2024.11.27 東大で半導体教育プログラム ラピダス社長らが講義、設計人材育成 3分の1が専門外の学生受講

ミニマルファブで使う12.5ミリメートルのウエハー

実践的なプログラムとして院生向けにミニマルファブを用いた実習も行う実践的なプログラムとして院生向けにミニマルファブを用いた実習も行う

「半導体設計のためのハードルを最小限に抑えたい」と話す池田教授「半導体設計のためのハードルを最小限に抑えたい」と話す池田教授

 国家規模で投資が進む半導体業界では、地盤底上げのため全国の教育機関で人材育成が進む。東京大学は、今年度から学科横断で「半導体教育プログラム(SPIRIT)」を開講し、主要半導体企業の役員や技術者が講義を行っている。東大のシステムデザイン研究センター(d.lab)が主導しており、夏学期を終えたSPIRITの手ごたえは十分だ。半導体設計に多くの学生が触れる機会を提供している。

大手半導体役員の講義

 SPIRITは東大の学部横断型プログラムの一環で、学部学科にかかわらず受講できる。学部生向けだが大学院生も受講できる。d.labセンター長を務める池田誠教授は「半導体分野にまず興味をもってもらうためのプログラムだ」と話す。

 特に主要半導体各社の役員による講義が人気。北海道での投資が進むラピダス(東京都千代田区)の小池淳義社長や、国の半導体政策に携わる経済産業省商務情報政策局情報産業課の金指壽課長などが登壇。「業界が元気だと伝えてほしいとお願いした」(池田教授)とし、さまざまな講義内容は学生の間でも評判になっているようだ。

 それは学生のリアクションペーパーにも表れている。「内容の濃い感想が多い」と池田教授。受講者は約200人に上り、受講した学部生の3分の1は、半導体分野を専門的に扱う工学部電気系学科以外の学生だった。

 新規開講の講義に加え、関連する既存の講義を抽出。半導体の物性、デバイス・プロセス、設計・コンピューティングに分類し、選択科目としてプログラムに組み込む。

東大の設計人材育成

 d.labは半導体分野の中でも設計人材の育成に取り組んでおり、SPIRITもその一つに位置づけられる。設計人材育成を巡っては、文部科学省が主導する「次世代X-nics半導体創生拠点形成事業」の拠点の一つとして、半導体技術の民主化を目指す「Agile-X」プロジェクトや、ラピダスなどが参画する技術研究組合「最先端半導体技術センター(LSTC)」とも東大は連携している。

 池田教授は「デバイス・プロセスに比べ設計は関心を持たれにくい面もあるが、他分野でも必要な時に手早く簡単なチップを設計できれば役立つことも多いはず」と話す。

 Agile-Xの取り組みには、昨年度から夏に開講している「半導体デザインハッカソン」がある。画像認識AI(人工知能)を処理する半導体回路の設計を課題とし、処理速度や精度をコンテスト形式で競った。半導体分野全般を広く扱うSPIRITと異なり設計に絞ったやや専門的な内容で、池田教授は「SPIRITと両輪で進めたい」と話す。今年度は47人の学生が受講した。

 より実践的なプログラムとして大学院生向けに、12.5ミリメートルの小型ウエハーから半導体を製造するミニマルファブを使い、自分で設計したデバイスを試作する実習も行っている。クリーンルームを備えた設備もあり、より先端のプロセスノードで製造したい場合はそちらを利用できる。

 「半導体設計のためのハードルを最小限に抑え、設計者を増やしたい」。池田教授は、今後も半導体設計の入り口となる設備やプログラムを拡充し、設計人材の底上げにつなげていく考えだ。