2024.08.02 【ハイテクノロジー・コンデンサー特集】リード形アルミ電解コンデンサーの低インピーダンス・長寿命化技術 ルビコン

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 アルミニウム非固体電解コンデンサー(以下アルミ電解コンデンサーと記す)は、小形で大きな容量が安価で得られるというメリットがあるが、有限寿命であること、抵抗が大きく印加できる電流に制約があること、温度による特性変化が大きいことなどのデメリットもある。このデメリットを解消するための製品開発がコンデンサーメーカー各社で進められ、性能アップが図られてきている。特に電源の出力平滑用に用いられるアルミ電解コンデンサーにおいては、小形で低抵抗、高リプル電流化が求められ、電源の用途によっては長寿命化、高容量化も必要となる。

 この要求に応えるために、電解液、電解紙、封口材、素子構造などの検討が行われてきた。特に電解液は、薬品メーカーやコンデンサーメーカー各社の独自技術により特性向上が進められ、コンデンサーの高性能化が進められてきている。ルビコンでは他社に先駆けて、水を溶媒に用いた電解液を開発し長寿命、かつ低インピーダンスを実現したZシリーズを上市し、電源の高性能化に貢献した。特に2003年に上市したZLHシリーズは、サイズ、容量、インピーダンス、許容リプル電流のバランスに優れ、電源の出力平滑用コンデンサーのデファクトスタンダードとして20年余りにわたってあらゆる用途の電源に使用されてきている。さらにZLHシリーズを高性能化したZLRシリーズを開発し、サンプル出荷を9月より開始する。本稿では、リード形アルミ電解コンデンサーの低インピーダンス・長寿命化の道程と、最新技術によって生まれた業界最高スペックのZLRシリーズについて解説する。

■低インピーダンス・長寿命化の軌跡~ターニングポイント~

 コンデンサーの低インピーダンス化、長寿命化など高性能コンデンサーの開発において、電解液の性能が大きく影響する。1980年代以降では、この電解液の開発における主なターニングポイントは四つある。一つ目のターニングポイント(以降TP1と記す)は、新しい溶媒の電解液が開発されたことである。低インピーダンスをうたうアルミ電解コンデンサーが開発される以前は、最も一般的な電解液の溶媒はエチレングリコール(EG)で、コンデンサーのカテゴリー温度は85℃以下が主流であった。アルミ電解コンデンサーの高温度化や低インピーダンス化製品の要求が高まる中で、EGに代わる溶媒による電解液が検討され開発されたのがガンマブチロラクトン溶媒の電解液(GBL系電解液)である。この電解液の登場により低インピーダンスをうたったコンデンサーが各社より上市されるようになった。なお、現在この電解液は105℃保証の汎用(はんよう)シリーズで使用されることが多い。

 二つ目のターニングポイント(TP2)は、薬品メーカーで新しい溶質が開発されGBL系電解液に採用されたことである。この電解液はGBL-アミジン系電解液であるが、従来のGBL系電解液に比べて低抵抗で高温環境においても長期間安定した特性を示し、コンデンサーの低インピーダンス化と長寿命化に大きく寄与した。特にコンデンサーのインピーダンスは、TP1のGBL系電解液採用品に比べて約2分の1程度と大きく低減した。現在もGBL-アミジン系電解液は改良されながら、リード形および面実装形の低インピーダンス品や高温度保証品など高信頼性製品への採用が継続している。

 三つ目のターニングポイント(TP3)は、EG系電解液が高信頼性かつ低インピーダンスをうたうコンデンサーへ採用されたことである。アルミ電解コンデンサーは、電解液が封口材部分から外部へ拡散するためにコンデンサー内部の電解液が減少することで特性劣化が進み、オープンモードによる故障に至る。当時の低インピーダンスコンデンサーには、GBL系電解液が採用されることが通常となってきていたが、ルビコンではコンデンサーの長寿命化を検討する中で、EG系電解液はGBL系電解液に比べてコンデンサー内部からの抜けが少ないという特徴に着目し、EG系電解液の配合の改良や封口ゴムや電極箔(はく)の組み合わせを最適化することで低インピーダンス・長寿命コンデンサーの開発を進めた。図1は高温放置試験におけるコンデンサーの重量変化を比較している。重量の減少分がコンデンサー内部から外部へ拡散した電解液の量を示しており、105℃5000H後のEG系電解液を使用したコンデンサーの電解液の抜け量は、GBL-アミジン系電解液の抜け量の約6割と少ないことが分かる。この技術を最初に採用したのがYXFシリーズであった。ただ、TP2のGBL-アミジン系電解液を使用したコンデンサーより寿命特性は勝っていたが、インピーダンスやリプル電流は劣っていた。YXFシリーズの改良はこの後も進められることとなる。

 四つ目のターニングポイント(TP4)は、電解液溶媒に水を多く用いたことである。EG系電解液によって長寿命化が進んだが、前記の通り当時のコンデンサーのインピーダンスやリプル電流はGBL-アミジン系電解液を使用したコンデンサーには及んでいなかった。EG系電解液に高濃度の水を溶媒として配合すると、この電解液(一般的に含水系電解液と言われている)は、GBL系電解液より極めて高電導性(低抵抗)の電気特性が得られ、コンデンサーは大幅な低インピーダンス化が可能となる。しかし、高濃度の水を溶媒とした電解液は非常に活性で、電極箔との水和反応や電解液自体の化学反応による変質が起こりやすいという問題があった。

