2025.05.08 「AI×人間」で中小企業経営者の不安解消 和歌山IT企業のモデルケースに迫る
「AIと人間の間をつなぐ人材が必要」と話す須賀氏 今回の事例でもAIの言葉を人に伝えるように分かりやすくかみ砕くことでAIを最大限に活用している
トランプ米政権の関税政策に端を発した貿易摩擦が日本経済に影を落とす中、中小企業にも経営の先行きを不安視する声が広がっている。そうした中、生成AI(人工知能)と人間の協働作業で経営者が抱く不安を解消する事例を持つのが、経営を支援するITシステムなどを手掛けるTechnologyDock(テクノロジードック、和歌山県有田川町)だ。支援先に寄り添いAIの活用事例を積み上げるテクノロジードックの執行役員で営業周りなどを担当する須賀孝太郎氏に迫った。
「先行きの資金繰りが心配だ」。和歌山県のとある中小建設企業の経営者からそんな相談が舞い込んできた。そこで立ち上がったのが、企業のIT活用を支援する取り組みで実績を積む同社だ。
ヒアリングで探る
具体的な流れはこうだ。まず経営者の表情やしゃべり方に注目し、「相手がどんな人なのか」をテーマにプロファイリング(解析)を実施。その上で、経営者が悩みを打ち明けやすいようヒアリングを重ねていく。
須賀氏が耳を傾けると、経営者は「業績が悪い」という不安を明かしてくれた。新型コロナウイルス感染症の流行中に始めた倉庫業が苦戦。本業では黒字を確保しながらも、社内の資金繰りが悪化し、経営の重荷になっていたという。
経理現場に根本原因
須賀氏は、どこか落ち込んだ表情で話す経営者の悩みの根本原因を探ろうとヒアリングを続けると、想定外の原因に行き着いた。経営者の不安の根底には、本業以外の新規事業を勧めてきた銀行の担当者ではなく、経験のない倉庫業の経理作業を任された妻の存在があったのだ。
原因を突き止めた須賀氏は、米オープンAI開発の対話型AI「Chat(チャット)GPT」に対して、妻が経理業務を行う際の心理状況に関する質問を投げかけた。
AIは入力した質問や指示に基づき膨大な回答を生成するため、その中から必要な情報を抽出する作業が必要だ。そこでAIに繰り返し尋ねて相手に伝わる文章に仕上げ、経営者への説明を尽くした。
こうした手順を踏むことで、経営者が自社で抱える課題を整理しやすくした。一連のやり取りを経て、最終的には「高額決済の処理」に強いストレスに感じていた妻の悩みを特定し、銀行決済は経営者が行うというルールの策定につなげた。このことで、経営者は不安を軽減することができた。
須賀氏は今回の事例を振り返り、「社長らしく経営を続けてもらうのがわれわれの最終目標。光る部分がある人が輝きを取り戻す瞬間にやりがいを感じる」と力を込めた。
試される思考力
人手不足や原価高、後継者不在など、中小企業は多くの課題に直面。トランプ関税も経営環境の悪化に拍車をかける可能性もあり、経営者は自社の業績や景気の先行きに警戒感を強めている。
それだけに、経営課題の解決策を生成AIなどの先進ツールで高度化する必要性が増しそうだ。とはいえ、AIに安易に頼ると、本質的な悩みの解消にはつながらない。AIに人間との丁寧な対話を組み合わせる工夫が求められる。
「生成AIに頼って考えるのをやめるのではなく、好奇心を持ってAIでさらに大きなことをしようと頭を使うことが大切だ」と須賀氏。
生成AIにどう向き合うかを模索する中小企業が幅広い業種で増える中、AIと人間を巧みに協調させた同社の事例は、「協働」のモデルケースの1つとして注目を集めそうだ。