2020.09.18 【ASEAN特集】法定最低賃金動向最大9%程度の改定

 ASEAN地域では、経済成長とインフレの進展、外資系企業の工場進出増加などを背景に、各国の法定最低賃金の上昇が続いている。このため、現地に進出している日系電子部品メーカーでは、継続的な生産革新活動や、生産ラインの自動化・省力化推進といった、生産性向上への取り組みに全力を挙げている。

 ASEANでの工場ワーカーの法定最低賃金上昇は「チャイナ+1」としてASEAN再投資の機運が高まってきた10年ごろから加速した。

 特に10年代前半から中盤にかけては、それまでローコストオペレーションが特徴だったインドネシアやベトナムでの法定最低賃金が急上昇した。ここ数年は一時期に比較すると上昇率は鈍化しているが、それでも国によっては毎年1割近い金額の改定が実施されている。20年も大半の国で、数%から最大9%程度の改定が実施されている。

 ベトナムでは、今年1月の改定で、最も高額な第1地域(ハノイ、ホーチミンなど)の法定最低賃金が従来比5.7%上昇した。インドネシアでは、今年1月の改定で、首都ジャカルタ市の法定最低賃金が8.5%引き上げられ、427万6349ルピアとなった。

 多くの日系企業が工場を構えるタイでは、18年4月の賃金改定(日給)により、全77都県で引き上げが実施され、バンコク周辺の法定最低賃金は従来比15%増の325バーツに改定された。一方、19年と20年の賃金改定はとどまっている。タイでは年によっては法定最低賃金改定が見送られるケースもあるが、タイ進出の日系製造業などでは、一般的に毎年5%程度の初任給の改定を実施している。

 マレーシアでは、13年1月に初めて製造業の法定最低賃金制度が導入され、その後、ほぼ2年に1回ペースで最低賃金が改定されている。20年2月には国内56都市で最低賃金が引き上げられ、クアラルンプール周辺は従来比9.1%増の月額1200リンギットに改定された。マハティール政権では、将来的には法定最低賃金を月額1500リンギットまで引き上げる方針を表明している。

 フィリピンの法定最低賃金は、ほかのASEAN主要国と比較すると上昇幅が緩やかで、ここ数年は毎年日給で10ペソから20ペソ程度の賃上げが行われてきたが、18年11月の改定では、従来比25ペソ増(4.9%増)と、やや幅のある改定が実施された。19年の改定は見送られた。

 国によって最低賃金の定義は異なり、また、実際の給与水準と法定最低額との乖離(かいり)が激しい地域もあるため、単純比較ができない。それでも、ASEANの工場ワーカーの賃金はシンガポールを除けば、中国沿岸部との比較では割安となっている。

 最低賃金の引き上げは、国民の消費力向上により経済発展につながるが、急激すぎる人件費高騰は現地進出企業には負担となる。このため、現地進出の日系電子部品メーカーは、徹底した無駄の排除や生産の見直し、業務の高付加価値化を進めることで、収益力の向上に努めている。