2025.07.18 AIで進化するコンタクトセンター モビルス提供ツールの導入事例に迫る
クオリカでDXを推進する伊藤氏(左)と、モビルスの技術担当者長谷部氏
人工知能(AI)を活用してコンタクトセンターの応対品質と業務効率を高める――。企業の顧客対応を支援するモビルスが、そんな取り組みで存在感を放っている。顧客との接点はどこまで進化したのか。AIでオペレーターの回答をサポートする同社の「MooA CommNavi(ムーアコミュナビ)」の導入事例に迫った。
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ムーアコミュナビは、顧客と電話でやり取りする際にリアルタイムで音声認識し文字起こしを行うツールで、生成AIが通話内容の意図を抽出し、高精度に要約することもできる。
コンタクトセンターで働くオペレーターは、顧客の質問に答えるだけでなく、寄せられた問い合わせからニーズや不満などを吸い上げるスキルも求められる。さらに同施設の業務は経験に基づく暗黙知に左右されるため、応対品質を均一化する体制づくりも望まれていた。
■応対品質を均一化
こうした課題に対応しようとムーアコミュナビのPoC(概念実証)を昨年7月から始めているのが、ITサービスを手がけるTISインテックグループのクオリカ(東京都新宿区)だ。技術的な問い合わせに応じるテクニカルサポートセンターに取り入れた。
ムーアコミュナビを業務の効率化と応対品質の向上につなげるため、「AIのチューニング」に徹底的にこだわった。具体的には、人間の知識・経験の言語化やプロンプト(指示文)の設計など、技術と運用の両面を細かく調節している。
すでに同社は、電話の問い合わせ対応をAIで自動化するシステム「MOBI VOICE(モビボイス)」を採用。受け付けた電話問い合わせのうち9割を同システムのみで対応し、ピーク時のオペレーターへのコール件数を30%削減した。こうした展開を通じて築き上げた信頼関係が、ムーアコミュナビを採用した背景にあるという。
■新人の生産性向上
クオリカでデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進役を担う伊藤貴寛氏が注目したムーアコミュナビの導入効果は、経験が浅いオペレーターでも高い応対品質を実現できる点。伊藤氏は、新人オペレーターが1時間に取れる電話の件数が1回ほど増えるという効果を見込んでいる。
モビルスの技術担当者である長谷部幸祐氏も、ムーアコミュナビを現場で最大限に生かせるよう奔走。「生成AIで何をしたいという目的がはっきりと見えていたため、ぶれずに対応出来た」と振り返る。クオリカの要求に寄り添う中、「製品の柔軟な対応の重要性にも気づいた」という。
■人材面の課題解決
コンタクトセンターを運営する事業者は、オペレーターの採用で苦戦し、退職に伴う欠員の補充に追いつかない状況が続いている。
厚生労働省がまとめた2024年上半期の雇用動向調査結果によると、同施設を含むサービス業の離職率は9.9%で、全体で2番目に多かった。クオリカも同様の課題に直面していた。
モビルスは、今後も顧客対応の事例を積み上げ、新たなサービスの創出につなげることを狙う。
現在、顧客が問い合わせる行為「コールリーズン」を多元的に解析し、数値として表すシステムの開発を推進。その情報を顧客が電話をかける前の「入り口」の振り分けなどに生かすことを想定している。こうした仕組みをクオリカに適用する可能性も探りたい考えだ。
長谷部氏は「通話中に得られる材料を有効活用するとともに、多様な顧客の質問にシームレスに答えることができる世界を(クオリカと)ともに目指したい」と意気込みを語る。
「どこを自動化してどこを手動にするのかといった線引きを行い、次の課題にも対応したい」と伊藤氏。顧客との接点を変革する両社の挑戦から、今後も目が離せない。