2020.07.15 【照明特集】ストックのLED化推進新しい需要の〝芽生え〟も期待
住宅分野では「ニューノーマル」による新たな需要への期待も高まる
新型コロナウイルスの感染拡大が社会生活に影響を与える中、照明市場への影響は今のところ限定的だ。住宅分野における照明器具の出荷減は、新築住宅の着工件数減少がもともと予想されていただけに、想定されていた。非住宅分野でも工事の延期などの影響にとどまっている。ただ、今後は在宅勤務の定着でオフィス面積を減らす企業の動きも表面化してきており、照明市場への影響にも注視していく必要がある。
「想定以上に健闘している。非住宅でもマンションのリニューアルなどは新型コロナ禍でも変わらず続いている」。そう語るのはオーデリックの伊藤雅人社長だ。
新型コロナの感染拡大に伴う部品調達の問題などから、照明器具の一部で納品が遅れるなどのことは一時的に発生していた。また、緊急事態宣言下では工事の延期なども発生していたが、そうしたことも現在では解消されつつある。
影響はゼロではないが、以前から続いている集合住宅における照明設備のリニューアルといったストック(既設照明)市場をターゲットにしたLED化は、堅調に動いているという。
半面、飲食関係といったコロナ禍の逆風を直接的に受けている厳しい業種では、設備投資の中止または延期が予想される。そうした影響は現状、さほど表面化してきていないが、今後は照明市場にも影を落としそうだ。
在宅勤務でオフィスへの出社が減り、これまで通りのオフィス面積を保有する必要がなくなったという企業も出てきている。
新しい日常に対応
富士通は6日、国内のオフィス面積を22年度末までに現状の50%程度まで減らすと発表。トレーニングジム大手のRIZAP(ライザップ)も本社(東京都新宿区)や、グループ会社の本社オフィスを現状の半分以下にする目標を掲げるなど、「ニューノーマル(新しい日常)」への対応を掲げる企業が出始めている。オフィス需要が減ればそれだけ照明需要にも影響が出ることになるため、今後はこうした動向にも注視していかなければならない。
一方、新しい需要の〝芽生え〟も期待されている。
家電やフィットネス機器などでは、在宅時間が増えたことによる「巣ごもり」で需要が急増した製品がある。照明でも、自宅で過ごす時間が増えると家庭内の環境を快適にしようとするため、注目が集まると予想する照明メーカーが出てきた。
例えば、前から気になっていた光色を変更したり、照明をIoT化したりと、これまで重視していなかった照明の交換需要につながることが見込める。住宅関連では、新しい生活様式に対応する照明の新たな需要に向けた提案も今後の鍵を握りそうだ。
CSLとHCLで市場を底上げ
国内の照明市場は、国内にある17億2900万台のストック需要(日本照明工業会〈JLMA〉推定)のLED化が今後の最大のテーマだ。ストックのLED化率は20年3月末で46.3%に達しており、50%までは目前といったところだ。
JLMAの目標は20年度でストックのLED化率50%、25年度で同75%、30年度で100%だ。30年度のLED化率100%は政府目標にもなるため、それに合わせてロードマップを作成している。
JLMAの統計では、照明器具の4月の国内出荷台数は、従来光源を含んで494万4000台で前年から6.2%減少。LEDに限ると約5%の減少となった。
非住宅分野の屋外用LED照明は、前年比4.7%減となったが、金額ベースでは同10.4%増など単価アップが進んでいる面もある。逆に住宅用LED照明は台数以上に金額の減少幅が大きく、同13.5%減で推移した。
こうした市場環境はしばらく続きそうだ。全体的に見ると、住宅着工件数の減少など照明市場を押し上げる要因がなかなか見つからないからだ。
そうした中、市場の底上げ効果が期待されるのが、CSL(コネクテッド・スマート・ライティング)と、HCL(ヒューマン・セントリック・ライティング)だ。
新たな価値を創造
CSLは、照明のIoT化を生かし、AI(人工知能)やビッグデータなどと連携することで、様々な機器ともつながって新たな価値やビジネスの創造を目指す方向だ。HCLでは、IoTやAIなどの技術を駆使し、人に優しいあかりの実現を目指している。共にIoT時代の照明に求められる機能・性能を目指す方向性だ。有機EL照明も質の高いあかりで存在感を発揮しつつある。
照明市場自体は、LED照明の普及が進んだことで成長期から成熟期へと突入している。国内照明器具の年間出荷台数は2年連続で前年を割り込んでいるのがその証拠だ。今後、継続的な成長につなげるためには、高付加価値製品の普及拡大により、LED照明へのリニューアル促進と新規ビジネスの創出が重要とJLMAは指摘する。
新型コロナとの共存が求められる中、照明メーカーもニューノーマル(新しい日常)を視野に入れた戦略が重要になってくる。