2020.10.16 目指せ、台風発電 ベンチャーのチャレナジー沖縄・石垣島で量産化に向け実証進む
石垣島に建設された実証用のマグナス風車
「台風発電-」。巨大なエネルギーの塊である台風を発電にも活用しようという実証が、沖縄県で進んでいる。
既存の風力発電機では、強い風でプロペラが破損する恐れなどがあり、新たな発電機の開発が不可欠だ。
東京都墨田区のベンチャー企業が、データを収集しながら装置の改良を続け、量産化に向けて動き出している。
実証を進めるのは、14年10月に設立したチャレナジー。「エネルギー」分野で「チャレンジ」していくという創業者の清水敦史CEOの思いが社名となり、風力発電機開発に特化して事業を続ける。
そもそも、大手電機メーカーの技術者だった清水CEOが、再生可能エネルギーに着目を始めたきっかけは11年3月の東日本大震災による福島原発事故だ。
特許が申請された技術などを学び続け、たどりついたのが「次世代型」と呼ばれる風力発電機だった。
独自技術で強風にも対応
チャレナジーは20年10月、同社が開発した風力発電機が、台風下で発電できた瞬間風速を更新したと、発表した。プロペラ式では対応できないとされる秒速25メートルを大きく上回る同30.4メートルの強風下でも発電を実現した。
同社が実証を進めるのは、「垂直軸型マグナス式風力発電機」(マグナス風車)と呼ばれ、一般的な風車のようにプロペラはない。円筒形を風の流れの中に置くと、流れの方向に対して垂直に「マグナス力」が働く。
この力に注目して、同社が開発したのが、マグナス風車。マグナス力を活用して、メリーゴーラウンド状に回る垂直軸を組み合わせた風力発電は独自の技術だ。
国の試算では、大型の台風一つで、国内の総発電量の約50年分に相当するというほど台風のエネルギーは膨大だ。
一般的なプロペラ式は風の速度や向きが安定している時に効果的に発電できるが、台風下など、両方が急激に変化する場合には対応できない。
既存のプロペラ式は破損の恐れなどがあるため、秒速25メートルを超えると発電が止まる仕組みになっているという。
新たなマグナス風車では、制御できる風速域が格段に広がり、秒速4-40メートルまで対応できる。国内を通過する通常の台風の瞬間風速は、同30-40メートルほどといい、たいていの台風をカバーできる。
技術的に台風に耐えられる構造を作っても、量産化には、実際の自然条件下で稼働させる実験は避けて通れない。大型の台風を待つ日々が始まった。
フィリピンでも新たに実証へ
まずは、16年8月に、沖縄県南城市で、最大出力1kWの小型実証機を稼働させた。創業間もないころで、資金はクラウドファンデングで支援者らに募った。
さらに、18年8月からは沖縄・石垣島に移り、最大出力10kWの実証機を臨海部に設置。約2年間にわたり、台風などの下でデータ収集に努めてきた。
技術的なシミュレーション上は秒速40メートルまで発電可能な仕組みだ。だが、大型台風が直撃する機会がなく、実際に発電できた記録は、18年10月の台風25号時に記録した秒速24メートルが、最大値だった。
この記録が更新できたのが20年8月。同月1日には、沖縄の南方の海上で発生した台風4号が発達しながら、石垣島に接近。3日未明には暴風域に入り、石垣市内で正式な最大瞬間風速は秒速36.4メートルに達した。
同社の実証機では、これまでの記録を上回る同30.4メートルが計測され、この強風下で発電を成し遂げた。
同社は「今回の記録更新で、プロペラ式では耐えられない強風下でも、マグナス風車が発電できることが明確に実証された。その意義は大きい」と説明する。
今後は、コストダウンなどさらに量産に向けて改良を進めながら、21年1月には、フィリピン北部のバタネスに新たな実証機を設置する。
台風が強い勢力を維持したまま通過しやすい地域であり、秒速40メートル下での発電を実証させたい考えだ。
また、フィリピンの島しょ部には送電線網がなく、島ごとに電力調達している地域が多く、そうした地域にマグナス風車を普及させていくことも視野に入れる。
国内などでも来年度中に受注を開始。非常用の独立電源として自治体の防災拠点付近などでの導入を目指していくという。
同社は「太陽光など再エネの選択肢がとれない地域は、台風やハリケーンなどの頻繁な通り道が多い。台風は災害のイメージがあるが、エネルギーももたらしてくれる。そういう良い面を活用していく設備として売り込みたい」と語る。