2025.09.13 SMBCグループ、シンガポールにAI新会社を設立 業務変革を加速

取材に応じる三井住友フィナンシャルグループデジタル戦略部長の松永圭司氏=東京都千代田区

中島達社長グループCEOを模したAIアバター中島達社長グループCEOを模したAIアバター

 三井住友フィナンシャル(SMBC)グループは、人工知能(AI)を活用したソリューションを開発・提供する新会社をシンガポールに設立した。これを弾みに、グループ全体でAIによる組織・業務体制の変革を加速。培った知見や実績を土台に、AI関連ソリューションの外販も目指す。メガバンクグループのAI戦略に迫った。
  ◇  ◇
 SMBC グループは米マイクロソフトアジア社長を務めたアーメッド・ジャミール・マザーリ氏と共同で、今回の新会社を8 月に設立した。SMBC グループは、マジョリティー(過半)の株主となる出資を行う予定。

 マザーリ氏は新会社のCEO(最高経営責任者)に就任し、SMBC グループのAIトランスフォーメーションアドバイザーも務める。

 新会社では、AIが自ら判断し自律的に業務をこなす「AIエージェント」に関する企業向けソリューションの開発から、導入支援まで取り組む。

 さらに、SMBC グループのAI関係各部と外部のAI人材で構成される「AIトランスフォーメーション専任チーム」の立ち上げ準備も開始。新会社は同チームと連携し、AI戦略を強力に推進する方針だ。

将来的には外販も

 AI関連ソリューションは、まずSMBCグループを対象に展開。将来的には、グループの取引先をはじめとする法人顧客へ提供する予定。5年後に売上高で約200億円を達成する目標も掲げた。

 デジタル戦略部長の松永圭司氏は「AIによるトランスフォーム(変革)を促すためには、技術だけでなく、ビジネスやオペレーションの視点も重要だ」とした上で、変革に必要な経験を豊富に積むマザーリ氏の手腕に期待感を示した。

 シンガポールには、AI戦略を展開しやすい地理的な利点があった。松永氏は「グローバルベースで優秀な人材を集める際に有利なポジションにあり、物理的な近さも魅力。AIに関する権利の保護も進んでいる」と評価する。

 こうした地の利を生かし、人材の獲得や育成に加えて、AI活用を支えるデータインフラの整備も進め、カルチャー変革につなげることに意欲を示した。

 AIエージェントの用途として想定しているのが、法人顧客の口座開設や送金手続きなどだ。財務・経理業務などを後押しするソリューションを外部企業に提供することも視野に入れている。

500億円の投資枠

 SMBC グループは生成AIを自社の業務に役立てようと、専用の投資枠を設定。2029年3月期までに500億円を投じ、独自のAIシステム開発を進める計画だ。例えば、AIシステムを個人・法人分野の営業や広範なサービスに取り入れる。

 すでに SMBC グループは23年7月、大手銀行グループの中でいち早く、専用環境で動作する従業員向け生成AIアシスタントツール「SMBC-GAI」を開発し、利用を始めた。

 ツールの利用回数は発表当初、1日5000~6000件だったが、徐々に拡大。現在、同4~5万件程度で推移している。用途も広がり、アイデアや提案を磨き上げる壁打ちでもAIが威力を発揮している。

進化の速さに対応

 8 月には三井住友銀行が、中島達社長グループCEOを模した「AI-CEO」の運用も始め、従業員が相談相手として使用しているという。

 「AIが企業の経営課題に及ぼすインパクトは大きい。AIの進化のスピードに合わせて投資枠を生かし、試行的な動きをどんどん進める」と松永氏。AI時代を見据えたSMBCグループの挑戦から今後も目が離せない。