2026.08.31 【ソリューションプロバイダー特集】AI展望㊤ 生成AIから「AX」へ エージェント、業務再設計の核に

AIやデータを活用したものづくり現場の強化に向け、搬送ロボットなどを紹介した=2月4日、東京都港区の大塚商会「実践ソリューションフェア2026」AIやデータを活用したものづくり現場の強化に向け、搬送ロボットなどを紹介した=2月4日、東京都港区の大塚商会「実践ソリューションフェア2026」

フィジカルAI、社会実装が加速

 AI(人工知能)の活用は、文章作成や要約を効率化する段階から、業務プロセスを組み替え、事業や組織を変革する「AX(AIトランスフォーメーション)」へ進み始めた。複数の作業を自律的に進めるAIエージェントの導入が広がり、IoTやロボットと結び付いたフィジカルAIも現場実装へ動く。市場が急拡大する一方、データや計算基盤、人材、ガバナンスの整備が成否を左右する。2026年はAIを「使う」競争から、成果を生む業務基盤として「組み込む」競争への転換点となっている。

生成AI、実証から業務の中核へ
 国内企業の生成AI活用は、個人の試用やPoC(概念実証)から、全社展開と業務への組み込みに移りつつある。三菱電機では、設計・コーディングの効率化、テスト自動化、バックオフィスなど約160の生成AIプロジェクトが進む。個人の作業支援にとどめず、業務の置き換えや社内で得た知見のサービス化も視野に入れる。現場機器やロボットを自律制御するフィジカルAIを重点領域とし、クラウド利用に伴うコスト、遅延、セキュリティーに対応するため、エッジで動く小規模言語モデル(SLM)の研究も進める。

 日立ソリューションズ・クリエイトは、セキュア生成AIチャット「CreAIPont(クリエイポン)」を社内開発し、約3000人が活用する。社員1人当たり年間約10時間の効率化につながった実績を基に外販し、中堅・中小企業が小さく始められる環境を提供する。生成AIは導入の有無を競う段階を越え、利用率や時間削減、売り上げへの寄与など成果を測る局面に入った。

 市場も拡大が続く。IDC Japanによると、国内AI市場の支出額は2025年の2兆3725億円から、29年には2.9倍の6兆8897億円へ急成長する。24~29年の年平均成長率は36.0%で、29年には国内IT市場全体の20%を占める見通しだ。中でもAIエージェントの成長を背景に、AIソフトウエア市場は年平均48.9%の高い伸びを見込む。

 企業で生成AIを実利用する割合は25年末に5割を超えた。一方、PoCで期待した効果を得られなかった経験がある企業は6割に上る。翻訳や要約など汎用的な業務支援だけでは、十分な価値を引き出しにくい。企業の関心は、AIを業務ワークフローに組み込み、自動化や自律化につなげる活用へ移っている。IDC Japanは26年を、AIエージェントの実ビジネス適用が本格化する年と位置付ける。

AIエージェント、業務を再設計
 次の焦点は、利用者の指示を受けて計画を立て、必要なデータやシステムを使いながら複数の作業を進めるAIエージェントだ。25年は「AIエージェント元年」と呼ばれたが、26年は実業務で価値を検証する段階に移る。全面的な自律化を急ぐより、定型業務を確実に処理するAIワークフローから始め、人の承認を挟みながら対象を広げる動きが現実的となっている。

 顧客接点では、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)がAIエージェントのサービス群を展開する。コンタクトセンターで発生する音声やテキストをAIが分析し、応対の自動化、人員配置の最適化、カスタマーハラスメントの早期検知などを支援する。人手不足への対応だけでなく、顧客体験の向上と従業員の負担軽減を両立させる狙いだ。

 NECネッツエスアイは「AI Agent Ready」プロジェクトを立ち上げ、自社の実業務でAIエージェントを動かし、ネットワーク、セキュリティー、運用面の実効性を検証する。安全な通信環境に加え、振る舞いの分析による異常検知や自動遮断まで含めた運用モデルを探る。AIエージェントは単体のソフトではなく、社内システムやクラウド、認証基盤を横断するため、導入前の基盤設計が欠かせない。

 行政利用も大規模化した。デジタル庁は5月、全府省庁の政府職員約18万人を対象とするガバメントAI「源内」の大規模実証を開始した。5月29日時点で約10万人が利用できる環境を整え、対象を順次広げる。民間だけでなく行政でも、生成AIを日常業務の共通基盤に据える動きが始まった。
現場データとAIを一体化

 AIの適用先はオフィスから建設、製造、物流などの現場へ広がる。ソフトバンクとMODEは4月、生成AIとIoTを使った現場DXの加速に向けて資本業務提携した。MODEの現場データ統合・構造化技術と、ソフトバンクの生成AI、データ主権を確保したクラウドサービス、通信ネットワーク、法人顧客基盤を組み合わせる。

 MODEのIoTプラットフォーム「BizStack」は、設備や場所などの管理対象を「エンティティー」として捉え、分散する現場データを整理・統合する。スマートフォンやタブレットからチャットで質問するだけで必要な情報を確認できる。鹿島が一部の建築工事現場で試用し、点検・確認業務では1現場当たり月間50時間の工数削減につながった例もある。両社は製造業の設備保全、品質管理、構内物流、在庫管理などへ用途を広げる。

 フィジカルAIでは、AIがカメラやセンサーから現実世界の状況を理解し、ロボットや機械の動作まで担う。実用化にはAIモデルだけでなく、センサー、通信、エッジ処理、制御、安全設計を一体で整える必要がある。現場に蓄積されたデータをAIが使える形に変え、判断や動作へ結び付ける力が競争軸となる。

実装支える土台づくり
 政府は7月、人工知能基本計画を閣議決定した。AIの研究開発力や産業競争力を高めるとともに、安全性と信頼性を確保し、社会全体で活用する基盤づくりを進める。国産AIやデータ主権を重視するソブリンAI、半導体、データセンター、通信網への投資も重要性を増す。

 企業側には、利用目的に合ったデータの整備、API連携、権限管理、ログ監視、費用管理が求められる。AIの回答をそのまま使わず、人が検証する運用や人材育成も重要だ。単発のPoCでは成果が限定されやすく、経営課題と業務要件から適用範囲を定め継続的に改善する必要がある。

 生成AI、AIエージェント、フィジカルAIは個別の流行ではない。デジタルの世界で得た判断を実業務や現実世界の動作につなぎ、企業や行政の仕組みそのものを変える連続した潮流だ。利便性と安全性を両立させ、AIを成果へ結び付ける実装力が問われている。