2025.02.25 「走るスマホ」で半導体急増、35年に17兆円規模へ

SDV半導体・電子部品需要金額見通し(出所:JEITA)

SDV1台あたりの半導体・電子部品需要額見通し(出所:JEITA)SDV1台あたりの半導体・電子部品需要額見通し(出所:JEITA)

 最新の電気自動車(EV)は「走るスマホ」とも称される。無線通信によるソフトウエアの更新で、走行性能や安全機能がスマホのように向上するためだ。ソフトウエアによって機能や性能を高められる車を「SDV(Software Defined Vehicle:ソフトウエア定義車両)」と呼び、自動車産業の大きな転換点として期待されている。

 電子情報技術産業協会(JEITA)は、SDV化による半導体・電子部品市場への影響を調査し、2035年までの需要見通しをまとめた。SDVは外部と通信しながらソフトウエアを更新し、新機能の追加や性能向上が可能となる。運転支援や事故防止機能の改善、車内エンターテインメントの充実も進む。この分野で先駆的な取り組みを行っているのが米テスラで、ソフトウエアアップデートによるブレーキ性能の向上など、従来の「クルマ」の概念を覆す動きが加速している。

 JEITAは、SDVの生産台数が30年頃から拡大すると予測している。SDVには高度な電子制御が求められるため、搭載される半導体や電子部品の需要も増大。SDV向けの電装装置は年率44%で成長し、35年には2307億ドル(約34兆円)に達することが予想されている。SDVは現在、米国と中国が主導しているが、今後は世界的にSDVの潮流が加速するはずだ。

 SDV1台当たりの半導体搭載額は、25年の平均965ドルから35年には平均1655ドルに増加することが予想されている。一方、非SDVは1250ドルと伸びが限定的で、SDVとの差は広がると見られている。電子部品も同様に増加し、SDV向けの搭載額は25年の平均125ドルから35年には平均181ドルに拡大する見込みだ。

 SDV向けの半導体市場は年率38%の成長が見込まれ、35年には1186億ドル(約17兆円)に達する見通しだ。電子部品市場も年率42%で成長し、35年には118億ドル(約1.7兆円)と予測されている。

 調査に協力したOMDIAの南川明シニアコンサルティングディレクターは、「SDV向けの半導体は、25年では車載半導体市場全体のわずか5.3%だが、35年には74%に達する見込みだ。電子部品は、25年の3.1%から35年には69%に達することが予測される」とした上で、「SDVがこれほど伸びる理由は、ユーザーにとってメリットが大きいからだ。自動車メーカーにとっても今まで売り切りだったビジネスモデルからの変革につながる」と指摘する。

 デバイス別では、アナログ半導体やディスクリート(個別半導体)の構成が大きい。SDVはEVでの普及が見込まれており、電力制御に不可欠なパワー半導体の需要が拡大。これに伴い、抵抗器やコンデンサーといった電子部品の需要も急増し、半導体市場の成長を上回る勢いとなる可能性も指摘されている。

 SDV化の進展は、半導体・電子部品市場に大きなインパクトを与えている。米中が市場をけん引する中、今後の半導体・電子部品の需要を押し上げる要因として注目するべきだ。

<執筆・構成=半導体ナビ