2020.07.09 【家電流通総合特集】 家電量販店各社、今年度増販めざすニューノーマル対応の販売体制確立へ

緊急事態宣言発令下では、都市部を中心に営業自粛を余儀なくされた(ヨドバシカメラAkiba=5月)

 新型コロナウイルスの感染拡大で需要構造が変化する中、家電量販店各社は、「ニューノーマル(新しい日常)」に対応する販売体制の確立を急いでいる。臨時休業や時短営業も一部店舗では続き、業績への影響も出ているが、巣ごもりやフィットネスなど新たな商機を捉えるとともに、インターネット通販や非家電を取り入れた売り場づくりなどで、各社は今年度も増販を目指していく。

3月期連結、大手5社中3社が営業増益

 上場している大手量販店の20年3月期決算は、5社中3社が通期で増収営業増益となった。

 3月を中心に新型コロナの影響を強く受けたものの、消費税増税前の駆け込み需要に加え、テレビや冷蔵庫、洗濯機など高付加価値品の販売が伸びた上期実績に支えられた。

 下期は、駆け込み需要の反動や電気通信事業法の一部改正による携帯電話の需要低迷などが販売に影響。量販店各社は当初から厳しい見通しを立てていたが、10月の大型台風や暖冬、新型コロナ感染拡大と予想を上回る事態に直面した。

 その半面、テレビの買い替え需要が本格化し4Kテレビを中心に販売が伸びると同持に、ウインドウズ7のサポート終了によるPCの買い替えも販売を後押し。

 新型コロナでテレワークが急激に企業間で普及し、PCやヘッドセット、マイクなどの需要拡大はあったが、下期に限ってみると全体的にはマイナス影響をカバーするには至っていない。

 特に新型コロナの影響を強く受けたのは、ビックカメラやヨドバシカメラだ。レールサイド戦略を取る両社は都市部に店舗が集中している。ビックカメラは、45店中18店をピーク時に臨時休業。ヨドバシカメラは23店中16店を一時休業するなど、売上げも大きな影響を受けた。

新型コロナ、郊外型で影響軽微

 ただ、新型コロナの影響は3月が中心だったため、各社とも通期業績で大幅な売上げ減にはなっていない。郊外型店舗を中心とする量販店はさらに業績への影響は軽微だ。

 郊外型と都市型両形態の店舗を持つヤマダ電機は「テックランドなどの郊外型が好調で都市型とは対照的だ。特に東京都心部のLABI店舗は、新型コロナの影響が非常に大きい」(山田昇会長)とする。都市部と郊外では緊急事態宣言や外出自粛の影響による温度差が発生しており、それが3月ごろから量販の業績に影を差している。

 郊外型が堅調なのは、ケーズホールディングスの業績を見ると分かりやすい。

 20年3月期を増収営業増益で締めたケーズは、当初21年3月期の業績予想を発表していなかった。エディオンを除き各社ともに業績見通しを未定とする中、ケーズは6月16日に業績見通しを発表。新型コロナの影響を寄せ付けず、増収増益の見通しを示した。

 その中でケーズは「郊外立地により新型コロナウイルスのマイナス影響は限定的」との見方を示した。出退店計画についても大幅な遅れはなく、逆にテレワーク需要や巣ごもり需要の特需が発生し、業績にプラスに働くとする。受注ベースであって決算などで使う出荷ベースとは異なるが、5月は2割以上、6月は4割以上前年から売上げを伸ばしている。

 ケーズに限らず、ビックカメラグループのコジマも郊外型が中心のため、業績は比較的堅調だ。ただ、都市部の店舗にしても、緊急事態宣言解除後は客足が確実に戻ってきている。ボーナス支給と合わせて夏商戦も本番を迎えており、ビックカメラでも6月のエアコン販売が前年比1.5倍に増えるなど勢いが増している状況だ。

 こうした中、量販店各社は独自の方向性を明確にし始めている。

 ヤマダ電機は、昨年末に子会社化した大塚家具商品を取り入れた新たな店づくりを推進。ネット通販と実店舗の融合を目指した「YAMADA web.com」によるネット事業にも本腰を入れている。

 ビックカメラはネット通販の強化に向けて、千葉県船橋市にある物流拠点を従来の1・7倍に拡大し3月に稼働を開始。4月からは運搬、保管、管理の業務領域を拡大するために、これまでの「物流本部」の名称を「ロジスティクス本部」に改称して、ネット事業に注力する方向性を打ち出している。

 ノジマも株式を取得していたスルガ銀行を6月に関連会社化するなど、新たな取り組みを加速している。

 新型コロナは、これまでと違う取り組みの必要性を量販店にも実感させている。浸透しつつあったネット通販による家電関連商品の購入も、コロナ禍が一段と推し進めている。これまでネット通販では購入されにくかったフィットネス機器も売れるようになった。

 「ウィズコロナ」を見据え、状況に応じた店舗へと今のうちに改装しようとする動きも出てきている。社会環境に応じて変化しやすいニーズに柔軟に対応し、需要をつかむ--。量販店各社の21年3月期の業績は、その対応力の差によって明暗が分かれそうだ。