2025.01.07 デジタルツインとCAD技術によるインプラントの進化

肩甲骨インプラントのレントゲン写真

Creoによるインプラント設計の画面Creoによるインプラント設計の画面

 さまざまな産業分野で「デジタルツイン」の利活用が進んでいる。デジタルツインとは、実際のリアル空間の情報を基にサイバー空間にリアル空間を再現する技術。単なるバーチャルリアリティーとは異なり、実際のリアル空間と同じ環境をリアルタイムで再現できることが特徴。IoTやAI(人工知能)の高度化により、より精度の高いリアル空間再現を実現している。エヌビディアのOmniverseプラットフォームなど、多くの半導体企業および技術がデジタルツインを支えている。このデジタルツインに、以前から開発現場で利活用されているCADや製品ライフ管理(PLM)などを組み合わせることで、さまざまなデバイスの進化につなげることができる。

 米PTCは3次元(3D)CAD、PLM、アプリケーション開発プラットフォームなどをコア技術とし、製造業の開発を支援している。拡張性と相互運用性に優れたソフトウエア製品群をはじめ、幅広いテクニカルサポートも提供している。同社はこのほど、テルアビブメディカルセンター、ヘキサゴン社と共同で、完全オーダーメードの肩甲骨インプラントを作製。最先端の積層造形技術と医療用画像技術を駆使し、患者の解剖学的構造に高い精度で合致させたチタン製肩甲骨インプラントを設計・製造した。

 効果的な再建を進めるため、腫瘍とその周囲の骨を3Dで分割し、解剖学的モデルのデジタルツインを作成し、手術前の計画や切断端の抽出に使用した。それと同時に残存骨の固定と肩甲上腕関節・肩鎖関節再建のために、PTCの3D CAD「Creo」を活用し、3Dプリントされるカスタムインプラントを設計。デジタルツインとCAD技術を組み合わせることで手術は計画通りに進み、インプラントはシームレスに適合し、患者は数日で可動性を取り戻し始めた。

 従来、インプラント設計では患者本来の解剖学的容積や形状、運動学的特性を維持しつつ、質量の最小化とインプラントの機械的特性を最適化するなど、さまざまな課題があった。3D CADを活用することで、サポートとゆがみを最小限に抑制するなどの設計を実現。高度な機構シミュレーションを利用し、肩や腕の動きに対するインプラントの耐荷重性を検証するなどした。

 今回の協業は、医療分野におけるインプラントの可能性を広げることとなる。デジタルツイン、CAD、PLM、認証のためのシステムを組み合わせることで、医療用カスタムデバイスの進化を実現する。

 PTCは拡張性と相互運用性に優れた3D CADであるCreo、製品コンテンツと業務プロセスを一元管理するPLM「Windchill」、ソフトウエア開発と管理を支援するアプリケーションライフサイクル管理(ALM)「Codebeamer」など、幅広い製品を取りそろえている。製造業や医療など幅広い産業で利活用されている。半導体業界でも半導体製造装置の設計・開発やプロセスのシミュレーションなどに活用され、半導体の製造現場を支えている。