2020.05.27 【電子回路基板特集】電子回路基板、自動車や5G向け生産拡大
電子回路基板(プリント配線板、モジュール基板)は、自動車、次世代高速通信規格5Gなどの成長分野を中心に新たな技術を創出しながら生産規模を拡大している。
スマートフォンや産業機器の生産が減速し、自動車の生産台数が減少。一方ではxEVの普及、自動運転に向けての高機能化などが、電子回路基板の需要を押し上げている。
また、5Gの本格的なサービスを控え、新しい端末の開発、さらにはIoTとの融合で幅広い産業に波及。電子回路基板は新たな成長期に入った。
19年における電子回路基板の生産額は前年比2.6%増の1兆5389億円の見込み。これは日本電子回路工業会(JPCA)がまとめた。
国内生産は、多層プリント配線板、ビルドアップ配線板がけん引。同3%増の6667億円を予想。一方、海外生産は、スマホの需要が減速、車載向けの需要も減速しているが、同2.3%増の8722億円が見込まれている。
18年の生産実績は、前年比2.6%減の1兆4997億円。国内生産は多層板やビルドアップ基板が自動車、通信インフラ、データセンター向けに需要が伸びて全体の生産増をけん引した。
一方、これまで継続して伸びてきた海外生産は一転。前年比7.8%減の8523億円にとどまった。車載用基板は継続して伸びているものの、スマホの生産台数が減速。特にフレキシブル配線板(FPC)の一時的な生産調整が影響した。
19年は昨秋からの世界経済の減速が続いており、電子回路基板の需要の伸びも低調に推移したと見られる。
国内生産については、自動車のxEV化、自動運転など、電装化率の上昇による車載用基板が引き続き伸びる見通し。
例えば、メタルコア基板は前年比39.2%増の176億円を予想。これは放熱化などで車載向けに需要が伸びるとの見込みによるもの。
さらに5Gの本格的なサービス開始を控え、基地局をはじめとするインフラへの設備投資が始まった。また、5Gによる新たなサービスの開発およびハードウエアの開発など、幅広い分野への波及効果が期待される。
高多層板伸びる
これらによって、例えば10層以上の高多層板の生産額は、前年比12.1%増の175億円が予想されている。
国内生産規模の拡大が予想される一方、海外生産の伸び率は国内生産を下回る。これは18年に続き、スマホ向けの需要が低調に推移することを見込んだもの。FPCの生産は前年比1.2%増の5330億円と低い伸び率を予想。
引き続き生産規模が拡大すると期待されるのは車載用基板。国内の動きと同様にxEV化、電装化率の上昇が需要を押し上げる。
これによって、両面板は前年比8.7%増の509億円、多層板は同3%増の2117億円(うち、ビルドアップ基板は同5%増の1041億円)を予想。
21年度生産、1兆6584億円規模も
20年の見通しは厳しいものがある。米中貿易摩擦などによって世界経済が大きく後退した19年に引き続き、20年は年明けから新型コロナウイルスが発生。
中国・武漢から感染が始まり、中国全土に拡散するばかりか、日本を含めて世界中に感染症が広がった。生活は制限され、経済活動にも支障を来し、エレクトロニクス産業にも大きな影響を及ぼしている。
電子回路基板の21年の生産額は1兆6584億円の規模に拡大すると予想されていた。今回の新型コロナウイルスは、終息が見えないだけに20年における電子回路基板の生産を予想するのは難しい。ただ、中長期的な展望としては、明るい材料がある。
一つは自動車。環境保全、省エネなどを背景にEV、PHV、HEVといったxEVが普及すること。
これによって、モーターを駆動するインバータ、DC-DCコンバータ、オンボードチャージャ、バッテリマネジメントシステム(BMS)といった高放熱、大電流を要求する基板の需要が拡大する。
具体的には、メタル基板、厚銅基板、銅インレイ基板、スルーホール厚付け銅めっきなどの技術が、要求に応じて使い分けられる。
また、ADASでは、ミリ波レーダーユニット向けの基板として高周波基板と制御基板を2枚使用していたが、高周波特性に優れた高周波基板と一般的なガラスエポキシ銅張積層板を使った低コスト基板を混在したハイブリッド基板1枚を使用する設計が台頭すると予想されている。
自動運転に向けて安全設計が施されることから、電子化がさらに進展すると見られ、この動きによって電子回路基板の搭載枚数が増加し、需要を引き上げることになる見通し。
一方、5Gの普及は基地局、スマホの需要を伸ばすだけでなく、IoTとの連携技術が広がり、新しい電子回路基板市場を創造する。
中心的な存在のスマホは普及が進んだこともあって、伸び率が鈍化。19年の生産台数はマイナスだったと見られる。ここにきて5G用スマホの開発が活発化。再び需要が伸びるとの期待が高まる。
スマホ向けのプリント配線板は、コア層を持つ一般的なビルドアップ多層板から、L(ライン)/S(スペース)は50マイクロメートル/50マイクロメートル以下の微細化技術を適用したエニーレイヤー基板へと技術が高度化している。
5G対応スマホでは、さらに微細化が要求されることから、パターンルールはL/S=30マイクロメートル/30マイクロメートル以下に進展。
そのため、回路形成技術はこれまでのエッチングによるサブトラクティブ工法から、めっきによる回路形成技術であるMSAP(モディファイド・セミ・アディティブ・プロセス)が用いられるようになり、プロセス技術が大きく変わりつつ需要増に対応していくことになる見通し。