2025.01.20 新たな経済特区設立へ!AIや半導体への投資拡大に期待

シンガポールのウォン首相(左)とマレーシアのイブラハム首相

 マレーシアとシンガポール両国政府は双方の国をまたぐ「ジョホール・シンガポール特別経済特区(JS-SEZ)」の設立で合意した。同特区は投資、人、モノの円滑で自由な移動を目的にしている。今後5年間に50件のプロジェクト誘致と2万人の熟練工雇用を目指す。

 JS-SEZは2024年1月に両国が覚書に調印したが、最終的な詰めを急ぎ、マレーシアのアンワル・イブラハム首相、シンガポールのローレンス・ウォン首相が今年1月マレーシアで会談、最終合意に至った。両首脳はJS-SEZが人とモノの流れを促進し、同時に域内のビジネスの流れを活性化させるとの認識で一致した。

 近年、生成AI(人工知能)の普及拡大やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展を受け、マレーシアではデータセンター(DC)への投資が増加している。マレーシアの投資貿易産業省(MITI)によると、DCを含むデジタル投資は23年には605億リンギット(約2兆570億円)と21年比で17.8倍に拡大。マレーシア政府はDC分野の収益について、22年の20億9000万リンギットから25年までに36億リンギットに引き上げる目標を立てている。JS-SEZへの投資計画にはDC関連も多く含まれると見込まれる。

 JS-SEZがカバーする面積は約3500キロ平方メートルで、シンガポールの約4倍、中国・深圳地域のほぼ倍という広域経済圏。投資とビジネスで世界の経済へ大きな影響を及ぼす経済圏になると地元経済界の期待は大きい。今後10年間でJS-SEZがマレーシアのGDPで年間280億ドルの押し上げ効果があると期待される。

 JS-SEZは6つの自治体にまたがり、パシルグダン、スデナク、ジョホールバル市中心部、タンジュン・ペラパス含めた9つの「フラッグシップ・エリア」を対象にしており、ジョホール州にはマレーシア進出の半数以上の日系企業が集積している。特区関係者によると、特にシンガポールや第三国から11の分野を特区に誘致したいというリクエストが多いという。11分野とは製造、物流、食料安全保障、観光、エネルギー、デジタル経済、グリーン経済、金融、ビジネスサービス、教育、医療。基幹産業の製造業誘致がJS-SEZが望む分野でもある。

 さらにはパスポートフリー、シンガポール税関でのQRコード付き審査、ワンストップセンターの設置など、事務処理や手続きを簡素化する仕組みの導入を推進していくことでも両国は合意した。AI関連や航空宇宙機器など高付加価値企業には最高で15年間、5%の法人税というインセンティブが適用される。

 両国は経済的にも結び付きが強い。23年シンガポールはマレーシア全体の直接投資額の23.2%を占めトップ。マレーシアはシンガポールにとって3番目の貿易相手国という関係にある。JS-SEZの開設後にはAI関連によるDC投資をはじめ、最先端分野に関わる投資がさらに増加すると期待される。半導体関連においてもマレーシアへの投資は拡大傾向。マレーシア政府は半導体産業の集積を後押しする政策を進めており、研究開発や人材育成強化への支援も表明している。