2024.12.01 家庭用蓄電池、リサイクル前提で普及へ マクニカ、「鉛」使い低コスト化

7.2kWhの家庭用蓄電池「ソルダム」実機

「リサイクル前提のサービス体制は欠かせない」と話す脇坂部長「リサイクル前提のサービス体制は欠かせない」と話す脇坂部長

コストを抑えるためにシンプルな外観にしているコストを抑えるためにシンプルな外観にしている

 リサイクルを前提とした家庭用蓄電池の動きが本格化しつつある。半導体商社大手マクニカは、販売から使用済み品の回収、再資源化と合わせ、5年ごとの新品交換による充電容量の回復を狙った販売体制の構築に向け、最終調整を進めている。メーカーによってリサイクル体制にばらつきが見られる中、鉛蓄電池「soldam(ソルダム)」を軸に一連の仕組みをセットにした安価な提供を目指している。

 「リサイクルを前提として蓄電池を普及させなければ、いずれは廃棄問題に直面する」。そう指摘するのは、イノベーション戦略事業本部の脇坂正臣サーキュラーエコノミービジネス部長だ。

 脇坂部長が念頭に置くのは、太陽光パネルの廃棄問題。余剰電力の買い取り価格を優遇するFIT(固定価格買い取り制度)で、住宅だけでなく、業務用を含めて全国各地に太陽光発電が広まった。普及を後押しした半面、表面化している課題が使用済み太陽光パネルのリサイクルだ。環境省によると2030年代後半以降、年間50万~80万トンのパネル廃棄が想定されるという。

 家庭用蓄電池も、国や自治体で補助金を用意するなど普及に向けた後押しが強まっている。マクニカは「蓄電池を普及させるだけでなく、リサイクルまで想定する企業としての考え方を示す」(脇坂部長)ことを重視するとともに、家庭用として一般的なリチウムイオン電池よりも価格を抑えることで、普及に弾みをつけたい考えだ。

 ソルダムは当初、リチウムイオン電池に対し3分の1程度の価格を想定。初期費用40万円で導入し、5年ごとに23万円で新品に交換といったコストとサイクルでサービスの運用を検討していた。

 家庭用蓄電池は一般的に10~15年程度が寿命の目安と言われている。ソルダムの場合、5年ごとに交換費用が発生しても15年後のトータル費用は109万円程度に抑えられる計算だった。しかし、資材の高騰や物価高の影響で「価格は再検討しなければならない」(脇坂部長)とする。

 それでもリチウムイオン電池より安価に提供し、「補助金も活用すればさらにコストを抑えられる」(脇坂部長)と自信を見せる。

重さ300キロ

 鉛は金属の中でも重い。ソルダムは容量1.2kWhの鉛蓄電池を6個組み合わせた7.2kWhの製品だが、1個当たりの重量は50キログラムあり、全体では300キログラムに達する。サイズは高さ850×横660×奥行き350ミリメートルで、同容量のリチウムイオン電池とさほど変わらない。

 異常発熱による発火などの危険性のあるリチウムイオン電池に対し、火災に対する安全性は鉛蓄電池の強みの1つ。半面、それ以上に「有害物質」といったイメージが根付いている上、環境配慮から電子機器で鉛を使わない「鉛フリー」も定着している。

 脇坂部長は「潜在意識として鉛にマイナスのイメージがあるからこそ、リサイクルを前提としたサービス体制は欠かせない」と強調する。蓄電池リサイクルに関するスキームを手掛けるサーキュラー蓄電ソリューション(東京都杉並区)と共同開発しているのも、専門業者によるソルダムの回収まで整備するためだ。

日本初のサービス、経済メリットは

 マクニカによると、蓄電池のリサイクルを前提としたサービスは日本初という。ソルダムは1日1回タイマー設定で充放電を行う仕組みだ。日中は太陽光発電で充電し、日が暮れた午後5時頃から放電する、といった運用形態になる。マクニカの試算では、太陽光発電による昼間の充電と夜間の放電で月8000円程度の電気代抑制効果が期待できるとする。

 記者は、太陽光発電のFIT優遇期間を終えた「卒FIT」住宅に住んでいる。ソルダムが狙うのはこうした家庭で、実際の経済メリットについて、リアルな電気料金をもとに算出してみた。

 記者は妻、子ども2人を合わせた4人家族。昨年(1~12月)の電気料金は合計9万7559円だった。月8000円をソルダムで賄うとすると、年間9万6000円の電気代削減になる。単純計算では年間2000円を切る電気料金に抑えられることになるが、太陽光による昼間の発電を蓄電に回すことになるため、年間の電気料金は日中分が上乗せされて少なからず上がることになるだろう。

 仮にソルダムの導入費を40万円とした場合、電池交換となる5年後の電気代の抑制効果は48万円。それだけでプラスになるわけだが、補助金の適用を受ければ経済効果はさらに高くなる。新品への交換費も23万円だと仮定すると、ランニングコストとしてもそれなりの経済メリットを得られそうだ。

 ソルダムを軸にした鉛蓄電池サービスは、新品への交換を打ち切ることで、使用済み品を回収されて終了となる。サービス契約を解除したからといって、300キログラムの鉛蓄電池が残される心配もない。

 日本電機工業会(JEMA)の統計では、家庭用を含む国内の定置型リチウムイオン蓄電池の出荷台数は23年度で約16万3000台と前年度比14%増だった。毎年右肩上がりで出荷台数は伸びており、累計出荷台数は93万台を超えている。

 卒FIT住宅の増加や蓄電池への関心の高まりを受け、マクニカは、新たなサービス提供に向けた価格や販路の決定など詰めの作業を急いでいる。家庭用蓄電池で「鉛」という新たな選択肢は市場にどう受け入れられるのか。今後の動向に注目したい。