対条件だ。
クラウドでの集中処理だけでなく、エッジとの連携、補完の〝共存関係〟が、さまざまな分野でのデジタル化、DXの促進につながる、と期待されている。
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