2025.01.28 英アームの2025年テクノロジー予測

アームはムーアの法則の「再調整」が必要になるという予測も行っている

24年、アーム主催のイベントにて都内で基調講演に立ったディプティ・ヴァチャーニ シニア・バイスプレジデント24年、アーム主催のイベントにて都内で基調講演に立ったディプティ・ヴァチャーニ シニア・バイスプレジデント

 英アームが2025年のテクノロジー予測を発表した。アームはIPプロバイダーとしてさまざまな用途、種類の半導体の設計ライセンスを提供しており、そのネットワークを生かしたエコシステムの形成やAI(人工知能)分野への取り組みも目立つ。客観的な予測として読むよりも、予測を通じてアームの意図を読み取る方が有益だろう。今回はその一部を紹介する。

用途特化型シリコンの「復活」

 半導体に関し、アームは「用途特化型シリコン」、いわゆるASICの成長を予測する。

 ASICはかつて半導体業界の主流だったが、近年業界をリードしてきたのは汎用(はんよう)チップ。急激な成長を遂げている米エヌビディアのGPU(画像処理半導体)もデータセンター(DC)向けに量産したものだ。しかし、AIの台頭で、DCで使用する莫大な消費電力は課題となっている面もある。だからこそ、アームは「既成のコンピューティング・ソリューションを中心としたDCの構築がもはや不可能なことは明白」と予測し、特定用途向けに演算機能を設計した半導体の需要拡大を見込む。

 複数のチップを1枚にまとめる「チップレット」が注目されているのにはさまざまな理由があり、消費電力もその一つだが、同社の予測では用途特化型シリコンニーズへの対応という面もある。性能の異なるチップを組み合わせることができるという設計の柔軟性を強調するためだ。

 用途特化型シリコンを展開するとき同時にそれを利用する側のソリューションの柔軟性も重要になる。アームが提供する「ネオバース・コンピュート・サブシステム(CSS)」はこれを実現するものだ。「企業はその規模を問わず、自社のソリューションを差別化・カスタマイズできるほか、特定の演算機能や用途特化型機能に向けて実行または貢献するよう各コンポーネントを構成」できる。同社が今年注力する分野と考えてよさそうだ。

前工程と後工程を結ぶエコシステム

 こうした動きに伴い、関係各社の連携がますます重要になる。複雑なサプライチェーンを形成している半導体分野では各工程の設計・製造の担い手が異なる。チップレットの肝になるのは後工程に当たるパッケージングの技術だが、それに合わせて前工程に当たる集積回路設計と歩調を合わせる必要がある。

 アームも「チップレット・システム・アーキテクチャー(CSA)」としてチップレット設計に関し60社以上との協業を結び、標準規格に向けた取り組みを進める。24年から始めた取り組みで、25年には初めて公開仕様を発表した。受託製造世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)も3次元実装に関する規格「3Dblox」を通じたエコシステム形成を行うなど、標準化に向けた取り組みは活発化している。

車載分野にも注力

 アームがこのテクノロジー予測で自動車分野にたびたび言及していることも重要。同社はSDV(ソフトウエア定義型自動車)に関しソフトウエアとハードウエアの設計・開発を分離し、各プロセスの迅速化を目指すための連携の枠組み「SOAFEE」を主導している。24年に自動車向けに「Armv9ベース」のアーキテクチャーを導入したという背景もある。ADAS(先進運転支援システム)など、今後車載半導体の分野の成長が見込まれることを受けての動きだ。

 アームのIPが寡占状態にあるスマートフォンに関しては「数十年もの間、最も重要なコンシューマー機器に」なるとしており、今後も注力する分野の一つ。そのほかにもヘルスケア、環境分野でのAIの利用やエッジAI、SLM(小規模言語モデル)の需要増加など、アームは半導体・AI分野のさまざまな成長を見込んでいる。