 ルビコンでは、水の可能性について80年代から研究を重ねてきており、この長年にわたる研究結果から水和反応のメカニズムを解明してきた。この研究成果から水和反応を抑制させるインヒビターと要素技術を確立し、高信頼性を担保できる方策を講じている。この技術によりできた含水系電解液を採用した代表例が、電源出力平滑用コンデンサーのデファクトスタンダードとして長年にわたって使用されているZLHシリーズであり、今回開発したZLRシリーズ(図2)である。なお、電解液の含水率をコンデンサーの信頼度の尺度に考えられていることが見受けられるが、水の影響を考察しその対策がきちんと講じられた配合となっているかがポイントであり、電解液の含水率だけでコンデンサーの信頼度を測ることはできない。

図2 ZLRシリーズ外観

■ZLRシリーズの特徴

 ZLRシリーズには、長年培ってきた独自のエチレングリコールと水の配合技術により、ZLHシリーズよりもさらに低インピーダンス化を実現させるための高電導化の改良を行った新規の高性能含水系電解液を採用した。この高性能電解液を高気密性封止材と組み合わせることでZLHシリーズ同様の長寿命性能を維持し、さらに電極箔の高倍率化を進めることで、コンデンサーの高容量化を図っている。

 図3図4は、各ターニングポイント技術を採用した当時の代表シリーズでその性能を比較したものである。定格電圧25WV、コンデンサーサイズφ10×16L品を例に比較したものであるが、低抵抗化、高リプル化が進んできているとともに、長寿命化、高容量化も各TPで図られてきたことが分かる。

 デファクトスタンダードとなったZLHシリーズとZLRシリーズについて代表特性で比べたものが図5の表である。25WV820μF品で見た場合は、ZLHシリーズはφ10×20Lとなるが、ZLRシリーズはφ10×16Lとサイズダウンとなりながらほぼ同じリプル電流となっている。

 また、同一サイズで比べた場合、ZLRシリーズは寿命スペックを落とすことなく高容量化、低インピーダンス化、高リプル化が図られている。ZLRシリーズの特性は業界トップの性能となっており、コンデンサーのスペックアップによる電源の高性能化や、小形化、員数削減などによるコストダウンへの貢献が期待できるものである。

 なお、GBL-アミジン系電解液(TP2)とEG系電解液(TP3)も改良されてきており、コンデンサーの低抵抗、高リプル、長寿命化が進んでいる。特にEG系電解液を採用したコンデンサーは、GBL-アミジン系電解液製品と定格リプル電流や20℃のインピーダンス特性は劣らないレベルまで高性能化されてきている。最新の現状シリーズで特性比較したものが図6である。含水系電解液を採用しているZLHシリーズやZLRシリーズの性能は、改良されたGBL-アミジン系電解液採用コンデンサー(JXFシリーズ)、EG系電解液のコンデンサー(YXJシリーズ)に対しても高スペックを維持している。

 本稿では、電解液に着目して述べてきたが、ほかの構成材料の進化もアルミ電解コンデンサーの高性能化に欠かせない。一例として、電解紙は薄くまたは低密度化しながら耐ショート性を向上させ、品質や信頼性を維持したままで高容量化、低インピーダンス化を担った。また、コンデンサー特性を向上させる材料(特に電極箔と電解紙)はデリケートになってきており、そのような繊細な材料を品質低下させることなく使用していくためには製造設備の検討も欠かせない。ルビコンでは、高性能高品質コンデンサーを開発、量産するに当たって材料(素材)と設備の両輪での社内開発を行ってきている。

■今後の展望~ハイブリッドタイプとのすみ分けが続く~

 近年、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーに電解液などの液体を含浸したハイブリッドタイプまたはハイブリッドコンデンサーと呼ばれているコンデンサー(ここではハイブリッドタイプと記す)の開発と採用の検討が活発化している。このハイブリッドタイプのカバー領域はアルミ電解コンデンサーの電圧、容量領域の一部と重複している。

 ハイブリッドタイプの特徴は、固体コンデンサーのショートリスクを格段に低減させ、アルミ電解コンデンサーより低抵抗化、高リプル電流対応、長寿命化が図られ、低温特性に優れていることである。半面、材料が高価なこと、製造工程が従来のアルミ電解コンデンサーより増えることなどから大幅なコストアップとなる。そのため、多少のコストアップとなってもセットの小型化や軽量化、長寿命化のメリットが重要視される車載やモバイル機器などでの採用が増えている。

 ハイブリッドタイプや固体コンデンサーのような極低抵抗コンデンサーの場合、電極箔の金属抵抗がコンデンサーの抵抗値に大きく影響を与え、コンデンサーの外径が大きくなると電極箔の巻取長が長くなるため箔の金属抵抗が増加し、サイズアップによる特性向上メリットが出にくい。さらに大径品は使用材料の増加によるコストアップが大きくコストと性能のバランスに欠ける面があり、ハイブリッドタイプは大径サイズを得意としていない。一方で従来のアルミ電解コンデンサーは、ハイブリッドタイプより性能が劣る面があるもののサイズバリエーションが豊富で、低価格で大容量(大径品)まで対応できるメリットは大きい。ハイブリッドタイプと電解コンデンサーが重複する電圧・容量の領域でもアルミ電解コンデンサーが今もなお多く採用されているのは、電解コンデンサーで実現できる性能と価格での需要が多いためである。

 今後も機器に求められる性能や価格によりコンデンサーは選択され、アルミ電解コンデンサーとハイブリッドタイプのすみ分けが続くものと考えられている。したがって、ルビコンではPZ-CAP(ルビコンのハイブリッドタイプの総称)をさらに改良、拡充を進めるとともに、電圧、容量領域が重複する範囲においてもアルミ電解コンデンサーの高性能化や用途に特化した低価格製品などの検討を継続していく。〈筆者=ルビコン(株)技術部〉